第9惑星ビニル

見た映画の感想を書き綴ります。

この映画宣伝がすごい!2017(前編)

こんにちは、ビニールタッキーです。

 

Why!?なぜ2018年の年末に2017年の話をするんですか!?

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WHY?厚切りジェイソンの絶叫がとどろく「ザ・コンサルタント」テレビスポット公開 : 映画ニュース - 映画.com

 

毎年勝手に開催していた「この映画宣伝がすごい!」ですが、昨年(2017年)は僕のプライベートの忙しさでお蔵入りとさせていただきました。全世界に数人ぐらいいる楽しみにしていた皆さんには大変申し訳ない…という気持ちでこの一年を過ごしていました…というわけで!そんな皆さんの期待に応えるべく!今さら蔵出し!2018年の年末に公開することにしました!

もう1年以上前のネタを今さらやってどうするんだ…という考えが頭を過ぎりますがこういうのはアーカイブとして残しておいた方がいいだろう、たぶん!きっと!!と強い気持ちでやらせていただきます!

そもそも「この映画宣伝がすごい!」とは…下記のリンクをご覧ください。

まずはこの映画宣伝がすごい!2015

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続いてこの映画宣伝がすごい!2016

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はい。こんな感じのやつです。

つまり海外の映画が日本で公開される際に行われる「お笑い芸人出演のPRイベント」「旬の芸能人を呼んでの試写会」「タレントの吹き替え初挑戦」「日本版オリジナル主題歌」等の味わい深いイベントや宣伝群を「おもしろ映画宣伝」と名付け、収集しています。

※味わい深いイベントの例

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元応援隊長スピードワゴン小沢、「ワイスピ」吹き替え・柳沢慎吾&瑛茉ジャスミンに恨み節? : 映画ニュース - 映画.com

最近は映画配給側の努力や映画業界の苦しい現状などを知るに至り「こういう宣伝も必要よね…」という気持ちにもなるのですが相変わらず毎年意表を突くような宣伝が来るのでビックリするばかりです。

 

※意表を突く宣伝の例

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加藤紗里、狩野英孝突き放し現在はトランプ米大統領にぞっこん「顔がタイプ」 : 映画ニュース - 映画.com

ちなみに最近自分のツイッターのプロフィールを「おもしろ映画宣伝ウォッチャー」にしました。最近これらの概念が「ビニールタッキー案件」「ビニールケース」等のワードで周知されつつあり超恥ずかしいので「おもしろ映画宣伝」の方向で周知したいからです。あとよく誤解されるのですが僕は基本的にこれらの宣伝が大好きです!一部のヤバいやつを除いて!

というわけでそんなおもしろ映画宣伝の中で特にすごい!(一部ヤバい!)と感じた案件を「この映画宣伝がすごい!2017」としてご紹介します!気合い入れていくぞ!

(フリー・)ファイヤー!!

f:id:sexualrocker:20181219212429j:imageブリー・ラーソンから大仁田厚に主役交代!?「フリー・ファイヤー」エイプリルフール特別映像公開 : 映画ニュース - 映画.com

 行くなっしー!!!!

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竹内力、銀行員だった過去を告白!ふなっしー猛ツッコミ「闇金でしょ!」 : 映画ニュース - 映画.com

ふなっしー竹内力が『王様のためのホログラム』のPRイベントに!

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銀行マン時代の竹内力!!色々すげえ!

続いて『キングコング 髑髏島の巨神』は宣伝量が多かった!

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佐々木希、アフレコNG連発でGACKTが「かわいいねえ」 | cinemacafe.net

ケーキ!

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暴走キングコング”の異名を持つ真壁刀義、「本気でコング役のオファーが来たと思った」 : 映画ニュース - 映画.com

4DXにガッツ石松もビックリ!

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“暴走キングコング”も形無し?真壁刀義、4DXの臨場感におびえてガッツ石松に抱きつく : 映画ニュース - 映画.com

みやぞんも!
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「ANZEN漫才」みやぞん、「キングコング」に出したい怪獣にまさかの珍回答 : 映画ニュース - 映画.com

くっきーも!

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野生爆弾くっきー「キングコング」の謎の絵描き歌を披露、ちぃぽぽに引かれる : 映画ニュース - 映画.com

この宣伝の盛り盛りな感じは確かにキングコングにぴったりかも!


ムッ!あれは中国の妖怪饕餮!?いや、旬を過ぎた芸人さんでした。 

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カズレーザー、「グレートウォール」美人指揮官に扮した相方・安藤なつに容赦ないツッコミ : 映画ニュース - 映画.com

2017年底抜け映画の代表格『グレートウォール』とメイプル超合金という夢の最強タッグ!

『グレードウォール』といえばツイッター上でインフルエンサーを集めた応援部が結成されたことも僕の中で話題になりました。

2017年は『ワイルド・スピード ICE BREAK』でも同じような応援部が結成されたことをみなさん覚えてますか?たぶん覚えてなくても今後の人生で問題ないと思います。

 続いてはおもしろ映画宣伝の帝王、ダチョウ倶楽部

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世界に1台?全長4mのリアル「トランスフォーマー」車両が日本上陸! : 映画ニュース - 映画.com

ヤー!!

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上島竜兵、“チュー”ができる唯一の女性芸能人は野呂佳代 : 映画ニュース - 映画.com

メル・ギブソン監督『ハクソー・リッジ』のPRイベントで「叩いてかぶってジャンケンポン」や「アツアツタオル当てゲーム」等をやる胆力。もしかして肥後リーダーが沖縄出身ということでオファーしたのかしら…と気付いたのですがいくら探してもそのことについて言及している記事はありませんでした。

バトル映画といえばこちらも!

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友近「エイリアン」リプリーになりきったはずが…「これはランボーですか?」 : 映画ニュース - 映画.com

友近さんのシガニー・ウィーバーものまねが見事ですが『エイリアン コヴェナント』にリプリーは出てねえ!

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ビリケンさんがエイリアンのえじきに……衝撃的なフェイスハガー姿がお披露目 : 映画ニュース - 映画.com

ビリケンさんもフェイスハガーの餌食になってました。個人的にビリケンさんはおもしろ映画宣伝の静かな準レギュラーなのでいつかまとめたいと思っています。

大阪ということでトラッキーも駆けつけてくれました!

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「怪盗グルー」笑福亭鶴瓶、地元・西宮凱旋で郷土愛爆発!トラッキーも登場 : 映画ニュース - 映画.com

黄色い縞々キャラ繋がり!2人の出会いは必然か!

