第9惑星ビニル

見た映画の感想を書き綴ります。

2022年映画ベストテン+α

こんにちは、ビニールタッキーです。

2022年は映画が豊作でしたねえ。まだまだコロナ禍ですがビッグバジェット映画が復活し劇場公開が当たり前になってきたことに喜びを感じた一年でした。2022年もありがたいことにオンライン試写のご案内を頂くことが多かったのですが仕事が多忙で泣く泣く見送った作品やお断りした作品も多かったです…さらに大型映画が帰ってきたということは私が好む中規模〜小規模な海外作品が隅に追いやられてしまい、見たいと思っても上映時間が合わずしょんぼり…というケースが多くありました。大作邦画で映画館が賑わうのはとてもうれしいことなんですがこればかりは仕方ないですね…映画館が潤うことが一番なので。

そんなこんなで2022年映画ベストテンを発表と思ったのですが相変わらずいい映画ばかりだったので例のごとくベスト20を発表したいと思います。それではどうぞ!

 

第20位 スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム

2022年1月上映の映画であり、何なら海外では2021年にすでに上映された映画のためランキングに入れるのを忘れられそうな映画なのですがどうしてもこの映画のことは忘れられないし忘れたくない!観客が当たり前のこととして受け入れている映画のリブートを「それもマルチバースの一つ」と捉えて救っていくという考え方が神がかっています。というか仮にこのアイディアを思いついて社内会議でプレゼンしたとしても普通は笑い話で終わりですよ。それを120%の愛情とファンサービスの気持ちで完成させたことに拍手を贈りたいです。某キャラクターがアドリブで言ったという「I Love You, Guys」がこの映画のすべてを象徴していると感じています。私達もI Love You, Guysってずっと思ってたんですよ…!

第19位 エノーラ・ホームズの事件簿2

前作『エノーラ・ホームズの事件簿』が好きだったのでわくわくして見ましたがやはり良かったですね。このシリーズの特色は推理ミステリーの中にエンタメとフェミニズムを両立させていることですね。さらにそこにイギリスで実際に起きた事件や社会運動を絡ませていくというのが面白い。特に今回は探偵社を始めたものの女性であるがゆえに事業がうまく行かないエノーラ(ミリー・ボビー・ブラウン)の元に少女が依頼を持ち込んでくる…という筋書きがとても良かったです。またシャーロック(ヘンリー・カヴィル)が前作以上に人間味のある優しい兄で「またコナン・ドイルの遺産管理団体から怒られるぞ!」と思いました。(参考リンク)今回も前作同様主演のミリボビさんと実姉のペイジ・ブラウンがプロデュースなんですが完全にフォーマットを掴んだ感じがするのでこのまま続編をなんぼでも作ってほしいですね。

第18位 ナイブズ・アウト グラス・オニオン

こちらも探偵モノ!あの南部訛りの名探偵ブノワ・ブランが帰ってきた!異様に豪華なキャストが一堂に会して繰り広げる人間ドラマと推理ミステリーがなんだかお正月映画(Netflixでの配信は12月ですが)という感じでよかったですね。前作『名探偵の刃の館の秘密』では豪華キャストがその人っぽくないキャラクターを演じるのが魅力でしたが、今回は逆にその人のステレオタイプな部分を極端に誇張しているのが面白かったですね。例えばデイヴ・バウティスタがゴリゴリに男性性むき出しだったりケイト・ハドソンがおバカなセレブみたいだったり。もちろん本人たちがそうということではなくそう見られているという部分を強調しているのがミソでしたね。イーロン・マスクを彷彿とさせる独善的なビリオネアの有毒性を描くこのお話がマスクのTwitter買収問題以前から書かれていたという話も興味深いです。優れた作品というのは常にその時代の空気を自然に掴んでいるものだということですね。前作『ナイブズ・アウト 名探偵の刃の館の秘密』についてはHuluさんの公式ブログでその魅力をご紹介しましたのでぜひご覧ください。

