第9惑星ビニル

見た映画の感想を書き綴ります。

映画感想『シュガー・ラッシュ:オンライン』インターネットよいとこ一度はおいで

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原題:Ralph Breaks the Internet
製作年:2018年
製作国:アメリ
監督:リッチ・ムーア、フィル・ジョンストン
出演: ジョン・C・ライリー、サラ・シルバーマン、ガル・ガドットタラジ・P・ヘンソン、アラン・テュディック

あらすじ:ゲーム世界の住人ラルフとヴァネロペがインターネットの世界に飛び込みます。

ゲームセンターの中の世界を舞台に、レトロゲームの悪役ラルフと生まれつきバグを持つヴァネロペという居場所のない二人が出会い、かけがえのない友人になるまでを描くディズニー映画『シュガー・ラッシュ』(2012年)の6年ぶりの続編。現実世界と同じくあの騒動から6年が経過したゲームセンターはかなりレトロな雰囲気になっています。相変わらずラルフとヴァネロペは仲良く日々を送っていますが「毎日同じことの繰り返し」「寝ながら運転しても1位になれる」とヴァネロペは退屈気味。一方のラルフは穏やかな日常に満足しており「このままの日々が続いてほしい」と考えています。

そんなある日、ゲーム「シュガー・ラッシュ」の筐体のハンドルが壊れてしまいます。このままでは故障品としてゲームセンターから撤去されてシュガーラッシュの住人たちは消えてしまいます。そこでebayにハンドルが出品されていると知ったラルフとヴァネロペはwi-fiを通じてインターネットの世界に飛び込みます。

2人は何とかしてebayでハンドルを落札しましたが購入する資金がありません。手っ取り早く大金を手に入れるにはネットゲーム「スローターハウス」のレアアイテム「シャンクのスーパーカー」をゲットして換金するといい、と知ります。「スローターハウス」はGrand Theft AutoのようないかにもZ指定っぽい危険な雰囲気のレーシングゲームですが、ここでスーパーカーを巡ってギャングのリーダー:シャンクと派手なカーチェイスを繰り広げているうちにヴァネロペは自由で刺激的なストリートレースに魅了されます。「私がいるべき場所はここだ」とヴァネロペ。「こんな危険な場所から早く帰ろう」とラルフ。仲良しなはずの2人は対立してしまいます。ヴァネロペと元の生活に戻りたいラルフはある危険な策略に手を出してしまい、最終的にインターネット全体を巻き込む大騒動に発展してしまいます。

前作『シュガー・ラッシュ』は見るたびに毎回泣いてしまうほど大好きなのですが、結論から言うと本作でも泣いてしまいました。前作は「自分自身を受け入れることで他人とも分かりあえる」というお話でしたが、今回は「親しくなった者同士が離ればなれになることにどう折り合いを付けるか」というお話でした。

人によってそれは「田舎から都会に行ってしまう友人」や「夢を追って海外に立つ親友」のようなシチュエーションで自身に投影することができますが、僕はどうしても「自分の夢のために家を出て行く子どもとそれを見送る親」のように見えてポロポロと泣いてしまいました。僕は進学をきっかけに田舎を出て以来今も親元から離れて暮らしています。そしてまだ小さいですが、いつか自分から離れてしまうであろう子どもを持つ親でもあります。だから身勝手とも言える決断に至るヴァネロペの気持ちも、離れたくないあまりに常軌を逸した行動に出てしまうラルフの気持ちも分かるんです。だからとてもとてもつらい。

でもね、人間なんてみんな自分勝手なんですよ。思い通りになんていかないんですよ。みんな他人同士なんですから。いつでも誰でも今いる場所からどこか別の場所に行くときは身勝手なものです。そして離れたくないと無理矢理にでも引き止めようとする気持ちも身勝手です。お互い身勝手同士なんですから相手にどうこうしてほしい、じゃなくて自分自身に折り合いを付けることが大切なんです。この映画は設定上はゲームキャラが10年代のインターネットの世界でハチャハチャする映画ですが、その中身は人が生きる上で必ず経験する普遍的な葛藤を描いていると感じました。それは制作陣も強く意識したようです。

「毎年、冬の時期になるとアメリカでは『三十四丁目の奇跡』(1947年のアメリカ映画。クリスマス時期のニューヨークが舞台になっている)を観る人が増えます。あの映画で描かれている世界と現在を比較すると、人々の生活スタイルも、ニューヨークの街なみも、テクノロジーも大きく変化していますが、多くの人があの映画で描かれているストーリーに戻りたくなる。この映画もそんな風になってくれたらいいな、と思っていました」

確かにこの結末の後、ラルフとヴァネロペの友情が続くかはわかりません。「シュガー・ラッシュ」や「フィックス・イット・フェリックス」の筐体だっていつ撤去されるかわかりません。でも我々の人生も同じなのです。何が正しかったのかなんて後でわかることなのです。最後にラルフが見せる安堵とも哀愁とも言えない味わい深い表情を思い出すと「これでよかったんだ」という気持ちになりました。

