第9惑星ビニル

見た映画の感想を書き綴ります。

映画『バービー』で振り返る『サタデー・ナイト・ライブ』

こんにちは、ビニールタッキーです。

映画『バービー』を鑑賞しました。『レディ・バード』『ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語』のグレタ・ガーウィグ監督と、『アイ、トーニャ』『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』『プロミシング・ヤング・ウーマン』の製作を手掛けたラッキーチャップ・エンターテイメントを率いるマーゴット・ロビーのタッグ作ということではちゃめちゃに楽しみにしていた映画でしたが、明るくポップに、時に痛烈に女性と男性の生きづらさとそれでも前進するための何かを描く映画でした。

しかし『バービー』を見てる間、自分の脳にはあることが常に思い浮かんでいました。「これ『サタデー・ナイト・ライブ』のコントみたいだな」と。

サタデー・ナイト・ライブ』(略称:SNL)についてはこのブログで何度も言及しているので詳細はそちらをご覧ください。

映画『バービー』は製造元のマテル社の名前をバッチリ出しつつバービー人形が背負っている正と負の面をジョークを交えながら語る作品でしたが、この「公式の名前を出しつつ社会的な皮肉を交えて痛烈にジョーク化する」感じがSNLのコントっぽい!と感じたのです。

さらに『バービー』は人形の世界の中でキャラクターたちが平然と日常を過ごしている感じもコントっぽいと感じました。SNLのコント、というかアメリカのコメディでよく見るdeadpan(無表情ギャグ。どれだけおかしな状況でも真顔でいることで笑いを生むコメディの形態)みたいな感じの映画でしたね。

調べてみるとSNLではバービーのスケッチというのは何度も作られています。特にレギュラー陣でもトップの人気だったエイミー・ポーラーがバービー役を演じ、そこにホストの女性が絡んでくることでソープオペラのようなドロドロの愛憎劇になるというスケッチがありました。

 

こちらは2005年のスケッチ「Inside Barbie's Dreamhouse」。バービー役はエイミー・ポーラー、ケン役は同じくレギュラーコメディアンのウィル・フォーテ。ケンが連れ込んでいた浮気相手のバービーがパリス・ヒルトンという布陣。映画『バービー』ではバービーの足が常にハイヒールを履くように爪先立ちになっていましたが、こちらは関節も手もまっすぐ、さらに腕が取れたりするなどバービー人形の再現度では映画に負けていません!(?)

 

こちらはブリトニー・スピアーズが子守りが大好きな妹スキッパーを演じたスケッチ。実は妹だと思っていたスキッパーがバービーの娘だった…というややこしいドラマが展開されます。こうして見るとまさにバービーっぽいイメージの人がバービーのスケッチをオファーされていたという歴史が垣間見えますね。

こちらは時代がグッと近くなって2018年のスケッチ「Barbie Instagram」。マテル社が発足したバービーのインスタグラムにどのようなキャプションを付けるかという会議の模様です。画像で一言…というにはあまりにも頓珍漢なキャプション例に笑ってしまいます。特に異次元の解釈をするドナルド・グローヴァーが怖い。改めて見てみるとマテル社の男性が「バービーはそんなんじゃない!」みたいに話しているのが映画『バービー』における重役は男性だらけという風刺描写と似通ってる感じがします。

 

ちなみに「Ken Instagram」というスケッチもあります。こちらはレイチェル・ブロズナハンの独自解釈がヤバいコントです。

 

『バービー』がSNLっぽいと感じたことのもう一つの大きな要因が、「出演者の多くがSNLに出たことがある」ということです。彼ら/彼女らのコメディ演技を見ると「そういえばSNLでも面白い演技してたもんなー」と思い返すような感じでした。