note.com

第17位 白い牛のバラッド

夫が無実の罪で死刑となった妻のもとに真犯人が見つかったという報告が。やりきれない思いを抱えていると夫の親友を名乗る男が現れる。無実の罪で夫を失ったイラン人女性ミナ(演じるのは共同監督でもあるマリヤム・モガッダム)の視線を通して描かれるのはイランという国での女性の生き辛さ。ミナはろうの娘を持つシングルマザーのため働いているが給与は安い。また夫の親友と親しくなるが未婚の女性が部屋に男性を連れ込むことは不浄とされているためアパートから立ち退きを宣告されてしまう。もちろん困窮するシングルマザーに部屋を貸すところなどほとんどなく、さらに義父から同居をしなければ娘の親権を奪うとまで脅される。宗教規律に基づく保守的で性差別的で家父長制的な社会制度はここ日本でも全く他人事とは思えないのが心底恐ろしいと感じました。この映画は国家に対する挑戦的な内容によってイランで上映禁止となったそうですが日本も同じような状況になりつつありとても嫌な気持ちになりますね…。このようにとても重いテーマを扱った作品ですが異様に凝った画角やカメラワーク、そして象徴となる「白い牛」など超自然的なシーンも多くとても見応えがありました。

第16位 ファイアー・アイランド

ゲイに人気のリゾート地「ファイアー・アイランド」を舞台に『高慢と偏見』をベースにした恋愛ドラマを繰り広げるロマコメ映画。数年前に『シラノ・ド・ベルジュラック』をクィア青春ドラマ風にアレンジした『ハーフ・オブ・イット』という素晴らしい映画がありましたが今回も往年の名作×クィア×現代解釈(+アジア系主人公という共通点もある)という構図で最高な作品ができました。製作と脚本を手掛けたのは主演でもあるジョエル・キム・ブースター。アジア系でゲイのスタンダップコメディアンとして超人気の人物です。他にも友人役のボーウェン・ヤン(SNLのレギュラーコメディアン。僕の推しです)やゲストハウスの家主役のマーガレット・チョーなど、出演者のほとんどがゲイ・レズビアンの当事者キャスティングというのが素晴らしい。もちろんコメディアンなので下世話で下品なギャグは冴え渡ってますし、主人公たちがアジア系ということでゲイコミュニティにおける人種の壁などの問題も取り扱っています。それでいて『高慢と偏見』的なラブロマンスは真剣にロマンティックに描いていて単なる「お笑い芸人がおちゃらけで作ったコメディ映画」とは一線を画する映画となっていました。

第15位 映画ゆるキャン△

あまり言及してこなかったのですが実は私『ゆるキャン△』の大ファンでして。原作コミックは愛読してますし関連書籍やムックも持ってますしアニメシリーズはショートシリーズの『へやキャン△』も含め何周も見てますし聖地巡礼も何回もしています。(舞台が山梨・静岡地区なので自分の居住地域からアクセスしやすいのも利点)そんな感じなので映画化にはテンションMAXで盛り上がりましたが「映画オリジナルエピソードで高校卒業後の主人公たちの話」と聞いた時はとても驚きました。いや無難に原作の未消化エピソードを映画化すればいんじゃね…と思ったのですが実際に映画を見たら完全に杞憂でしたね。というかあの傑作アニメ『ゆるキャン△』を手掛けたスタッフがやることなので最初から全幅の信頼を寄せるべきでしたね。確かに現実世界に比べたらファンタジーっぽい世界観ではあるのですが、元々地に足のついていたキャラクターたちが社会人となってさらに地に足がついていく感じがよかったですね。彼女たちのキャンプ場を作るという壮大な計画も、元々高校の野外活動サークルで限りあるものの中で失敗しながらも創意工夫でDIYしていたあの頃の延長線上という風に見えてぐっときてしまいました。個人的には斉藤さんの飼い犬ちくわ(チワワ)が明らかに年老いているという経年描写に泣きそうになってしまいました。とにかくこんな感じで大好きなキャラクターの変化を最高の形で追うことができるシリーズとなってファンとして本当によかったなと思いました。

第14位 セイント・フランシス

34歳で独身のブリジットはナニー(子守り)の仕事で出会った6歳のフランシスと両親のレズビアンカップルと親交を深めていく中で少しずつ変化していく。とにかく「こんなに映画の中で経血を見たことは中々ないな」と思うと同時に「じゃあ何で中々ないんだ?」と思う映画でした。女性あるあるの中でもとりわけ月経や経血、妊娠に関するあるあるを詰め込んで女性同士の連携と、それでも連携できないリアルを描いているのがとてもよかったと思います。6歳のフランシスがいわゆる「大人顔負けの真を突いたことを言う利発な子ども」で少しご都合主義的な感じもするんですが、レズビアンカップルの子どもということで一般的に公衆の門前では言わないようなこと(例えば生理に関すること)も当たり前のように言うという点でキャラクター造形として興味深かったですね。とにかく「この世に当たり前に存在するのになぜかフィクションの世界ではないことになっている部分」をここまで描いたという功績を讃えたいです。

