第9惑星ビニル

見た映画の感想を書き綴ります。

映画感想『ボヘミアン・ラプソディ』愛にすべてを

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原題:Bohemian Rhapsody
製作年:2018年
製作国:アメリ
監督:ブライアン・シンガー
出演:ラミ・マレックジョセフ・マッゼロベン・ハーディ、グウィリム・リー、ルーシー・ボイントン、マイク・マイヤーズ、アレン・リーチ

あらすじ:1970年イギリスでクイーンというバンドが結成されました。

いやー素晴らしい映画でした。個人的にクイーンは親の影響で好んで聞いていて、バンドについてはメンバーの名前と顔とある程度の生い立ちぐらいしか知らないレベルなのですが深く感動しました。クイーンの曲はちょっとしか知らない!とか「ジョジョの奇妙な冒険」の4部や「魁!!クロマティ高校」でしかクイーンのことを知らない!という方でも確実に熱く心を揺さぶられる映画になっていると思います。

ボヘミアン・ラプソディ』は『ユージュアル・サスペクツ』や『X-メン』シリーズでおなじみのブライアン・シンガー監督の満を持してクイーン伝記映画、ということだったのですが…実際は監督が途中降板、急遽デクスター・フレッチャー監督が後処理を行ったという経緯がありました。この映画の何割がブライアン・シンガー監督の目指したものなのかはわかりませんが、映画終盤までどんどん物語を盛り上げて最後にエモーションを爆発させる作りはブライアン・シンガー映画っぽいなと思いました。おそらく周りのスタッフや俳優陣の努力もあったのでしょう。そんな監督交代劇のドッタバタを全く感じさせない堂々としたバンド伝記映画の傑作でした。
ブライアン・メイ本人がアレンジしたというシンフォニックギターの20世紀FOXファンファーレでいきなりテンション爆アゲなまま最後のライヴエイドまでノリノリで突っ走るこの映画。最終的な落としどころを歴史的パフォーマンスとして名高い85年のライヴエイドにしたのは本当に慧眼だと思います。ともすれば湿っぽくなりすぎたり感傷的な形で終わってしまいそうな題材ですが、この映画では最高のライヴを見た後のような感動と爽快感とほんの少しのさびしさを持って劇場を後にすることができます。とにかくこの約20分に渡るライヴエイド完全再現(メンバーの服装、カメラマンの位置、ステージ脇にいるスタッフの仕草からピアノに置かれたペプシのコップの角度までこだわった驚異的再限度!)は本当に圧巻ですのでこれだけでも見る価値は十二分にあると思います。
若いキャストの演技も素晴らしく、ブライアン・メイ(グウィリム・リー)は理知的でバンドのお母さん的存在、ロジャー・テイラーベン・ハーディ)は野心的で天真爛漫、ジョン・ディーコン(ジョゼフ・マゼロ)は冷静でマイペース、そして自信家で圧倒的な存在感のフレディ・マーキュリーラミ・マレック)!最初はみんなそれほど似てないかな…と思ったのですがそのうちえっ…本人?と感じるほどに憑依する瞬間が何度もあって本当に素晴らしい演技だったと思います。
特に印象に残るのがクイーンのメンバーがお互い衝突しつつも「やっぱり俺たちは最高だな!」となるシーンが何回もあることです。フレディの歌を初めて聴いた瞬間のブライアン・メイの表情、「これ以上やったら犬笛みたいになるぜ!」と文句を言いながら「Bohemian Rhapsody」のコーラスをレコーディングするロジャー、メンバー同士で揉めている中ジョンが「Bite the dust」のベースラインを弾き出すとみんなノリノリになって練習が始まる…等々バンドで音楽をやることの楽しさが表現されていたと思います。
かと言ってこの映画の魅力はバンドをやっている人間にしかわからないということではありません。物を作ることの苦しみ、楽しさ、それを複数の仲間で作り上げていくことの達成感などは我々のような普通の人間にも共感できる感情です。さらにこの映画で描かれるフレディ・マーキュリーの物語、つまり自分が何者か分からずもがき苦しみ、辛い経験や失敗を経て、やがて本当に大切な仲間がいることや愛すべきパートナーに巡り合う…という話は我々にも理解できる普遍的な話だと思います。
僕が最も感動したのは映画の冒頭、一人ベッドで目覚め、髭を整え、車に乗ってライヴエイドの会場に行き、大歓声に沸くステージに向かうフレディの後姿に一人の天才の孤独のようなものを感じたのですが、映画を見ていくと実は全然そんなことはなかったということが後にわかるシーンです。前述したブライアン・メイが初めてフレディの歌を聞いた時の表情と、ライヴエイドのステージで歌い始めたフレディの声を聞いた時の表情が対になっていてさらにボロボロと泣いてしまいました。その人生の劇的な幕引きから何となく「悲劇の天才」とイメージする人も多いであろうフレディ・マーキュリーを、神格化することなく、実際はとても人間的でダメなところもいっぱいあるけど素直で周りの人から愛される魅力的な人物だったということを改めて世界に伝えたいという作り手のメッセージを感じました。
実際の史実と異なる点が多いと指摘されている今作ですが、個人的には伝記というよりも「なぜフレディは世界中から愛されたのか」「個性の塊のようなクイーンがなぜ解散しなかったのか」という部分に焦点を当てた作品だと感じました。この『ボヘミアン・ラプソディ』についてブライアン・メイは「これは伝記映画ではなく、硬い岩から掘り出されたような、純粋なアートだ」と表現しています。この映画はクイーンを愛する人たちと、クイーンの中にいた人たちが作り上げた荒々しく、燦々と輝き、見る者を魅了する彫刻のような美しい映画だと思いました。

 

・『X-MEN フューチャー&パスト』

ブライアン・シンガー監督が手がけたX-メンシリーズで一番好きなのがこの映画。おじいちゃんになってすっかり仲良くなってるプロフェッサーX(パトリック・スチュアート)とマグニートーイアン・マッケラン)、音楽、動作、アクション含め最高としか言いようがないクイックシルバーエヴァン・ピーターズ)の高速移動シーン、60年代ファッションが最高に似合うミスティーク(ジェニファー・ローレンス)など見どころ満載です。

 

・『ストレイト・アウタ・コンプトン』

ミュージシャンの伝記映画の傑作というとやはりどうしてもこの映画を思い出してしまいます。史実と微妙に違うけど感動してしまう点(アラビアン・プリンスの存在が消えている、ドレーが聖人すぎる)と、「悪い側近と袂を分かつ」という点で似通っていると感じました。まあこちらの側近:シュグ・ナイトは比較にならないくらい本当にやばい人だったんですが。

 

・『ボヘミアン・ラプソディ』が完成するまでの苦難の道程

この映画が完成するまでの苦難の道程がまとめられています。引用されてるサシャ・バロン・コーエンの写真のチョイスがいい。フレディ本人が生前に自身の伝記映画を作りたいですか?と聞かれて「面白いと思うけど確実にXXX(トリプルX)レーティングだね!」と答えたという逸話があります。サシャが主演だったら間違いなくそうなっていたと思います。それはそれで見たかった!