もちろん主演のマーゴット・ロビーもホストを務めたことがあります。彼女のホスト回で好きなスケッチはこちらの「Live Report」。道路の陥没事故現場でインタビューを受ける男女。マーゴット演じる美女と隣にいる冴えない男が夫婦だとわかりアナウンサーやニュースアンカーが騒然とするコントです。まさにマーゴット・ロビーというアイコンをうまく利用したネタですね。こんな見た目だけどいいところがあるのだろう…と思っていたアナウンサーが彼の足元を見てクロックスを履いている(しかも靴下を履いた上で)というファッションにショックを受けるというギャグは笑いました。

マーゴット・ロビーのスケッチで衝撃的だったのはこちら「The Librarian」。映画でバービーが「私は醜い!」みたいなことを言っても「マーゴット・ロビーが言っても説得力がない」みたいな扱いを受けていましたがコントではこれぐらいやってんねんで!

 

映画『バービー』で忘れらないのがライアン・ゴズリングが演じたケンでした。グレタ・ガーウィグ監督が彼をケン役に選んだきっかけはSNLだったという証言があります。

ライアン・ゴズリングSNLにて2回ホストを務めているのですが、その両方とも監督のお気に入りで、特にこの↓スケッチ「Guy Who Just Bought a Boat」が大好きで、面識も何もないのに当て書きで脚本を書き始めたというほどです。グレタ監督はこれを見てゴズリンの中にKenergy(ケンのエナジーを感じたそうです。

番組内のニュース番組風コーナー「Weekend Update」の準レギュラーキャラである「Guy Who Just Bought a Boat」(船を買ったばかりの男。演じるのはレギュラーコメディアンのアレックス・モファット)は、金持ち風のチャラい男がニュースの話題について直球の下ネタを交えながら語るというしょうもないキャラクターなんですが、彼の従兄弟という設定の「Guy Who Just Joined Soho House」(ソーホーの家に入ったばかりの男)を演じたのがライアン・ゴズリングでした。この頭のネジが数千本抜けてるような男の演技にグレタ監督がケンっぽさを見出したということなんですかね…?

ライアン・ゴズリングがホストの回のコントはどれも傑作で、特に有名なのはケイト・マッキノンと奇跡のケミストリーが起きた「Close Encounter」ですね。

国防総省に招かれた3人の民間人が宇宙人との接近遭遇について語るというスケッチなんですが、とにかくはちゃめちゃな体験談を語るケイト・マッキノンの面白さに耐え切れずライアン・ゴズリングが笑いを噛み殺しているのが最高です。SNLではたまにこういうBreaking Character(コント中に吹き出してしまうこと)が起きて神回と評されることが多いのですがゴズリンはとにかく「ゲラ」らしくてBreaking Characterしまくりでした。

 

もう一人のケンを演じたシム・リウのコメディ演技の素晴らしさは今更言うまでもありませんね。元々シットコム出身な上に身体も動くということで総合的な面白さがありました。彼がSNLでホストを務めた回だとやはりアジア系のレギュラーコメディアンのボウエン・ヤンと「アジア系として初の◯◯」という称号の量で競い合うというメタ的なスケッチ「Simu & Bowen」が皮肉たっぷりで好きです。このコントでもdeadpanという単語が出てきますね。

 

大統領バービーを演じたイッサ・レイもSNLでホスト経験者です。この人は見た目はカッコいいのに明け透けなギャグをかますので最高ですね。思い返すと『バービー』劇中でバッチリF-wordを使っていたのはイッサ・レイでしたね。彼女がホストを務めた回で個人的なお気に入りのスケッチ「First Date Exes」を貼っておきますね。彼氏と初めてのデートで食事をしているとそこに次から次へと奇妙な元彼たちが現れる…というコントです。

 

人魚ケン役でカメオ出演していたジョン・シナもホスト経験者。2016年なのでちょうど俳優業が本格化する頃ということで今の演技メソッドとは違うシナが見れます。

 

人魚バービー役のデュア・リパもSNLカメオ出演したことがあります。元々クリステン・ウィグがホストの回に音楽ゲストとして出演していたんですが、この「U.S.O. Performance」でカメオ出演しています。このコントはそれまで地味だったボウエン・ヤンが本来の持ち味を開花させたコントで個人的に大好きな逸品です。