第13位 シャドウ・イン・クラウド

第二次大戦中に機密文書を抱えて男だらけの爆撃機に乗り込む女性士官モード(クロエ・グレース・モレッツ)は閉じ込められた機銃室で謎の生物の影を目撃する。まず見て驚いたのは冒頭数十分ぐらいは狭い部屋に閉じ込められた主人公の視点のみということ。女性を蔑む卑語を浴びせてくる他の男性クルーの姿は一切見えないままお話が進んでいきます。その息苦しい状況が謎の生物の攻撃をきっかけに徐々にパニックアクション映画に移行していきます。この密室→パニックアクション→〇〇バトル(ネタバレになるので深く言えません)というジャンル移行がともすればガチャガチャしてるように見えるかもしれませんが自分的には面白いこと考えるな!と膝を打ちました。そして全編を通してみればわかるのですがこれは明らかにフェミニズム、特にミソジニーに関する映画だということです。突如として現れる謎の生物は何を象徴しているのか。彼女を追う特定の人物か、それとも有害な男性性そのものなのか。そんなことを考える映画でした。

第12位 ブラック・フォン

今年の「信頼できる映画好きが褒めていたので見に行ったら大当たりだった」枠映画。(昨年枠は『マリグナント』)。実は公開からしばらく経ってから見に行ったのですが本当に良かった!連続殺人鬼に誘拐された少年。監禁部屋で絶望していると線の切れた黒電話が鳴り響く。それは同じくこの部屋に監禁され脱出しようとしたが殺されてしまった子どもたちと繋がる電話だった。最初はどう考えても脱出できないと絶望していた彼も死者たちのアドバイスを聞くうちに生きる希望を見出す姿に思わず涙が溢れてしまいました。(特にケンカ術指南のところは嗚咽レベルで泣いてしまった…)僕はこういう「誰かが達成できなかった意思を別の誰かが引き継ぐ」話に本当に弱いので『ブラック・フォン』も大好きな映画でした。やっぱりスコット・デリクソンってすごい監督だよ!スティーヴン・キングみのある閉塞的な田舎+日常にある恐怖と暴力+超常的な怪異(+超常的な能力を持つ妹)もいいなーと思ったら原作がジョー・ヒルスティーヴン・キングの息子)でびっくりしたのもいい思い出です。

第11位 HiGH&LOW THE WORST X

みんな大好きハイロー映画シリーズ最新作。正確に言うと『HiGH&LOW THE WORST』の続編にあたる不良高校同士の喧嘩シリーズの最新作なのですが、これが開いてみるとまさかのシリーズ最高度数の関係性の湿度でした。正直お話の筋は「暴走する親玉が資金力でかき集めた集団 vs 喧嘩と信頼と友情で繋がった連合軍」という感じでザム(『HiGH&LOW THE MOVIE』)とほぼ同じことをやっているのですが、一つ一つの描写に冗長さがなくソリッドになっているのがとても良かったですね。(それはそれで少しさみしいと思ってしまうのはハイローオタクの悲しいSAGA…)大乱闘となる喧嘩も誰がどこでどう戦っているかというのを見やすくする工夫が感じられました。しかし人間関係…特に敵の親玉である天下井(BE:FIRST 三山凌輝)と参謀の須嵜(NCT127 中本悠太)の関係性の湿度がとんでもないことになっていました。須嵜のまるで90年代の不良漫画から出てきたような繊細な佇まいと喧嘩シーンのキレの良さがたまりません。須嵜が天下井を見つめる視線を思い出すだけで涙ぐんでしまいます。この映画で初登場した鈴蘭高校の面々もみんな魅力的ですし、他の高校同士も乱闘中に顔見知りであることが匂わされたりと描かれない関係性も多くあり、相変わらずハイローは最高だな!と感じました。

