この映画宣伝がすごい!2017(番外編)
こんにちは、ビニールタッキーです。
先日『この映画宣伝がすごい!2017』を書きました。
毎年トンチキな映画宣伝をまとめて『この映画宣伝がすごい!』という形でご紹介していますが、まとめるためにネット記事を巡回している最中に「これは本来の意味ですごい!」「もっと知られてほしい」と感じる宣伝があります。それらをまとめて「番外編」という形で何回かご紹介してきました。
2017年もそういった宣伝がいくつかありましたので『この映画宣伝がすごい!2017(番外編)』としてご紹介します。
まずはこちら!
「信頼できる字幕翻訳家」としておなじみの松浦美奈さんが『光をくれた人』のトークイベントに登壇。字幕翻訳の観点から見る映画の魅力について語られていました。
「私たち(字幕翻訳家)は、最初に台本のチェックを兼ねて、これから自分が翻訳するセリフを3秒4秒ごとに印をつけていく“箱を割る”という作業をするんです。ですが、今回は仕事そっちのけで見入ってしまった。翻訳しているときは、セリフがないところは飛ばしてしまうことも多いんですが、この作品はセリフがないところも全部見て、しかも何度も同じシーンを繰り返し見ながら仕事していました」というほど。
松浦氏は「セリフが簡単とか難しいとかではなくて、優れた映画というのは止まらない。どんどんセリフが生まれてくるんです」と独自の“良作の条件”を挙げる。「(優れた映画は)翻訳をやっていても、“また同じセリフが出てきちゃったな。違う言い方しなくちゃいけないわ”っていう風に悩まないで済むんです。アクション映画とか“何度も『Come on.』って言うなよ!”って思うし、出てこない人物のことをセリフで全部説明しちゃう作品はかえって困るんですが、本作は違う」と映像や音楽を含めた表現の豊かさに太鼓判を押した。
この映画に惚れ込んでいる様子がよくわかります。そして字幕翻訳家ならではの視点の話がとても興味深いです。もっとこの話を聞いていたい!と感じました。
松浦さんが過去に手掛けた映画や字幕翻訳に対するこだわりについてはこの記事がわかりやすく面白いのでおススメです。
その映画監督に惚れ込んでいるタレントが登壇するイベントは大体読んでいて楽しい気持ちになります。2017年で言うとグザヴィエ・ドラン監督の大ファンである栗原類さんやクリストファー・ノーラン信者の岩ちゃんこと岩田剛典さんの記事は特に印象に残りました。
特に『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』で日本語吹き替えにキャスティングされたピエール瀧のコメントが個人的に強く印象に残りました。
『アナと雪の女王』でオラフの声を担当して以来の声優挑戦となる瀧は、本国版ではマシュー・マコノヒーが演じている、クボとともに冒険をする、物語の鍵を握るクワガタの吹替を担当。瀧は“超が付くほどのライカファン”であり、オファーを快諾したという。
ピエール瀧
今作のオファーはとにかく嬉しかったです。元々ストップモーションアニメーションが好きで、各国の様々な映画を観ていましたが、昨今では特に今回のライカ製作『コララインとボタンの魔女』が凄すぎて大好きでした。想像を超える技術を持ったライカのアニメーションはとにかく別格で、全ての映像、演出において妥協せず、最高のものを届けるためにその環境を作っているライカの懐の深さに感動を覚えますし、リスペクトしています。今回の作品に参加することによって、そのライカの一員になれた事を光栄に思っています。また、日本文化の描写が本当に素晴らしいです。入念な日本の研究によって、細部まで丁寧に日本を再現しています。素直に日本人には絶対見てほしい作品だと思っています。ライカにしか出来ない魔法を、今回の『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』で体験できます。魔法がかかったこの映像世界を是非楽しみにしてください。
めっちゃ熱がこもってる!!