 

バービーとSNLの話になるとケイト・マッキノンの話をしなければなりません。SNLで10年間レギュラーを務めたベテランです。変てこバービー役としてSNLのコントとほぼ同じテンションで出てきた時には笑うと同時に泣きそうになりました。(ケイト・マッキノンは2022年に番組を卒業してしまったので)今回の映画出演で知ったのですがケイトとグレタ監督は同じ大学の演劇部出身で旧知の仲だったということだそうです。(↓のリンク参照)ケイト・マッキノンは大好きなのでどのコントを貼ろうか相当悩んだんですが、やはりフロリダのDon't Say Gay法案についてコントキャラクターではなくケイト本人として登場して話芸を披露した動画を貼っておきますね。

 

同じくバービーとSNLの話をするならウィル・フェレルも重要です。SNLで7年間レギュラーを務め、特に当たり役だったジョージ・W・ブッシュ大統領のモノマネからも分かる通り、不遜で偉そうで子どもみたいな中年男性を演じさせたら天下一品です。出演したスケッチは山ほどあるのでここにはSNLが公式で作成した「Best of Will Ferrell on SNL」を貼っておきます。

そして…これは本当に些細なことなんですが、『バービー』で現実世界の学校に行ったケンが何度も話しかける女性、ローレン・ホルトという人が演じているんですがこの人SNLのシーズン46に1年だけ出て去ってしまったコメディアンだったんですよ。SNLでは1シーズンでレギュラーから外されるということはよくあることらしいんですが、元気な姿を見れて安心しました。日本でこんなことを感じているのは自分を含めほんの少しかもしれません。でも嬉しかった…

 

ちなみにグレタ・ガーウィグ監督も実はSNLにちょっとだけ出たことがあります。ちょうど『レディ・バード』が話題になった2017年にシアーシャ・ローナンがホストを務めた回で披露された「The Race」。80年代オフィスドラマ風のスケッチで、書類を取りに行く速さを競う男たちのドラマ、というしょうもないコントなんですが上司役でグレタ監督がカメオ出演しています。さすがシアーシャ先輩とグレタ監督の絆は深い。

 

というわけで映画『バービー』からSNLを振り返ってみました。こうして見ると映画『バービー』とSNLはかなり関係が深いように感じるのは僕だけでしょうか。単純に「オールスターキャスト映画だから大人気番組のSNLの出演者と多く被ってように見えるだけ」と言えるかもしれません。しかし風刺と笑いと社会的メッセージを織り交ぜた物語の構造、ケン役抜擢のエピソード、重要な役にSNLのコメディアンを配するなど、やはり『バービー』の根本の一つにSNLがあったように思えてならないのです。

ここで大変惜しまれるのはもしSNLが稼働中だったら絶対『バービー』のコントが作られただろうに…ということ。現在SNLはシーズンの途中で米国脚本家組合(WGA)がストライキに入ったためずっと放送休止状態になっています。

日本もそうですがコント番組というのは一流の脚本家たちが書き上げた脚本を元にコメディアンがコントに仕立て上げるものです。特にSNLは脚本家にもスポットライトを当てる番組で、脚本家たちもコントに登場したり、脚本家が亡くなると追悼映像を流したりするほどです。実際多くのコメディアンたちもストライキに賛同しています。つまり「面白いコントに面白い脚本家あり」ということなのです。そんな彼らが正当な待遇を受けてほしいと願うばかりです。本当にお願いしますよ…俺はSNLでボウエン・ヤンがケン役で踊りまくるコントが見たかったんや!!

そんな感じで社会風刺とコメディを織り交ぜた『バービー』面白いのでみんな見ましょう!そしてその根本にある『サタデー・ナイト・ライブ』も見てね!Huluだったら日本語字幕付きで見れるよ!