…ちょっと疲れてきました。ここはかわいらしいものを見て心を落ち着かせましょう。

犬の気持ちになるですよ…!

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ゆりやんレトリィバァ、得意の英語で犬の通訳に - シネマトゥデイ

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スウェーデンの名匠ラッセ・ハルストレム監督の感動作品も日本の宣伝にかかればこんな感じです。確かに親しみやすい…でも監督の気持ちにもなるですよ!

子役も集まってジャスティス・リーグ

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鈴木福、新井美羽らが子ども版「ジャスティス・リーグ」結成! : 映画ニュース - 映画.com

かわいいゆるキャラたちも大集合!

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ふなっしーがバットマンに!ご当地キャラ版「ジャスティス・リーグ」を結成 : 映画ニュース - 映画.com

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映画でも使われた「カム・トゥゲザー」をバンド演奏で披露!(ギターがちゃんとリッケンバッカー!)

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躍動感がすごい!!!

 

はい。

汲めども尽きぬおもしろ映画宣伝のおかげであっという間に記事が長くなってしまいました。というわけで例年通りトリロジー(三部作)という形でお送りしますので次の中編をお楽しみに!次回は2017年に何かと話題になった不思議な邦題&タレント吹き替えをピックアップしますよ!

中編に続く! 

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森脇健児、“最大の危機”は「レギュラー・ゼロで月収800万円から8万円になったとき」 : 映画ニュース - 映画.com

また見てや!

映画感想『THE GUILTY ギルティ』耳をすませば見えてくる

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原題:Den skyldige
製作年:2018年
製作国:デンマーク
監督:グスタフ・モーラー
出演:ヤコブ・セーダーグレン、イェシカ・ディナウエ、ヨハン・オルセン、オマール・シャガウィー

あらすじ:警察の緊急ダイヤルに「誘拐されている」という通報が入ります。

短い映画っていいですよね。忙しい現代社会ではサクッと見られるという利点が大きいですがそれ以外にも短いならではの良さがあると思います。例えば時間が限られているためシーンやセリフに無駄がない。お話も一本道でテンポが良い。アイディア一発勝負のようなユニークな映画が多い。さらに短さゆえに観客の集中力も途切れない等々、様々な利点があります。長い映画もいいんですが短い映画にもたくさん魅力がありますよね。

『THE GUILTY ギルティ』はなんと上映時間88分。短い!緊急ダイヤルのオペレーターが電話だけを頼りに誘拐事件を解決するというシンプルなストーリーながら斬新なアプローチとあっと驚く展開で様々な映画祭で絶賛されたデンマーク産のスリラー映画です。試写で見させていただいたのですが確かに絶賛も納得の超ソリッドでタイトなサスペンス映画でした。

警察の緊急連絡室に勤めるアスガー(ヤコブ・セーダーグレン)は緊急ダイヤルに対応するオペレーター。以前は警察官として現場に出ていたようですが訳あって今はオペレーターとして路上強盗の通報にパトカーを手配したり、麻薬中毒者のうわごとのような電話に付き合ったりと小さな仕事をこなしています。そんなある日、アスガーは「今誘拐されている」という女性からの通報を受けます。電話の向こうのかすかな音や他にいる"誰か"の気配、携帯電話の大まかな位置情報だけを頼りに彼女を救う行動に乗り出します。

まず映画を見て驚くのは88分間カメラが緊急連絡室から一歩も出ないということです。舞台はオペレーター数人がいるオフィスと個室と廊下。たったこれだけです。この緊急連絡室がどんな場所のどんな建物の何階にあるのかすら分かりません。もちろん回想シーンや事件現場のイメージシーンも一切なし。ただひたすら通報に迅速に対応するアスガーや事件を推理するアスガー、虚空を見つめるアスガー、怒りを爆発させるアスガー、という風に88分間険しい顔をしたおじさんが映るだけという超ソリッドな仕様です。

 

当然音楽も必要最低限しか流れません。映画館で流れるのはキーボードのタイプ音、ダイヤル音、そして電話の向こうの音です。観客に提示される情報は本当にこれだけなので主人公も観客も耳をすませて電話の向こうのかすかな情報を収集するという異常な集中力を要求されます。まさに88分間というタイトな上映時間だからこそできる芸当なのです。

本作で特に白眉なのが誘拐されている女性が緊急ダイヤルにかけているのがバレないように会話するというシーン。昔アメリカで緊急ダイヤルにピザの注文の間違い電話がかかってきたと思ったらDVの現場からの通報だった、という話がありましたが、本作でもまさにそれを髣髴とさせるようなスリリングな緊急電話とオペレーターの神対応が味わえます。

このように本作は具体的な描写は一切スクリーンに映らないのですが思わずヒエェと声をあげたくなるような凄惨な展開があります。(さすが風景は美しいけど情け容赦ない北欧映画!という感じです)しかしそれさえも音声でしかわからないため全ての観客一人一人の頭の中に凄惨な現場があるのです。思い返して見るとこの映画には様々な人物や場所、乗り物や凶器などが登場するのですがそれら全てを一切見ていないということに気がついて改めて驚いてしまいます。観客は全てを「聞いた」だけなのに「見た」つもりになっているのです。改めて映画って本当にすごい!と感じてしまいます。

本作は終わってしまえば「こういう話です」と2行ぐらいの文章で説明できるぐらいわかりやすいお話です。でもそこに至るまでの情報の出し方、あえて出さないやり方、そして裏切り方が見事です。デンマーク語の原題『Den skyldige』は英語にするとそのまま『The Guilty』となり「有罪」や「犯人」「罪の自覚がある者」という意味になります。このタイトルは何を意味するのか。ぜひ映画館で耳をすませて「見て」ください。

 

・ハリウッドリメイク決定

『THE GUILTY ギルティ』はジェイク・ギレンホール出演でハリウッドリメイクが決定しました。内容に触れるのであまり言えないのですが彼は本当に適任だと思います。絶対に合う!

