第9惑星ビニル

見た映画の感想を書き綴ります。

『ブリグズビー・ベア』好きのみんなー!Netflix『サタデーモーニング・オールスターヒッツ!』を見てくれー!

こんにちは、ビニールタッキーです。

聞こえますか…いま私は2018年公開の映画『ブリグズビー・ベア』が大好きな皆さんに語りかけています…

赤ん坊の頃に誘拐され、偽の両親のもとで彼らが制作した教育番組「ブリグズビー・ベア」だけを見て育った25歳の青年が、初めて外界に出たことから巻き起こる騒動を描いたコメディドラマ。外の世界から隔絶された小さなシェルターで、両親と3人だけで暮らす25歳のジェームス。子どもの頃から毎週届く教育ビデオ「ブリグズビー・ベア」を見て育った彼は、現在はその世界の研究に没頭する日々を送っていた。そんなある日、シェルターに警察がやって来て、両親は逮捕されてしまう。これまでジェームスが両親だと思っていた男女は、実は誘拐犯だったのだ。ジェームスは生まれて初めて外の世界に連れ出され、“本当の家族”と一緒に暮らすことになるが……。スタッフ・キャストにはテレビ番組「サタデー・ナイト・ライブ」のチームが集結。ジェームスの育ての父親テッドを「スター・ウォーズ」シリーズのマーク・ハミル、カウンセラーのエミリーを「ロミオ&ジュリエット」のクレア・デーンズがそれぞれ演じる。

その突拍子もない設定と、楽しく切ない成長物語、「安っぽい・無意味だ・ジャンクだ」と言われるようなフィクションが誰かの心を救うこともあるというクリエイター賛歌な物語、そしていかにも80年代的で懐かしい映画内番組「ブリグズビー・ベア」のクオリティの高さから一部でカルト的な人気を誇る映画です。僕もどうしても見たくてこの映画のために上京してヒューマントラストシネマ渋谷で見たのを覚えています。(超かわいいパンフも買ったよ!)

この映画の脚本と主演を務めたのはカイル・ムーニー。2022年現在もアメリカの人気コント番組『サタデー・ナイト・ライブ』でレギュラーを務める人気コメディアンです。そのナヨっとした見た目と皮肉っぽい笑いでコントの中では主にいじめられっ子の役やコミュニケーションが苦手なオタク役、陽気なキャラクターが多いテレビ業界で周りにうまく馴染めないコメディアン(本人)みたいな役柄が多い人です。

カイルのもう一つの特徴が濃厚な80年代フリークであること。特に80年代の子供向けテレビ番組ばかり見て育ったそうで、彼の歌ネタ系コントはあの頃を感じるポップでキッチュなものが多いです。1984年生まれの37歳ということで個人的に自分と年齢が近くて同じようなカルチャーを摂取してたんだな…とSNLのレギュラーの中でも特に親近感を覚えています。

そんなカイル・ムーニーと下積み時代からの盟友デイヴ・マッカリー監督が組んで生まれたのが『ブリグズビー・ベア』なんですが、この二人に加えてアニメーターのベン・ジョーンズがトリオを組んで新しく手掛けたのが2021年12月から配信開始したNetflixのドラマシリーズ『サタデーモーニング・オールスターヒッツ!』なんです。

ハチャメチャな設定のアニメと、懐かしさあふれる実写が両方楽しめる、80年代から90年代に放映された土曜の朝の定番番組にオマージュをささげるハイブリッド番組。

うーんさすがNetflixの説明文。ざっくりとし過ぎです。まあ日本人になじみのないアメリカの定番番組のパロディなので無理もないんですが…しかしこれではおそらくこの番組の魅力を1/3も伝えきれていない!というか実際にネットで検索しても日本でそこまで話題になっていない!この『サタデーモーニング・オールスターヒッツ!』と『ブリグズビー・ベア』のクリエイターが同じということもほとんど知られていないのでは…ということでSNL大好き!カイル・ムーニー大好き!『ブリグズビー・ベア』大好き!な僕がご説明します!

ドラマシリーズといってもこちらは80年代~90年代初頭風のどこか懐かしくてチープな子ども向け番組を2021年に本気で再現した30分番組です。全8エピソードでナビゲート役の登場人物が毎回2、3個の番組内レギュラーアニメを紹介する流れとなっています。(後半はそうでもなくなっていくんですが…)主な番組内コーナーをいくつかご紹介します。

『スマッシュ!』

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双子のスキップとトレイボー(どちらも演じているのはカイル・ムーニー)がナビゲート役で様々なアニメ番組を紹介します。一応これがメインの番組名ということになります。最初は仲のいい二人ですがアニメ『ストロンギマルズ』に弟の方のスキップが特別出演したことをきっかけに人気に差がついて関係性にヒビが入る…というスリリングな展開があります。さらに『スマッシュ!』が人気番組となり規模がどんどん大きくなっていく話がエピソード後半のメインストーリーとなっていきます。