瀧が「超が付くほどのライカファン」だということを初めて知りました。これだけ熱のこもったコメントを見ると「任せて安心だな!」という気持ちになれます。
続いては5歳で迷子になった男の子が25年ぶりに生まれ故郷を見つけ出した実話を元に映画化した『LION ライオン 25年目のただいま』の試写会の記事。原作者で主人公のモデルとなったサルー・ブライアリーさんとゲストの寺田心くんの会話が印象に残りました。
心くんはブライアリー氏に「迷子でいるときはどんな気持ちでしたか?」「お母さんと再会したときはすぐにわかりましたか?」などと質問。ブライアリー氏は「人間は強いから前に進もうとするし、宇宙の力が守ってくれているようだったよ」「最初は数秒必要だったけど、顔を見てお母さんだってわかったよ。すごく大切な瞬間でした」などと優しく解答。心くんは「この映画を見て、もっと世界中の友達のことを知りたいって思いました。僕に何ができるのか?と考えたら、知ることが大事だと思いましたし、多くの人にこの映画のことを知ってほしいです」と大人顔負けのコメントで訴え、会場は温かい拍手に包まれた。
本当に素晴らしいコメントですね。来日記念イベントに呼ばれるタレントさんはこうあってほしいと強く感じました。
ちなみに『LION ライオン 25年目のただいま』はもう一つ試写会があったのですがそちらはベッキーと大西ライオンが登壇する就活生限定試写会という僕好みのやつでした。
現在、就活中だという男子学生から「ネガティブで落ち込みやすい性格が悩み」だと相談されると、ベッキーは「私もそうですよ」と明かし、「私の場合は落ち込むだけ落ち込んで、あとは前を向いて歩くしかないと自分に言い聞かせる。過去は変えられないですし」と“人生のパイセン”としてアドバイス。マスコミ志望の女子学生には、「もしマスコミ業界に入ったら、(自分に)優しくしてね」と茶目っ気も見せていた。
色々とアツすぎます。
続いては『ギフト 僕がきみに残せるもの』のトークイベントです。
ボクシング元WBA世界ミドル級チャンピオンの竹原慎二が5日、原宿クエストホールで行われた映画『ギフト 僕がきみに残せるもの』トークイベントに出席。2014年にステージ4の膀胱がんと診断され、手術後3年が経過しているが「いまはとても元気です」と語りつつも、8月末に検査を控えている身として「検査の前はいつも最悪なことを考えてしまいます」と不安な胸のうちを明かしていた。
映画『ギフト 僕がきみに残せるもの』は、難病 ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症してしまったアメリカンフットボールの元選手スティーヴ・グリーソンのビデオダイアリーを基に制作されたドキュメンタリー映画。病気を告知直後に妻の妊娠を知ったスティーヴが、生まれてくるわが子のために、約4年間に渡って撮影した1,500時間にも及ぶ映像によって構成されている。
作品を鑑賞した竹原は「看病する側、される側の両方の目線で見てしまう」と語ると「やっぱり大切なのは周囲の支え。それがあるから負けないで戦える」と作品に登場するスティーヴと妻のミシェルに深く感情移入したことを明かす。さらに「ボクシングで世界チャンピオンになり、どんな病気だって克服できると思っていたのですが、手術や抗がん剤の治療は絶対無理だと思うぐらいつらかった。それに負けなかったのは家族の力です」とあらためて感謝の言葉を口にする。
ガチンコファイトクラブ世代としてはあの竹原が…!と思わず驚いてしまいますが、同じような体験をしたアスリートだからこそ語れるとても真面目で誠実な感想だと思いました。
最後は『ぼくと魔法の言葉たち』の監督来日イベントです。
アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞ノミネート作「ぼくと魔法の言葉たち」のロジャー・ロス・ウィリアムズ監督が来日し、東京・綾瀬にある学習支援教室「東京未来大学こどもみらい園」を訪問した。
映画は、2歳のときに突然言葉を失った自閉症の少年オーウェン・サスカインドが、ディズニーアニメーションを通し、言葉を身につけ、外の世界に適応していく術を学んでいく姿を収めたドキュメンタリー。オーウェンが両親の献身的なサポートで困難を乗り越えながら成長し、社会人として自立した生活を送ろうと奮闘するさまに密着した。
ウィリアムズ監督は、2013年の短編ドキュメンタリー「Music by Prudence(原題)」でアフリカ系アメリカ人監督として初めてオスカーを獲得した人物。この日は、自閉症や発達障害を抱える子どもたちがそれぞれ得意とする紙粘土工作や体操、英会話などを通して交流を図った。5人の子どもたちとケーキのデコレーションに挑戦したときには、優しく励ましたりほめたりする一方で、子どもたちから日本語を教えてもらったりと、短い時間で打ち解けた様子で、完成時には全員と笑顔でハイタッチを交わしていた。
このあと保護者との意見交換会なども行われたそうです。正直に言うとこの記事を読むまでロジャー・ロス・ウィリアムズ監督という方についてよく知らなかったのですがこのイベントの様子を見ていると監督はどんな人なのか、この映画は何を伝えたいのか、誰に対して届けたいのか、ということがとてもよく分かりました。知らないことを知り、興味を持たせるという意味でも素晴らしいイベントだと思いました。
いかがだったでしょうか。
多くの人の目を引くためにトンチキな方向に行きがちな海外映画の国内宣伝ですが、このように送り手側の真摯な姿勢を感じる宣伝もまだまだいっぱいあります。「これだから映画宣伝は~」と十把一絡げで批判するのではなく、素晴らしい宣伝もあることを頭の片隅に置いてほしいと思います。そしてそういう宣伝を見かけたときは拍手を送ってあげてください。送り手も人間であり、全てはクライアントと予算と納期のある仕事なんですから。いい仕事はガンガンほめましょう!
それではまた次回をお楽しみに!