第10位 NOPE ノープ

2022年の映画を語るには『NOPE』は外せないと思います。もちろん『ゲット・アウト』『アス』のジョーダン・ピール監督の最新作という点でも注目ですがIMAXの大画面と音響を活かした映像、画角、作劇がすべて計算高く組み上げられているという点で「映画館(しかもIMAX級の大画面)で見るべき映画」でした。内容としてもエンターテイメント業界の搾取構造、見る側と見られる側の立場、そしてその逆転という熱い展開に。これまでのジョーダン・ピール作品のジャンルはホラーだったのですが今回は明確にアクションエンターテイメントになっているのが面白かったですね。それでもホラー的シーンの怖さは流石で上空を大勢の悲鳴が通り過ぎるところや例の「吸い込まれた後の様子」のシーンは本当に嫌で怖かったですね…。スケールが大きくビッグバジェットになったとしても作家性はしっかりあるということが証明されたので今後が益々楽しみになる映画でした。

第9位 バッドガイズ

ドリームワークス・アニメーション作品ということで見よう見ようと思っていたら周りの海外アニメ好きや映画好きが大絶賛しているので慌てて見に行きました。3DCGアニメーションを2D風に表現するという『スパイダーバース』的な手法のアニメ映画なんですが、『スパイダーバース』とは別種のアニメーションとしての気持ちよさがありました。明らかにジャパニメーションの影響を受けたアクションは見もので、特に『カリオストロの城』と『名探偵ホームズ』(犬ホームズ)からの影響を受けているのが興味深かったですね。お話の方も悪人たちが善人になろうとする…という単なる「いい話」ではなく、周りからの「お前はどうせ悪人だろ」というレッテルがアイデンティティにまで染み付いてしまって結果として悪人としての生き方になってしまった人たちのお話というのがとてもよかったです。「〇〇人は犯罪者が多い」というような現実の人種差別を戯画化して描くという点ではかつて革新的だったディズニーの『ズートピア』のさらに一歩先を描く話になっていました。個人的には主人公ウルフと相棒スネークの湿度高すぎな関係性も忘れられません。

第8位 ペルシャン・レッスン 戦場の教室

ナチスによるユダヤ人虐殺から逃れるため「私はペルシャ人だ」と嘘をついたユダヤ人青年。難を逃れたと思いきや強制収容所ナチス将校から「ペルシャ語を教えてほしい」と家庭教師を命じられでっち上げのペルシャ語を教えるが将校も真面目でどんどん覚えていくようになり…。粗筋だけ見るとコメディのようにも見えますがこれはれっきとしたナチス映画です。もちろん適当に思いついたペルシャ語を真剣に覚える将校の姿に笑ってしまいますが、主人公を疑い続ける別の将校や、ちょっとしたほころびからバレそうになるなど緊張がずっと続きます。そしてこのコメディのような授業のすぐ側では強制収容と虐殺が常に行われているのです。この映画を10位以内に入れたのはこのアンビバレントさが強烈だったからです。笑いと恐怖、コメディ劇のすぐ側にある迫害、ナチス将校のつらい背景を見せて観客に同情を感じさせたところで突き落とす冷徹な視点。どれだけナチスを人間的に描いても「彼らはひどいことをした」という部分は決して譲らないというこの一点だけでもこれは評価されるべき映画だと感じました。あれだけしょうもないと思っていたでっち上げのペルシャ語レッスンが最後に意味を持ち始めるラストには号泣してしまいました。素晴らしい映画です。

第7位 FLEE フリー

デンマークに住むアフガニスタン出身のアミン。仕事、恋人共に充実して幸せそうな彼には誰にも話していない壮絶な過去があった。アフガニスタンの情勢不安定から国外逃亡した実在の人物の身の上話をドキュメンタリー形式で聞き出しつつアニメーションとして表現するという少し変わった作りの映画です。しかし国外逃亡した難民である彼の身の安全を守りつつ壮絶な過去を表現する手法としてアニメーションを選択したと知った時は膝を打ちました。そして学生時代からの友人である監督にだからこそ語ってくれた彼の身の上話は本当に壮絶の一言でした。特に中盤の決死の逃避行で乗り込んだ劣悪な難民船の迎える結末などは現実のあまりの冷酷さに呆然としてしまいました。本当に絶句するばかりの映画なのですが、僕はこの映画が作られることになった経緯が好きなんです。監督がたまたま知り合った友人アミンと仲を深めていくうちに壮絶な過去があったことを知り、もしできれば映画にしようと持ちかける。アミンも渋ったが心にずっと秘めていた過去を語ったことで何かが解放されていく。そんな優しさと希望に満ちあふれたエンディングには涙を流しました。この映画を見てから自分の友達も普段は表に出さないけど様々な過去と途方も無い奥行きを持っているのかもしれない、と考えるようになりました。