 

・『ミッション:8ミニッツ

そのジェイク・ギレンホールが2011年に出演したこれまた限定空間で事件を解決する傑作映画。列車爆破テロ事件が発生する8分間を何度も繰り返し体験することで犯人を見つけ出すというかなり変わったシチュエーションのSFスリラーです。93分とタイトですがラストはあっ!と驚きますよ。


・『セルラー

「限定空間」「誘拐」「電話」というプロットで思い出したのは2005年日本公開のこの映画。誘拐された理科教師が壊れた電話機を修理して偶然かかった電話に出たのはチャラい若者だった…というお話。『THE GUILTY ギルティ』とは打って変わって95分間ノンストップのド派手な映画です。まだ初々しいクリス・エヴァンスと乱暴な悪役が抜群に似合うジェイソン・ステイサムも見どころです。

映画感想『ヘレディタリー/継承』わたし見た 大変なものを見た

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原題:Hereditary
製作年:2018年
製作国:アメリ
監督:アリ・アスター
出演:トニ・コレット、アレックス・ウルフ、ミリー・シャピロ、アン・ダウド、ガブリエル・バーン

あらすじ:おばあちゃんが亡くなってから一家に恐ろしいことが次々と起こります。

僕はホラー映画が超絶苦手です。もう本当に、全然ダメです。

オカルトやミステリーは大好きですしゴア描写も平気なのですが、急にワッ!とかドーン!みたいな大音量でビックリさせる系の映画は心臓に悪いので絶対に見ません。さらに映画館だと完全に逃げ場がないので劇場公開中に見に行くようなことはほとんどありません。

そんな僕が「嫌だ」「絶対に見たくない」「どう考えても怖い」「なぜお金を払って怖い思いをしなければならないのか」と駄々をこねながら今世紀最強のホラー映画と名高い『ヘレディタリー/継承』を見に行きました。

お話はミニチュア模型作家のアニー(トニ・コレット)の母エレンの葬儀から始まります。アニーとエレンの親子関係は複雑で息子のピーター(アレックス・ウルフ)をエレンから遠ざけていましたが娘のチャーリー(ミリー・シャピロ)とは親しくさせていました。実はエレンは精神障害を患っており、アニーの父や兄もその影響なのか不幸な死を遂げたという過去がありました。アニー自身にもその兆候があり、やがて息子や娘にもこの症状が遺伝してしまうのでは…と恐れています。

もうあらすじの時点で嫌な予感しかしません。しかも予告編も怖い。(特に恐怖で歪むトニ・コレットの顔とミリー・シャピロが全身に纏う禍々しい雰囲気が怖い!)こんな怖そうな映画をなぜ超絶ビビリの僕が見に行ったのか。実はこんな僕でも年に1、2本はホラー映画を見ることがあります。自分の中で明確な基準を設け、事前情報でその条件が揃ったときにだけ見るようにしているのです。

 

①急にビックリさせる系映画ではない
②ストーリーが巧妙で面白い
③信頼できる人たちが絶賛している

『ヘレディタリー/継承』はまさにこの3つの条件が揃っているのです。いや「揃ってしまった」と言うべきかもしれません。そのせいでギャーギャー言いながら見に行ったのですが…結論から言うと見て大正解でした。本当に見に行って良かった。これは大傑作ですよ。その素晴らしさを今挙げた3つの条件に沿って説明します。

①急にビックリさせる系映画ではない
もうこれは僕のようなビビリ人間には絶対条件です。以前面白いと評判のミステリー映画を自宅で見ていたらビックリ演出がバンバン出てきたのですぐ停止ボタンを押して二度と見ることはありませんでした。僕は本気なんです。

『ヘレディタリー/継承』はそういう手法で怖がらせる映画ではありません。確かに大きな音や大声を上げたりするようなシーンはありますがそれは観客を驚かせるためではなく登場人物が体験している恐怖や精神を蝕む狂気の度合いを表現するために使われています。どちらかと言うとこの映画は「今部屋の奥に何かいたような気がする」「何か変な音が聞こえたような気がする」「とても静かだけど絶対に嫌なことが起きてるような気がする」といったような静寂の中でじわじわと不安を掻き立てることで観客を恐怖のどん底に落とし込む映画でした。それはそれで超怖い!でも心臓が弱い僕には安心設計!と思いました。

このようにわかりやすいビックリ演出を取らずむしろ古典的と言ってもいいホラー演出で怖がらせる本作ですが、だからと言って古臭い感じはしません。時折カメラがダイナミックに動いたり場面が一瞬で変わったりするようなハッとするような技法を使いつつ、嫌なことが起きるシーンのじっくりとした間の長さや、本当に怖いものをちらっと見せたり、あえて見せなかったりする演出が実に的確で見事です。一言で言ってしまうと「センスがいい」。アリ・アスター監督は本作が長編デビューということですが本当にとんでもない才能が急に出てきてしまった!と驚愕しました。

②ストーリーが巧妙で面白い
『ヘレディタリー/継承』を見た人の大多数は「もう二度と見たくない」という意見なのですが、一部では「もう一度見たい」という意見も見受けられました。どうやら「ストーリーが巧妙なのでもう一度見て確認したい」ということだそうです。残念ながら、というか自分でも驚くのですが僕ももう一度見たい派です。

この映画、予告編やあらすじを見るとなんとなく「精神に不安を抱える家族がおばあちゃんの死をきっかけに崩壊していく話なのかな」と想像するのですがこれが完全に予想を裏切る、全然違う話でした。「えっ?この話どこに向かうの?えっ!そっち!?嫌!嫌だよー!!最悪!最悪ー!!」となった時にはもう遅く、心の準備も整わないまま物語は最凶に衝撃的なフィナーレを迎えます。僕はエンドロールを眺めながらスクリーンで起きたあまりの出来事に呆然としてしまいました。

しかし改めて思い返してみると「あれってつまりそういうことだったのか?」「そういえばあんなことになる予兆があったような…」と映画内に巧妙に張り巡らされていた伏線に気付き始めます。そして全てのシーン、全てのカットに意味があり、映画内で起きる全ての出来事が事態が最悪の方向へ向かうように周到に準備されていたということに気付いて「もう一度見たい!」となるのです。ビクビクしながら劇場に入ったのに出てくる頃には興奮している自分に驚きました。この映画、本当に一部の無駄も隙もありません。さりげないセリフやちょっとした小道具、脇にいる人物、どんなに小さなものでも見逃すことができません。ファーストショットでさえ意味があります。ああっ!もう一度見たい!

