第9惑星ビニル

見た映画の感想を書き綴ります。

映画感想『イコライザー2』銃を突きつけて「君は何にでもなれるんだよ」と教えてくれる

f:id:sexualrocker:20181030003627j:plain

原題:The Equalizer 2
製作年:2018年
製作国:アメリ
監督:アントワン・フークア
出演:デンゼル・ワシントンペドロ・パスカル、アシュトン・サンダース、ビル・プルマンメリッサ・レオ

あらすじ:元CIAエージェント現タクシードライバー兼必殺仕事人のロバート・マッコールさんの元上司が何者かに殺されました。

「ナメてた相手が実は殺人マシンでした」映画の傑作として名高い『イコライザー』の続編。同じデンゼル・ワシントン主演&アントワン・フークア監督コンビということで派手なアクションを期待して臨みました。が、いい意味で裏切られたというか「えっそういう映画だったの!?」と不意を衝かれて思わず感動してしまいました。確かに爆発や銃撃、前作同様のDIY殺法(閉鎖空間で身近なものを使って複数人を秒殺するマッコールさん十八番の殺法)など派手なシーンはありましたが、シーンの節々に作り手側の切なる願いのようなものを感じました。

物語中盤で主人公ロバート・マッコールと同じアパートに住む美術学生のマイルズがギャング団に片足を突っ込んでしまいます。それを知ったマッコールさん、ギャングのアジトに当然のように手ぶらで侵入してあっさり制圧します。マッコールさんは青年を助け出し厳しく叱ります。「絵描きになるんじゃなかったのか」「2キロの力だ。2キロの力を加えるだけでいい」「人殺しになりたければ引き金を引け。簡単だほら撃ってみろ」「チャンスはあるんだ。生きてる間に使え」「お前は死を知らない」。この出来事(制圧と説教)をきっかけに青年はマッコールさんを慕うようになり絵を描き始めるのです。

前作『イコライザー』も「弱きを助け強きを挫く」話でしたがあちらはどん底にある娼婦の少女を救うという話であり、今作は悪に染まってしまいそうな青年を引き止めるという話になっています。一度悪に染まってしまった人間はどうなるのか。青年は後に身をもって経験することになります。まさにこの映画冒頭でマッコールさんが投げかける「世の中には二種類の痛みがある。体の痛みと改心の痛みだ。どっちを選ぶ?」という問いかけにも繋がっていくのです。

単純で派手なアクション映画にもできそうなこの続編、なぜこのようなメッセージ性の強い映画になったのか。僕はアントワン・フークア監督の出自と、現代の黒人社会の潮流が関係していると考えます。

フークア監督はピッツバーグの治安の悪い地域出身。少年期に黒澤明監督の映画を見て映像作家を志すと同時に「正義と自己犠牲」について学んだといいます。

彼の映画を全作品見ているわけではないのですが、「この世にはどうしようもない悪があると同時にゆるぎない正義もある」というテーマを感じることがあります。それは治安の悪い地域でもギャングになることなく映像作家への道を進んだ監督自信の信念と、同じような境遇にある若者たちもそうあってほしいという願いのようなものなのかもしれません。

僕が本作を見て連想したのは同じく2018年公開の映画『ブラックパンサー』でした。『イコライザー』でフークア監督が荒れたボストンの地に"闇の天使"マッコールさんを降臨させたことと、『ブラックパンサー』でライアン・クーグラー監督が自身の出身地オークランドのスラムにブラックパンサーを降臨させたことが重なりました。もちろん1960年代に実在した政治組織ブラックパンサー党オークランドで結成されたから、という文脈もあると思うんですが映画ラストでスラムの少年に微笑みを投げかけるティ・チャラを見るとライアン・クーグラー監督の「そうあってほしい」という願いを感じてしまうのです。

思い返せば『ブラックパンサー』のサントラを担当したケンドリック・ラマーもコンプトン出身でした。あの映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』でもおなじみのN.W.A.を生み出した治安最悪の犯罪都市です。そして上記の例同様、ケンドリック・ラマーもギャングになることなく真面目に勉強する学生でした。彼はその経験や思想をラップで表現し、ヒップホップ史上初のピュリッツァー賞を受賞することになります。

地域社会とストリートギャングの生活を描く"フッド・ムービー"といえば「ギャングだらけの土地で生まれて俺もギャングになったぜ」というものでしたが、ここ最近は「ギャングだらけの土地だけど俺は真面目に生きるんだ!」というテーマに変化しつつあると聞きます。ケンドリック・ラマーのような若い世代がそういうメッセージを発信し、彼らより一回り上の世代のアントワン・フークア監督がそれを応援するような作品を作るこの美しい構造に胸が熱くなります。

「○○人だから、○○出身だからというだけで君の人生は決まらないんだよ」「君は何にでもなれるんだよ」という作り手の強くやさしいメッセージを感じる映画が増えるのはとてもうれしい。そんなことを関節を逆方向に折ったり銛で心臓を貫いたり爆発で内臓がはみ出たりする映画で感じました。


・『イコライザー


傑作です。敵や悪の拠点が映った次のカットではもう全滅しているという所謂「イコられ」を堪能できます。マッコール(大塚明夫)と悪役テディ(山路和弘)のハマりが素晴らしい吹替版もおススメです。

 

・『ムーンライト』


絵描きを目指すマイルズ君(アシュトン・サンダース)出演作。繊細で心に深い傷と人には言えない悩みを秘めた青年期の主人公役を見事に演じています。

 

・『マグニフィセント・セブン

『荒野の七人』を原案としたアントワン・フークア監督による西部劇。絶対的な正義と自己犠牲ここにあり。全てがかっこよくて大好きな映画です。

 

・『ブラックパンサー

王家とストリートの切ない対決。僕は「タイマンはったらダチ」精神を持つエムバク派です。

 

・『ブラックパンサー ザ・アルバム』

最高の映画と最高のサウンドの組み合わせ。

 

・『ストレイト・アウタ・コンプトン』

HIP-HOP史上最も過激と言われたクルーが実は近所の気のいい兄ちゃんたちだったということを教えてくれるフッド・ムービー。友情のきらめきと終わりの切なさを描く青春映画でもあります。

 

・闇の天使

natalie.mu

フークア監督がマッコールさんのことを"闇の天使"と呼ぶ動画はこちら。劇場版パンフレットでも同じようなことを語っていました。

 

・リアルマッコール

eiga.com

マイルズ君(アシュトン・サンダース)がデンゼル・ワシントンの素晴らしさを興奮気味に語る動画はこちら。劇中のマッコールさんと現実のデンゼルの言動がほぼ同じということがわかります。