『ランディ』

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鬱病アルコール依存症の恐竜ランディが消防士の彼女と別れたり町内でもめ事を起こしたりするショートアニメ。(ランディの声はカイル・ムーニー)オープニングこそ明るく楽しい感じですが、ドラムが得意で音大に入学したランディが大学生活にうまく馴染めなかったり地元の友人と疎遠になったりと全く楽しい気持ちにならないアニメで最高です。

『クリエイト・ア・クリトルズ』

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ケアベア風のカラフルなクマちゃん妖精たちと一緒に育った少年が大人になり彼らを物置小屋に隠しながら所帯を持つ…というアニメ。社会人になった主人公が妖精たちとの関係をいつまで続けるかという劇画・オバQのような嫌な空気が漂うアニメです。彼らが精製する「クリトル・グリッターズ」を鼻から吸うとハッピーでクリエイティブな精神状態になるという直接的なドラッグ描写も最高です。

『ストロンギマルズ』

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80年代のアニメ『サンダーキャッツ』をもろにパロったアニメ。動物顔の宇宙戦士たちが母星の危機を救うというSFファンタジー。宇宙が舞台の壮大な物語だったんですが、前述の双子の片方スキップが声優として特別出演したことをきっかけに大幅な路線変更が行われます。このあまりの路線変更っぷりが爆笑ポイントです。確かに脇役の方が人気が出てストーリーが変わるって今でもわりとある話だよね…と妙に納得するアニメです。

上記のアニメの合間に架空の商品CMやドラマCMなどが流れたりします。というかこの番組自体が『スマッシュ!』を録画した粗い画質のVHSを再生している体になっているので時折上書きされたホームビデオやニュース番組の一部が流れたりしてヴェイパーウェイブ感があるのも最高です。先にあげたのはだいたいエピソード1~4くらいまでの内容なんですが、この合間合間に流れる一見何の関係もないCMやニュース番組が後に大きな意味を持ってくるというスリリングな展開が後半に待っていますのでぜひ見てほしいです。「えっ!?そういう方向に行くの!?」とびっくりしますよ!

この番組の成り立ちについてカイル・ムーニーがインタビューに答えています。そもそもはアメリカで土曜日の朝に放送されていた老舗の子供向け番組『Saturday Morning Cartoon』(日本でいえばニチアサみたいな感じでしょうか)が元ネタ。Netflixの説明文にあった「80年代から90年代に放映された土曜の朝の定番番組」がまさにこれです。カイル・ムーニーとデイヴ・マッカリー監督がアニメーターのベン・ジョーンズ(あの怪作『ネオ・ヨキオ』にも関わった人物!)と会ったときに「ああいう子供向け番組が好きだったんだよね~」と盛り上がって膨らんだ企画だそうです。その後カイルの実家にあったVHSやネット上にある膨大な映像アーカイブを参考に練り上げたそうです。

参加している声優陣も目が離せません。何の役かは伏せておきますが、カイルの相棒で『ブリグズビー・ベア』にも出演していたベック・ベネットやSNLの元メンバー:フレッド・アーミセン(ちなみにベックとフレッドはNetflix配信の傑作アニメ映画『ミッチェル家とマシンの反乱』でロボット二人組の声をやってます!)、同じくSNL現レギュラーのクリス・レッド、さらにエマ・ストーン(!)ポール・ラッド(!!)などなど。

まあ色々と語ってきましたが本当に気軽に見れる番組なのでおススメです。僕なりに表現すると既存の子供向けアニメの枠組みを解体して哀愁や大人の事情のようなフレーバーを振りかけている…という点でアメリカ版ギャグマンガ日和みたいだなと思いました。僕なんかは家で酒を飲んでてあと30分ぐらいで寝ないとな~という夜に適当に流して寝る、ぐらいのスタンスで鑑賞しました。おそらく作り手も納得してくれる正しい鑑賞スタイルだと信じています。(まあモーニングって言ってるので本当はシリアルを食べながら朝見るのが一番なのかもしれませんが…)

それでいて後半の展開では子供向け番組の在り方、家族や兄弟の在り方、そして「安っぽい・無意味だ・ジャンクだ」と揶揄されるようなものが実は大切なんだということを皮肉を交えつつも優しく示してくれる…ということでやはりこれは『ブリグズビー・ベア』を作った人たちの作品なんだな!と感動しました。

というわけでもう一度。『ブリグズビー・ベア』好きのみんなー!Netflix『サタデーモーニング・オールスターヒッツ!』を見てくれー!合い言葉は「uh..Subs?」(サブは?)