③信頼できる人たちが絶賛している
普段ホラー映画を見まくっているホラー愛好家の皆さんだけでなく他方面の映画ファンの方も絶賛している印象を受けました。昨年(2017年)で言うと『IT/イット "それ"が見えたら、終わり。』『ゲット・アウト』などのホラー映画でも同じような傾向がありました。こういう場合、ホラー描写の鮮烈さはもちろんなのですがそれ以外の部分の魅力(俳優の演技や演出スタイル等)やその作品が作られた背景に深みがあることが多いという印象です。

そういう意味で言うと『ヘレディタリー/継承』の作られた背景は深い、というより底の見えない暗黒という感じです。監督はこの映画について「みんなが絶対に見たくないものを見せようと思った」と発言しています。まさにその通りで人生において絶対に経験したくないものを見せてくるのですが、さらに「それを経験した人間のどうしようもない行動」「経験したもの同士の熾烈な揉め事」まで見せるのが本当に最悪です。ただ、そんな最悪な映画を作った理由として監督は「自分の家族にあまりにもひどいことが続いたので「これはもう呪われてるんじゃないか」と思ったところから発想を得た」と語っています。つまりこの映画は自身の辛い経験を創作活動に昇華して治癒するセラピーだということなのです。これがまさに、この映画の主人公アリーが自分に起きた苦難をミニチュアに再現して一種の箱庭療法のような仕事をしていることと重なるのです。このように完全なる悪意で作られた点と、実体験の入れ子構造のような点が様々なホラー映画とは一味違う、絶賛される理由なのかもしれません。

興奮気味に書きまくってしまいましたがこれ以上はもう言いません。ぜひご自身の目でこの「新たなクラシック」を目撃してください。僕は『シャイニング』をDVDで初めて見たとき「これを劇場公開時に映画館で見た人はさぞかし興奮しただろうな」と思いました。少し大げさかもしれませんが『ヘレディタリー/継承』はそれと同じレベルの恐怖と興奮を味わえると感じました。

あまり深くは言いませんが「事態が最悪の方向へ向かうのを大勢でただ見ている」ことがこの映画の構造とも密接に関わってくるので映画館で大勢の観客と一緒に見るとさらに物語への没入度が高まると思います。そして暗闇にいる"何か"、何かの存在を感じる"音"、あの禍々しくて嫌ーな感じ、あの最凶に衝撃的なフィナーレを映画館の大スクリーンと音響で味わってほしいと思います。

 

・『ゲット・アウト

先述した3つの条件に当てはまったのでこちらも劇場で見ました。近年のホラー映画の傑作です。アカデミー賞3部門ノミネート、脚本賞を受賞したと聞くと格式高い映画という印象ですがきっちり怖いし最高に嫌ーな話です。でも痛烈な社会風刺もこめられていて僕は大好きです。この映画に深く感銘を受けたチャンス・ザ・ラッパーが地元シカゴの映画館を貸しきって無料上映したといういい話もあります。

 

・完全解説


公式サイトに「見た人限定完全解析ページ」が掲載されています。親切設計です。鑑賞後、あれはどういう意味?という箇所がある場合はここを参照してください。ほぼ網羅されていると思います。

映画感想『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』ニュート・スキャマンダーが主人公である理由

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原題:Fantastic Beasts: The Crimes of Grindelwald
製作年:2018年
製作国:アメリ
監督:デビッド・イェーツ
出演:エディ・レッドメインキャサリン・ウォーターストン、ダン・フォグラー、アリソン・スドル、ジュード・ロウジョニー・デップ

あらすじ:悪い魔法使いグリンデルバルドが脱走したので追いかけます。

ハリー・ポッター』シリーズのスピンオフ、そして前日譚にあたる映画『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(2016年)の続編。前作は魔法動物学者:ニュート・スキャマンダー(エディ・レッドメイン)が自分のスーツケースから逃げ出した魔法動物を探しているうちに魔法界を揺るがす大事件に巻き込まれていく…というお話でした。優秀な学者ですが魔法動物の話になると急に饒舌になったり常軌を逸した行動を取ったりするニュートの「魔法使いムツゴロウさん」っぷりが印象に残る楽しい映画です。これは誇張でもなんでもなく本当に「よーしよしよし」とムツ・スピリットあふれるセリフも登場します。動物愛を極めると皆ああいう感じのキャラクターに集約されていくのでしょうか。

冒険に巻き込まれてニュートの友人となる心優しい男ジェイコブ(ダン・フォグラー)と人の心を読むことが出来るクイニー(アリソン・スドル)の二人が個人的に大好きです。前作のラストで二人が別れるシーンではビンビンに泣いてしまいました。そういう意味で続編でジェイコブが再登場すると聞いた時は「あんなにきれいに終わったのになんでやねん!」という憤りと「またジェイコブに会える!」という喜びで心が引き裂かれそうになりました。

ちなみに自分のハリポタ習熟度を説明すると原作未読、映画は『賢者の石』と『秘密の部屋』をテレビで見た程度のハリポタ弱者です。そしてファンタビは大好きというポジションです。そんな状態で見たのですが…結論から言うと「しんどい」。いやーとにかくしんどい。あと「登場人物みんなかわいそう」。特に僕のような前作ファンにとってはつらい部分もありましたが、それと同時にかすかな希望を感じる部分もありました。他には「魔法動物は相変わらずかわいい」。そして「前作とは比べ物にならないくらいハリポタ知識過積載」という感じでした。

とにかく1作目の「おいで~ハリポタに詳しくなくても大丈夫だよ~」みたいなノリから2作目の「ハリポタ読んだやろ?ほないくで」という急転直下っぷりがすごい。洪水のように注入されるハリー・ポッター専門知識と怒涛のように襲い掛かる情報量に翻弄されているうちに映画が終わってしまいました。これが「この冬、日本中が魔法にかかる」(日本版キャッチコピー)ってやつなんですか。

前作で魔法省に捕らわれたグリンデルバルド(ジョニー・デップ)は護送中にあっさりと脱走。一方ニュートは恩師であるダンブルドア先生(ジュード・ロウ)に説得されパリに潜伏しているクリーデンス(エズラ・ミラー)を追うことになります。強大な魔力を持つクリーデンスと恐ろしい野望を抱くグリンデルバルドが手を組んだら大変なことになる…ということで魔法使いたちが奔走するというお話です。こう聞くとシンプルなお話に聞こえるかもしれませんが、前作からドドッと登場人物が増えた上に人間関係が複雑で真相が二転三転するため本当に疲れます。(それこそがハリポタ世界の魅力なのかもしれませんが)

登場人物は皆とても魅力的です。ニュートの兄テセウス(カラム・ターナー)は生真面目で弟を溺愛する感じが最高です。余談ですがエディ・レッドメインよりカラム・ターナーの方が実際は8歳年下と聞いたときは驚いてしまいました。カラムがオーディションの際にとっさにエディのおでこにキスをしたら採用されたというエピソードも最高です。そのキャラクターはテセウスに見事に反映されていると思います。

 