正直に言うと僕も最初はヴァネロペが下した決断に「後始末をしてないじゃないか」とか「他のゲームの住人たちはどうなるんだ」とか色々思うところがありました。でもこのプリンセスという肩書きが持つ様々なしがらみを、まるでコース上の障害物をバグ技ですり抜けるかのようにかわしてしまう身軽さがヴァネロペらしいと思えるようになってきました。これもまたディズニーが提案するプリンセスの新しい形の一つなのかもしれません。

プリンセス像の再解釈という点で言うとこの映画の最大の見所でもある「Oh My Disney」というウェブサイトで登場するディズニー・プリンセスたちが最高でしたね。アナが「とびら開けて」の歌詞が書かれたTシャツを着ていてそれはいいのかよ!と思ったりモアナが「#SHINEY」と書かれたTシャツを着ていてタマトア好きとしてはうれしい!となったりしました。最初は他のカメオ出演キャラと同様に小ネタ要員なのかな、と思っていたら物語の進行方向を決定づける重要な役目だったことには驚きました。さらに彼女たちにしかできない最高の活躍を見せてくれるのが本当に素晴らしかった!そしてそれがディズニー・プリンセスという立場を使った大きな意趣返しになっているのも最高でした。さすがは『ズートピア』で真正面から多様性に関する物語を作った監督&脚本コンビです。ぜひ劇場で実際に見てください。

印象的だったキャラクターについて書きます。まずは何と言っても最高にかっこいいギャングのリーダーのシャンク。擬似家族的な仲間たちを「ファミリー」と呼ぶ描写が完全に『ワイルド・スピード』を匂わせていて笑ってしまいました。確かにシャンクの中の人(ガル・ガドット)はワイスピシリーズに出演してるけど!しかもこの映画にはヴィン・ディーゼルも出てるけど!(ベイビー・グルート役だけど!!)そして登場するたびに見た目が変わるけど全てがカッコいいイエス姉さん!中の人がタラジ・P・ヘンソンとこれまた抜群にかっこいい人なのが最高です。この二人が友達というのもたまらない!できれば本編でがっつり絡んでほしかった!なんならシャンクさんとイエスさんもプリンセスの部屋に迷い込んでパジャマパーティーしてください!!

脇役キャラもみんな濃くてよかったですねえ。ものしりおじさんことノウズモアの「検索のオートコンプリートをアニメ化するとこうなる」という感じが笑えました。ネットでお金を稼ぐ方法を教えてくれるスパムリーもいい奴でしたね。最初は怪しい奴に見えるけど意外といい奴であることについてフィル・ジョンストン監督は以下のように説明しています。

「ポップアップ広告も、グラフィックやアートスクールを卒業した人たちが仕事でやってるだけであって悪魔ではないよね。ただスパムで生活しなきゃいけないだけでさ」

こういう脇役一人についてもちゃんと思いが込められていることにうれしい気持ちになります。

あとインターネット世界の小ネタについては挙げるとキリがないので気になったやつを箇条書きにします。
ツイッターYouTubeも猫ばっかり
・「スローターハウス」のプレイヤーキャラの動きが最高(走りやジャンプのぎこちなさ)
MCU考察オタクの3DCGアニメ化
・ネットの世界でもプリンセスのお側にいるC-3PO
・オシャレなInstagramにもおもしろ動画のバナーが流れてくるという痛烈なインターネットあるある。
・アルフレッド・モリーナの贅沢な使い方
・というか怪しい仕事をしてるアルフレッド・モリーナにジョン・C・ライリーが会いに行くって完全に『ブギーナイツ』じゃんよ!!
ジオシティーズ
・恐らくNetScapeのローディング画面に出てくるやつであろう巨大な舵…
・スクロールバーが一番下まで行ってあれ?もう終わりなのかな?と思わせといてスクロールバーが小っちゃくなって上に戻るやつ~~~
・おまけシーンその1:うさぎがパン!ってなるのはかわいそう


・おまけシーンその2:これもう子供向けじゃねえな!

以上です。
このように小ネタ、ネットミームイースターエッグ満載のとても楽しい映画なのですが、見終わった後には今は遠くにいる友人や離れた場所に住む家族のことをふと思い出してしまうような切ない映画でした。

 

・『シュガー・ラッシュ

「集団セラピーが出てくる映画にハズレなし」という持論を持っているのですがこの映画の最初に登場する悪役キャラたちの集団セラピーの合言葉が映画終盤でもう一度リフレインするところで毎回ビンビンに泣いてしまいます。壊すことしかできないキャラクターが壊すことで誰かを救うという展開も最高です。こうやって書いてるだけでまた泣きそうになります。