第6位 プレデター:ザ・プレイ

プレデターの最新作!?シェーン・ブラックの『ザ・プレデター』の続編ではなく!?(※当方ザプレ民です)しかも時代は遡ってネイティブアメリカンの元にプレデターが現れる話…なにそれ面白そうじゃん!という初めて聞いた時の期待を遥かに越えてくる大傑作でした。まず狩猟民族vs狩猟民族という構図にするためにネイティブアメリカンを選ぶという発想が素晴らしい。さらにネイティブアメリカンは自身の生き方を模索する種族であるという点から狩人になりたい女性を主人公にするという発想も良い。そもそも「プレデター」というシリーズ自体が常に多様性を物語の主軸として置いていたという伝統に乗っているのも素晴らしいと思いました。この映画の唯一の欠点は劇場公開されなかった(日本ではディズニープラス配信)ことです。これは本当に勿体ない。さらに言えばこんなに語るべきことがあるのにパンフレットが全くないのが痛すぎる。あとからでも全然いいので劇場公開&パンフ作成お願いします!この願いを受け取れ!勇者よ!

第5位 コーダ あいのうた

こちらも2022年1月の公開であり、アカデミー作品賞を受賞した作品ということで散々語り尽くされた映画だと思うのですがやはり大好きな映画なので上位にランクインしました。ろうの漁師一家の中で唯一聴者である娘ルビーが高校で歌の才能を見いだされていく物語。この映画で何よりも好きなのは当事者キャスティングによるキャラクターがとても生き生きとしていることです。障害者がフィクションに登場すると純粋無垢で天使のような人物に描かれることもあるのですがこの映画のろう者はセックスもドラッグもするし下品だし性格も大雑把で本当に一人の人間として描かれているのがとてもよかったです。リメイク元となったフランス映画『エール!』と見比べたのですが、印象的なシーン(コンサートで無音の演出がある、父が娘の喉を触って歌を感じるシーンなど)が実は元にもあったことがわかって興味深かったですね。でも『エール!』よりろう者の実態を反映したり恋愛描写をもっと甘酸っぱいものにしたりとかなりブラッシュアップされている点が多く、オスカーも納得の映画でした。

第4位 私ときどきレッサーパンダ

ある時から興奮するとレッサーパンダになる体質になってしまった女の子の物語。カナダの地方都市在住のオタクなアジア系の女の子が主人公なんですが監督のドミー・シーも出自が同じで実質自伝的な映画になっているのがとても興味深いと思いました。これまで大作アニメーションは男性クリエイターによる物語がほとんどでしたが、アジア系女性の人生がモチーフとなった物語が本当に楽しくて明るくて、まだまだこの世には語られてこなかった物語が山程あるんだなと感じました。主人公メイはスーパーマンでも正義の心を持つ人物でもなく、由緒ある寺の娘で友達思いでアイドル好き(たまに妄想が暴走することがある)という設定もいいですよね。ここ最近アジア系アメリカ人の映画を見ることがありますが、やはり「厳格で保守的な親」「親の期待に応えようと努力する子ども」「伝統を重んじる家庭」「でも子どもはアメリカで育ったアメリカ人」という設定をよく見るので本当にあるあるなんだろうなーと感じます。そんな中で親も子も成長していくというお話をここまでの怪獣映画級の大スペクタクルで描くのは最高でした。こちらも欠点を上げるなら『プレデター:ザ・プレイ』と同じく劇場公開されなかったことですね。頼む!あの4TOWNSのライブシーンと怪獣大暴れシーンを映画館で見せてくれ!