クリーデンスと逃避行するナギニ(クローディア・キム)も怪しくも切ない雰囲気が素敵です。僕だけかもしれませんがナギニさんは憂いを含んだ相田翔子っぽい、と感じました。淋しい熱帯蛇。終盤でナギニがクリーデンスにかける言葉はこの映画の重要なテーマの一つだと思います。恐らくあの言葉が今後の続編においても大きな意味を持ってくると思います。


グリンデルバルドもいつものジョニー・デップ節を抑えながらも圧倒的な魔力ではなく魅力で人々を誘惑する人物を丁寧に演じていると思います。人々の前に神出鬼没に現れては巧みな話術でそれとなく誘導するという手法が悪魔のようで単純な殺人鬼より恐ろしいと感じました。

そしてクイニー。冒頭のジェイコブとのラブラブシーンを見ると天真爛漫な明るい女性に見えるかもしれません。しかし他人の心を読めるという彼女の特技を知っていると、あの明るい性格は汚れた現実から自分の繊細な心を守るための防護策なんじゃないかと感じます。劇中で彼女が「見知らぬ街で迷子になってわんわん泣く」というシーンがあります。大人がそんなことをしたら普通驚いてしまいますが、彼女が胸に秘めている繊細さとその危うさを示す象徴的なシーンだと思いました。あまり詳しくは言えませんがそんな危うい彼女の存在が今後重要なキーになるのでは…と予想しています。(クイニーファンとしての願望込みですが)

 

そんな中いつも通り珍しい魔法動物を見つけてわあーっと感動するニュートには救われます。魔法動物のためならびしょ濡れになるし地面も平気で舐めるニュートさん。好意を寄せるティナ(キャサリン・ウォーターストン)についても瞳の特徴や歩幅の癖といったような「生態」で把握しているのがニュートらしくて最高です。もしかしてクリーデンスのことも珍しい魔法動物だと思って追いかけているだけなのでは…という疑惑が高まってきます。

しかしこれこそがファンタビシリーズの魅力なのではないかと思います。物語終盤の純血主義者の決起集会以降、魔法界を取り巻く状況はさらに悪くなるでしょう。今回の舞台である1927年のヨーロッパもこの後世界恐慌を経てナチス・ドイツが台頭する暗い歴史が待ち構えています。そんな暗い暗い世界の中でも自身の立場を崩さず、どちらの側にも肩入れせず、魔法動物のことを第一に、常に飄々と生きるニュートに希望を感じるのです。

一方でグリンデルバルドに加担するのは現状に不安や不満を抱えているため「私のところに来れば解決できる」という言葉に誘惑されてしまった人たちです。その人たちがいいとか悪いとかではなく、美辞麗句で人の不安に付け込み、いいように利用する支配者というのはいつの時代もいる、ということだと思います。この「正義」と「悪」の構造と対比が本作を『ハリー・ポッター』シリーズとはまた別の、違う味わいの作品にしているのだと思います。

全5部作に及ぶというファンタビシリーズ、最終的な着地点はグリンデルバルドとダンブルドアの対決になると思うのですが、その対決に至る背景にニュートやジェイコブのようなキャラクターたちの活躍があればいいな、と思っています。闇祓いのように攻撃的ではないただの動物学者のニュートや、かわいらしい魔法動物たちや、ただの人間でしかないジェイコブのような「選ばれし者ではない者」たちだからこそ出来ることがあると思うのです。実際にニュートは本作の中で本当にささやかですが今後の勝機に繋がる確かな偉業を達成します。それは彼が英雄だからではなく、偏執的なまでの動物学者だったから出来たことです。

これは最近のスター・ウォーズ(『フォースの覚醒』『最後のジェダイ』)や『ブレードランナー2049』にも見られる映画界の潮流の一つのような気がします。今挙げた作品のようにChosen One(選ばれし者)ではない者たちが平和のために、もしくは救いたい誰かのためにがんばる話を僕は熱望します。

本作を見て僕は、昨今の世界を取り巻く排外主義や根強い人種差別に対抗するには一人一人の小さな力が必要だというメッセージを感じました。原作・脚本のJ・K・ローリングブレグジット(英国のEU離脱)やアメリカのトランプ政権に批判的なスタンスを取っています。2020年に公開される続編では希望をより一歩進めてほしいと願います。あとすいません、これは個人的な要望なのですがみんなを幸せにしてあげてください、J・K・ローリングさん。ほんとお願いしますよ…

そしてこれを機にいい加減ハリポタを習得しようと思いました。とりあえず映画全8作品、がんばります。


・『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅

デビッド・イェーツ監督、J・K・ローリング脚本のファンタビシリーズ第1作。「逃げた魔法動物たちを捕まえる」というお話ですので2作目よりも動物の登場シーンが豊富で楽しい作品です。あと物凄い色気のグレイブス長官(コリン・ファレル)が印象的です。

 

エズラ・ミラーによる考察

クリーデンス役のエズラ・ミラーによるファンタビ2の考察。クリーデンスが置かれている状況を現代の社会問題と照らし合わせながら冷静に分析しています。記事後半に出てくる彼のハリポタガチオタクっぷりを象徴するエピソードも最高です。

映画感想『ボーダーライン ソルジャーズ・デイ』仕事をこなしただけなのに

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原題:Sicario: Day of the Soldado
製作年:2018年
製作国:アメリ
監督:ステファノ・ソッリマ
出演:ベニチオ・デル・トロジョシュ・ブローリンイザベラ・モナーマシュー・モディーンキャサリン・キーナー、マヌエル・ガルシア=ルルフォ

あらすじ:CIAが麻薬カルテル同士の抗争を企てますが途中で作戦中止になりました。

アメリカとメキシコの国境地帯で繰り広げられる麻薬戦争を描いた『ボーダーライン』(2016年)の続編。原題のSicarioはスペイン語で「殺し屋」という意味です。個人的には「国境」「昼と夜」「敵と味方」「法と秩序」「正義と悪」といった様々な『ボーダーライン』が登場し、そのボーダーラインが曖昧になったり踏み越えられたりする映画なので中々練られた良い邦題だと思っています。本作でもボーダーラインを越えることの危うさ、もはや巨大なビジネスとしてシステムが成立している国境越え、本当の正義とは、悪とは何なのかという様々な現実を突きつける映画となっています。

前作のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督から今回はイタリア人監督のステファノ・ソッリマにバトンタッチ。前作は撮影が名匠ロジャー・ディーキンスということもあり芸術映画のような重厚さがありましたが、今回はテンポの良さの中に真綿でじわじわと首を絞めるような演出とメキシコ国境地帯のような乾いた画面が印象的で見事でした。そして脚本は現実にある地獄を書かせたら超一級のテイラー・シェリダンが続投。相変わらず「マジでそんな世界があんの…?」とドン引きしてしまうほど地獄のような現実描写と臓腑にズドンとくる嫌ーな人間ドラマで見る人の眉間の皺を増やす仕事っぷりでした。

アメリカ国内で起きた自爆テロ。実行犯は麻薬カルテルの手引きでメキシコから来た不法移民である、と睨んだ国土安全保障省カルテルの殲滅に動き出します。まずこの冒頭のツカミに度肝を抜かれました。前作は「カルテルのアジトに行ったら壁の中が死体だらけ」という強烈なツカミで「メキシコ怖い!」というトラウマを植えつけましが、本作では「車から降りてきた男たちが民間人であふれるスーパーに入ってそのまま自爆テロ」という流れをほぼカットなしで描くというツカミで「自爆テロ怖い!」というトラウマを植えつけてきます。

国土安全保障省はCIAの工作員マット(ジョシュ・ブローリン)にカルテルの殲滅を依頼。マットは旧友の暗殺者アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)に「ルールなし。今回は何をやってもいい」と協力を要請します。麻薬カルテルに家族を皆殺しにされた過去を持つアレハンドロの瞳に火が灯ります。前作から見てる身としては地獄を経験しすぎて完全に人間として壊れてしまった二人の描写が印象に残ります。容疑者を非人道的、と言うかどう考えてもやり過ぎだろ!的な手段(軍事ドローンが家族の住む自宅をロックオンしている映像を見せる)で尋問するマット。そして前作以降死んだ目で潜伏していたであろうアレハンドロ。久しぶりに再開した二人が粗末な椅子に食事を置いて(部屋に食事用のテーブルがないので)もそもそと食べる様子は切なさの極みでした。

カルテルの構成員を装って別のカルテルのボスの娘イザベラ(イザベル・モナー)を誘拐しカルテル同士の抗争を誘発しようと試みますが、情報のリークや警察の裏切り等の不運が重なり作戦は暗礁に乗り上げます。その上なりゆきでメキシコ警察を殺害したことで政府間の問題に発展することを恐れた安全保障省が作戦の打ち切りを一方的に決定します。メキシコでイザベラと潜伏しているアレハンドロはどうするのか、マットはアレハンドロをどう処理するのか…。この各々が与えられた仕事をこなしただけなのに上層部の命令で地獄のデスマーチへと発展していく様子には胃が痛くなります。あるある、よくありますよこういうの。しかもよく考えると冒頭の作戦会議で安全保障省は明確に「やれ」と言ったわけではなくマット自ら誘拐作戦を提案するように促すというやり方で逃げ道を作っていることを思い出して心底嫌な気分になります。あるあるー本当にあるよーそういうの。上層部の一方的な命令をただ伝えるだけの上司にマットが言い放つ「俺は仕事をした。お前も仕事をしろ」というセリフが胸を打ちます。僕も会社でそう言いたくなる場面が何度あっただろう…。CIA工作員でも普通の会社員でも仕事の尻拭いはつらいということがよくわかります。この映画のタイトルの「ソルジャーズ」には「社会人」とルビを振ってもいいと思います。これはまさにソルジャーズ・デイ(社会人の日々)です。

社会人的なつらさが光る今作ですが、今回はギャングを志す青年ミゲルとカルテルの令嬢イザベラという対称的な二人の子どもを配置することで「子どもから大人へ」「平和な日常から地獄のような現実へ」という新たな「ボーダーライン」を越える話が加わり、より物語に深みが出ていました。この映画は子どもが地獄を体験することで成長する物語であり、人間として壊れてしまった主人公二人が彼らと関わることでかすかに人の心を見せる物語でもあります。特に仇であるボスの娘イザベラに自身の娘に起きたことを重ねて次第に同情を寄せるアレハンドロにじんわりと感動してしまいます。ベニチオ・デル・トロのクールな魅力と繊細な演技が光ります。そしてそのアレハンドロを何とかして守ろうとするマット…この二人の腐れ縁のような関係性がさらに強調されているのも素晴らしかったですね。

脚本のテイラー・シェリダンによるとこの『Sicario』シリーズは三部作だということなのでこの物語の続きが見れるのか!という思いと次はどんな地獄かな…という思いが交錯します。しかし最終章が楽しみであることは間違いありません。僕は仕事で嫌なことがあった日に駆け込むようにこの映画を見て最高にハマってしまったのでそんな精神状態の人に特にオススメです!ファック仕事!でもファックな仕事でも誰かが終わらせなればならない!俺たちもSoldado(兵士)だ!!

 

・『ボーダーライン』

監督ドゥニ・ヴィルヌーヴ、脚本テイラー・シェリダン、撮影ロジャー・ディーキンス、音楽ヨハン・ヨハンソンという最強の布陣で作られた前作。美しい映像や重厚な音楽も最高ですがとにかく「メキシコ麻薬戦争怖えー!」となる一本です。

 

・『オンリー・ザ・ブレイブ

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2018年のジョシュ・ブローリンは『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』『デッドプール2』と大活躍でしたが個人的に推したいのはこの一本。山火事に挑む消防隊の奮闘を描く人間ドラマ。「山火事なら俺たちに任せな!イエーイ!」みたいなアメリカンなノリの映画だと思って見ているとあまりにも衝撃的な展開に愕然とするとてつもない映画です。

映画感想『スカイライン 奪還』ナメてた地球人が実は殺人マシンでした

f:id:sexualrocker:20181119234623j:plain原題:Beyond Skyline
製作年:2017年
製作国:イギリス・中国・カナダ・インドネシアシンガポールアメリカ合作
監督:リアム・オドネル
出演:フランク・グリロ、ボヤナ・ノバコビッチ、ジョニー・ウェストン、カラン・マルベイ、アントニオ・ファーガス、イコ・ウワイス、ヤヤン・ルヒアン