第3位 ギレルモ・デル・トロピノッキオ

ここ数年ピノキオ映画が立て続けに3本公開されるという大ピノキオ時代があったのはご存知でしょうか。マッテオ・ガローネ監督の『ほんとうのピノッキオ』は原作がイタリアの児童文学ということでイタリアの監督がイタリアロケで原作にある「イタリア人らしさ」を強く描き出した作品になっていました。ロバート・ゼメキスのディズニー実写版『ピノキオ』はディズニー版ピノキオをかなり真っ直ぐに実写化した結果、マジカルで可愛らしい部分と同時に薄気味悪くて不気味な部分がより強調されるという怪作となっていました。そんなピノキオ映画の中でも個人的に一番好きなのがこの『ギレルモ・デル・トロピノッキオ』です。よく知られるピノキオの物語を「戦争で息子を失ったゼペットじいさん」という設定にアレンジし、舞台を第一次世界大戦のイタリアとすることでファシズムに染まり行く国家の物語としている脚色に唸りました。ストップモーションアニメの動きが美しい娯楽作でありながら現実で起きている戦争に強く突きつけるような明確な反戦映画でした。戦争下での子どもの気持ちに寄り添うという点では『パンズ・ラビリンス』ですし、異形の者たちに対する愛は『ヘルボーイ』や『シェイプ・オブ・ウォーター』に近いものがあり、まるでギレルモ・デル・トロの集大成のような映画でファンとしてはとても愛おしい気持ちになりました。

第2位 トップガン マーヴェリック

今にして思うと信じられないのですが『トップガン』の続編をやると聞いたときに「大傑作になる」と予想した人はほとんどいなかったと思います。ここ数年アクションスターとして完全に油が乗りまくってるトム・クルーズがプロデュースということでアクションは楽しめるだろうけどお話の方は80年代を懐かしむような、往年のファンもうっとりとするようなノスタルジーあふれる映画になるのかな…と正直思っていました。本当にごめんなさい。まさかこんな大傑作になるとは思いませんでした。「エリートパイロット候補生たちがぶつかり合いながらも絆を結んで実際の作戦に挑む」というトップガンの構図はそのままなんですが、スカイアクションの圧倒的なリアリティ、80年代からはるかにアップデートされた視点、キャラが立ちまくってる個性豊かな候補生たち、何度もシミュレーションすることで候補生と観客に作戦内容を叩き込んで物語の展開をわかりやくするという丁寧な作劇、そこに前作ファンなら爆涙必至なファンサービスなどが奇跡的なバランスで絡み合う大傑作です。さらにマーヴェリックは優秀な指導者になっており、本人の魅力と才能も余すことなく発揮するという最高の物語。この映画をIMAXで見たとき、最後にスクリーンを悠然と飛ぶ飛行機を眺めながら「こんな完璧な映画があるだろうか…」と震えました。

第1位 RRR

正直に言うと『RRR』については「殿堂入り」とか「特別枠」みたいな感じにしようと最初は思っていたんですが自分的にこの映画を2022年ベスト映画1位に選ばないのは間違っている、と感じて堂々1位としましたいやもう何をどう考えても1位ですよ『RRR』は。だってそういう斜に構えたりだとかカッコつけてあえて外す…みたいな姿勢とは真逆の映画だからです。真っ直ぐな価値観と真っ直ぐな表現方法を使い、カッコいいと思ったものを全身全霊をかけて最高にカッコよく見せる、という映画が『RRR』なんです。驚天動地のバトルアクションも政治的意味を含ませながら最高に楽しいシーンに仕上げたナートゥダンスも大好きです。個人的に一番グッと来たのは全編に渡って「水と火」の対比を象徴的に入れていたことですね。森の部族の守護者ビームを水、警察官としてイギリス軍に潜入するラーマを火に例えてその二人が衝突したり手を取り合ったりするとどうなるかということを水と火を使ってこれでもかと示していました。このラーマとビームの美しくも切ない友情、愛情の描き方も素晴らしかったですねえ。情報量も映像も役者の演技も見事で3時間超えの映画にも関わらず当たり前のように数回見ました。でも体感時間としてはほぼ一瞬ですね。とにかくインドの歴史、インドの神話、侵略の歴史、政治的文脈(さらに言えば主演俳優同士のファンダムの対立までも)あらゆるものを取り込んで最高のエンターテイメントにするって…これが映画じゃん!の一言に尽きます。

 

以上です。いやー長い。1万字を超えました。でも毎年思うんですが本当にこの世は面白い映画でいっぱいですね。2023年もたくさん映画を見るぞー!