あらすじ:エイリアンが地球を征服しに来たので返り討ちにします。

超大型宇宙船から放たれる青い光が人々を吸い込む…という地球規模の危機をほぼ全編LAの高級マンション内だけで描くという低予算映画にも関わらず抜群のVFXと息をつかせぬ怒涛の展開で大ヒットしたSF映画スカイライン 征服』(2010年)。その続編にあたるのが今作『スカイライン 奪還』です。エイリアンになすすべもなく侵略される人々を描いた『征服』の続編はいったいどうなるのか…と思っていたら出演がフランク・グリロ、イコ・ウワイス、ヤヤン・ルヒアンという超武闘派俳優ばかりで「あっこれエイリアンをボッコボコの返り討ちにするやつだ」と即座に理解できたのを覚えています。
実際に見てみると…これがもうサービス精神の塊というか、作り手がやりたいことを全部詰め込んだ夢のような映画でした。左手に赤ちゃん、右手にエイリアン・ウェポンを装着したフランク・グリロインドネシア最強格闘技シラットでエイリアンをただの肉塊にするイコ・ウワイス!人間の格闘に影響されたのか回し蹴りをかましてくるエイリアン!今回物語を大きく動かすことになる『征服』に出てきたアイツ!そして特に何の説明もなく上半身裸で無双するヤヤン・ルヒアン!(ちなみに監督はヤヤンのキャラをどう使うか迷っていて最終的に現場で今のような扱いに決まったそうです。確かにそんな感じがします!!)こんな素晴らしいものを見せてもらえるなんて!もちろん映画を見ている間は終始笑顔。上映終了後もにっこにこの笑顔で劇場を出ることができました。
製作・監督・脚本のリアム・オドネルは前作『スカイライン 征服』の脚本を手がけてスカイライン世界を作り上げた男。好きな映画を聞かれると『エイリアン』『プレデター』『ターミネーター』『スターシップ・トゥルーパーズ』『インデペンデンス・デイ』と答え、尊敬する映画監督は「ジェームズ・キャメロンジョン・カーペンター、そしてポール・バーホーベン」と答える信頼できる男です。個人的に映画の趣味がドカブりで「こいつはもしかして俺か?」と思っていたら1982年生まれの36歳ということで僕と同世代でした。向こうでも「午後のロードショー」みたいな番組がやってるのでしょうか。
LA市警のマーク(フランク・グリロ)と息子のトレント(ジョニー・ウェストン)が乗っていた地下鉄がエイリアンの襲撃を受けます。そこで知り合った地下鉄の車掌さんや盲目の老人とともに巨大宇宙船に吸い込まれてしまいます。前作は予算の都合で描けなかったという宇宙船の内部をこれでもか!と見せてくれます。さらに生物の体内のようなグロテスクな船内に死体がゴロゴロ転がっているというゴアさ。吸い込まれた人間が実験動物のように扱われたり消耗品のように捨てられたりする描写はまさにR15指定!という迫力です。
そこからなんやかんやあって内戦状態のラオスに不時着し、反政府ゲリラのスア(イコ・ウワイス)と政府軍の捕虜チーフ(ヤヤン・ルヒアン)と合流したあたりからこの映画はSFスリラーからSFバトルアクションにシフトしていきます。いくら武闘派が揃っても巨大武器と兵力を持つエイリアンを倒すのは難しいのでは…というこちらの不安をよそに、追い詰められた一行がゲリラとともに本当に銃火器と近接格闘のみで地球を「奪還」していく様は血が滾ります。余談ですが本作のクリーチャーデザインアーティストがイコとヤヤンの強烈なアクションのテスト映像を見て「このままでは絶対にエイリアンスーツが壊れる」と判断して急遽スーツの一部を柔らかい素材で作り直したという彼ららしい豪快なエピソードがあります。
エイリアンVSシラットという夢のようなシーンは当然最高なのですが、最終決戦地をラオスにしたことでかつてベトナム戦争アメリカ軍用機から猛爆撃を受けたという歴史的背景を彷彿とさせつつ、マークとスアの間に「かつて戦争で争った国同士でも共通の敵が現れれば共に闘う」という文脈が生まれて物語に厚みを持たせているのが素晴らしいと感じました。一見大味な映画に見えるかもしれませんが、マークとトレントの親子関係や、"指輪"に関する描写、冒頭に出てくる女性の伏線等々、ストーリー運びはかなり丁寧に作られていると感じました。
このようにエイリアン侵略スリラーから始まり、ゴア描写、死体の山、巨大宇宙船、エイリアンのバトル、そしてベトコンに武術アクションに大怪獣バトル(!)、さらには「おおおお!」と声を上げたくなるほど燃えるラストまで盛りに盛った特盛っぷりに感服しました。はっきり言って個人的2018年ベスト級の映画です。作り手には感謝と拍手を送りたいと思います。既に脚本が完成しているという3作目も絶対に作ってほしい!

 

・『スカイライン 征服』

エイリアンが地球を征服するまでの三日間をLAの高級マンションにいる普通の人の目を通して描くSFスリラー。ラスト10分のアゲが本当にすごいのでぜひ見てほしいと思います。今作にも繋がる話なので『奪還』鑑賞前に予習することを強くお勧めします。

 

・『ザ・レイド

 インドネシアの格闘技シラットと、イコ・ウワイス、ヤヤン・ルヒアンという映画武術界の至宝を世界に知らしめたアクション映画の傑作。マフィアの巣食うマンションに閉じ込められた特殊部隊が脱出を試みるスリラー要素と超絶技巧のシラットアクションが融合した素晴らしい映画です。

 

VFX制作会社ハイドラックス

ハイドラックス - Wikipedia

スカイライン 征服』の監督を務めたグレッグ&コリン・ストラウス兄弟が設立したVFX制作集団。初期の仕事がリンキン・パークレッド・ホット・チリ・ペッパーズのMV制作だったというエピソードも最高ですし、手がけた映画のラインナップを見るともう何というか「俺の家のDVD棚か!」と言いたくなるぐらい最高の映画ばかりです。映画界ではダルデンヌ兄弟コーエン兄弟ルッソ兄弟といった巨匠兄弟が有名ですがストラウス兄弟もいるぞ!と高らかに叫びたくなります。

 

・信頼できる男、リアム・オドネル監督

eiga.com

moviche.com

まるで午後のロードショーで育ったかのような素晴らしい趣味をお持ちの監督。フランク・グリロに出演をオファーしたのはギャビン・オコナー監督の『ウォーリアー』を見たのがきっかけ、というエピソードも個人的には100点満点です。

映画感想『ボヘミアン・ラプソディ』愛にすべてを

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原題:Bohemian Rhapsody
製作年:2018年
製作国:アメリ
監督:ブライアン・シンガー
出演:ラミ・マレックジョセフ・マッゼロベン・ハーディ、グウィリム・リー、ルーシー・ボイントン、マイク・マイヤーズ、アレン・リーチ

あらすじ:1970年イギリスでクイーンというバンドが結成されました。

いやー素晴らしい映画でした。個人的にクイーンは親の影響で好んで聞いていて、バンドについてはメンバーの名前と顔とある程度の生い立ちぐらいしか知らないレベルなのですが深く感動しました。クイーンの曲はちょっとしか知らない!とか「ジョジョの奇妙な冒険」の4部や「魁!!クロマティ高校」でしかクイーンのことを知らない!という方でも確実に熱く心を揺さぶられる映画になっていると思います。

ボヘミアン・ラプソディ』は『ユージュアル・サスペクツ』や『X-メン』シリーズでおなじみのブライアン・シンガー監督の満を持してクイーン伝記映画、ということだったのですが…実際は監督が途中降板、急遽デクスター・フレッチャー監督が後処理を行ったという経緯がありました。この映画の何割がブライアン・シンガー監督の目指したものなのかはわかりませんが、映画終盤までどんどん物語を盛り上げて最後にエモーションを爆発させる作りはブライアン・シンガー映画っぽいなと思いました。おそらく周りのスタッフや俳優陣の努力もあったのでしょう。そんな監督交代劇のドッタバタを全く感じさせない堂々としたバンド伝記映画の傑作でした。
ブライアン・メイ本人がアレンジしたというシンフォニックギターの20世紀FOXファンファーレでいきなりテンション爆アゲなまま最後のライヴエイドまでノリノリで突っ走るこの映画。最終的な落としどころを歴史的パフォーマンスとして名高い85年のライヴエイドにしたのは本当に慧眼だと思います。ともすれば湿っぽくなりすぎたり感傷的な形で終わってしまいそうな題材ですが、この映画では最高のライヴを見た後のような感動と爽快感とほんの少しのさびしさを持って劇場を後にすることができます。とにかくこの約20分に渡るライヴエイド完全再現(メンバーの服装、カメラマンの位置、ステージ脇にいるスタッフの仕草からピアノに置かれたペプシのコップの角度までこだわった驚異的再限度!)は本当に圧巻ですのでこれだけでも見る価値は十二分にあると思います。
若いキャストの演技も素晴らしく、ブライアン・メイ(グウィリム・リー)は理知的でバンドのお母さん的存在、ロジャー・テイラーベン・ハーディ)は野心的で天真爛漫、ジョン・ディーコン(ジョゼフ・マゼロ)は冷静でマイペース、そして自信家で圧倒的な存在感のフレディ・マーキュリーラミ・マレック)!最初はみんなそれほど似てないかな…と思ったのですがそのうちえっ…本人?と感じるほどに憑依する瞬間が何度もあって本当に素晴らしい演技だったと思います。
特に印象に残るのがクイーンのメンバーがお互い衝突しつつも「やっぱり俺たちは最高だな!」となるシーンが何回もあることです。フレディの歌を初めて聴いた瞬間のブライアン・メイの表情、「これ以上やったら犬笛みたいになるぜ!」と文句を言いながら「Bohemian Rhapsody」のコーラスをレコーディングするロジャー、メンバー同士で揉めている中ジョンが「Bite the dust」のベースラインを弾き出すとみんなノリノリになって練習が始まる…等々バンドで音楽をやることの楽しさが表現されていたと思います。
かと言ってこの映画の魅力はバンドをやっている人間にしかわからないということではありません。物を作ることの苦しみ、楽しさ、それを複数の仲間で作り上げていくことの達成感などは我々のような普通の人間にも共感できる感情です。さらにこの映画で描かれるフレディ・マーキュリーの物語、つまり自分が何者か分からずもがき苦しみ、辛い経験や失敗を経て、やがて本当に大切な仲間がいることや愛すべきパートナーに巡り合う…という話は我々にも理解できる普遍的な話だと思います。
僕が最も感動したのは映画の冒頭、一人ベッドで目覚め、髭を整え、車に乗ってライヴエイドの会場に行き、大歓声に沸くステージに向かうフレディの後姿に一人の天才の孤独のようなものを感じたのですが、映画を見ていくと実は全然そんなことはなかったということが後にわかるシーンです。前述したブライアン・メイが初めてフレディの歌を聞いた時の表情と、ライヴエイドのステージで歌い始めたフレディの声を聞いた時の表情が対になっていてさらにボロボロと泣いてしまいました。その人生の劇的な幕引きから何となく「悲劇の天才」とイメージする人も多いであろうフレディ・マーキュリーを、神格化することなく、実際はとても人間的でダメなところもいっぱいあるけど素直で周りの人から愛される魅力的な人物だったということを改めて世界に伝えたいという作り手のメッセージを感じました。
実際の史実と異なる点が多いと指摘されている今作ですが、個人的には伝記というよりも「なぜフレディは世界中から愛されたのか」「個性の塊のようなクイーンがなぜ解散しなかったのか」という部分に焦点を当てた作品だと感じました。この『ボヘミアン・ラプソディ』についてブライアン・メイは「これは伝記映画ではなく、硬い岩から掘り出されたような、純粋なアートだ」と表現しています。この映画はクイーンを愛する人たちと、クイーンの中にいた人たちが作り上げた荒々しく、燦々と輝き、見る者を魅了する彫刻のような美しい映画だと思いました。

 

・『X-MEN フューチャー&パスト』

ブライアン・シンガー監督が手がけたX-メンシリーズで一番好きなのがこの映画。おじいちゃんになってすっかり仲良くなってるプロフェッサーX(パトリック・スチュアート)とマグニートーイアン・マッケラン)、音楽、動作、アクション含め最高としか言いようがないクイックシルバーエヴァン・ピーターズ)の高速移動シーン、60年代ファッションが最高に似合うミスティーク(ジェニファー・ローレンス)など見どころ満載です。

 

・『ストレイト・アウタ・コンプトン』

ミュージシャンの伝記映画の傑作というとやはりどうしてもこの映画を思い出してしまいます。史実と微妙に違うけど感動してしまう点(アラビアン・プリンスの存在が消えている、ドレーが聖人すぎる)と、「悪い側近と袂を分かつ」という点で似通っていると感じました。まあこちらの側近:シュグ・ナイトは比較にならないくらい本当にやばい人だったんですが。

 

・『ボヘミアン・ラプソディ』が完成するまでの苦難の道程

この映画が完成するまでの苦難の道程がまとめられています。引用されてるサシャ・バロン・コーエンの写真のチョイスがいい。フレディ本人が生前に自身の伝記映画を作りたいですか?と聞かれて「面白いと思うけど確実にXXX(トリプルX)レーティングだね!」と答えたという逸話があります。サシャが主演だったら間違いなくそうなっていたと思います。それはそれで見たかった!