第9惑星ビニル

見た映画の感想を書き綴ります。

この映画宣伝がすごい!2022(前編)

こんにちは、ビニールタッキーです。

お化けが出たら今すぐ被れ!「ゴーストバスターズ」イベントにMr.パーカーJr. - お笑いナタリー

PRイベントに誰を呼ぶ?お笑い芸人!(「ゴーストバスターズ」のメロディで)

さて、今年もやって参りました。この映画宣伝がすごい!2022!!

そもそもこの映画宣伝がすごいとは…まずはこれまでの記事をご覧ください。

 

 

 

海外の映画が日本国内で公開される際に行われる「お笑い芸人によるPRイベント」「旬のタレントをゲストに迎えてのPRイベント」「トンチキな出演俳優来日イベント」「不思議な企業コラボ」「タレント吹き替え」「日本版オリジナル主題歌」等の宣伝群を「おもしろ映画宣伝」と勝手に名付けて勝手に褒めたり表彰したりする催しです。今年で8回目となりました!は、8…!

米倉涼子×LiLiCo×近藤春菜、ダイアナ元皇太子妃と作品の魅力を語り尽くす 映画『スペンサー ダイアナの決意』プレミア試写会レポート - ぴあ映画

エルトン・ジョンじゃねえよ!みたいな映画宣伝を取り上げ続けて8年目。

こちらもすっかり恒例となったトークイベントも下北沢の本屋B&Bで2年ぶりにリアル店舗で開催しました。この2年はオンラインイベントで続けておりましたがやはりリアル開催は楽しいですねえ。トーク相手のお二人はもちろん、イベント後のお客さんからのご意見ご感想から新たな発見があったりしてやはり交流の場って大事だなーと感じました。

そのトークイベント内で発表した「この映画宣伝がすごい!2022」ベストテン+部門賞にさらに追加情報も加えて大発表します!それでは行ってみよう!

 

まずは2022年のおもしろ映画宣伝の傾向について

来日イベントの復活

パンデミックも一時期に比べて落ち着いてきたということで来日イベントが増えました。しかしここで少し以前とは違う傾向のようなものを感じました。確かに俳優の来日が復活したんですが、ミニシアター系やアート系の映画監督の来日が多かったような気がします。

これはなんとなくの考察ですが大規模なビッグバジェット映画は広く大衆に知らしめるためおもしろ映画宣伝を含む大々的な宣伝を行い、小〜中規模な映画については無理におもしろ宣伝をせずファンと作り手が交流できるようなファン向けの宣伝を行う、というような二極化が起きていると感じました。昔はどんな小さな映画でも無理矢理おもしろ宣伝があってその味わい深さを楽しんだものですが時代は変わり行くんですね…

 

コラボフードの増加

コラボフードは映えるということで数年前からかなり盛り上がっていました。しかし近年はコンカフェの増加に伴いこういうコンセプトを併せ持ったフードの発案・制作・提供がスムーズになったのかもしれません。かなり工夫を凝らしたメニューがありました。もちろんそれぞれの映画館が独自に考案したダジャレ一点突破みたいな力技のコラボフードも健在で毎年楽しませてもらってます。

【品川プリンスホテル】映画『ゴーストバスターズ/アフターライフ』の公開を記念しコラボレーション企画を開催 |株式会社西武・プリンスホテルズワールドワイドのプレスリリース

かわいい!日本でも人気のゴーストバスターズとなるとやはり力が入ってますねー。

カリー混ぜメン – 蒙古タンメン中本の道

毎度おなじみ蒙古タンメン中本さんのコラボは映画『ドリーム・プラン』とのコラボ。「カリー混ぜメン」と「ドリームプラン」の語呂合わせがうまくいってるかどうかは判断を委ねますが美味しそうです。まさか後にアカデミー賞授与式でウィル・スミスあんな感じに話題になるとは中本さんも思ってなかったでしょうね…

コラボラーメン発売のお知らせ – 蒙古タンメン中本

蒙古タンメン中本さんは『ヒットマンズ・ワイフズ・ボディガード』ともコラボしていました。語呂合わせがうまくいってるかどうかは判断を委ねます。

「ダンシングクラブ」が映画とコラボ!手づかみシーフードレストラン「ダンシングクラブ」×映画「シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ」|アークランドサービスホールディングス株式会社のプレスリリース

『シャイニー・シュリンプス!世界に羽ばたけ』とダンシング・クラブのコラボ!シネマカリテの近くにあるので映画鑑賞後に行けるというのもいいコラボですね。

オンボロ車の逃走劇『ステラ SEOUL MISSION』からは「ステラカステラ」というシンプルなダジャレコラボフード。こういうダジャレ一点突破みたいなの大好きなんですよ。

「MEN」の世界観を表現したりんご飴発売、ポムダムールトーキョーとコラボ - 映画ナタリー

『MEN 同じ顔の男たち』からはりんご飴のコラボフード。微妙に緑色の飴がかかっているのがいいですね…

マッドゴッドソース /カレー工房ギャーコラボ | アシタノホラーショップ

ストップモーションの巨匠:フィル・ティペットが約30年の歳月をかけて作り上げた映画『マッドゴッド』をイメージしたオイルソースが登場。鑑賞後に全く食欲が湧かないタイプの映画ですがコラボするその意気が素晴らしいと思います。

 

おもしろ宣伝動画は続くよどこまでも

2022年も不思議な宣伝動画が宣伝界を彩りましたね。彩りましたよね?

映画『クライ・マッチョ』ヒロミ×ROLAND スペシャル対談

2022年はやたら景気のいいこのおもしろ映画宣伝動画から幕開けましたね。なぜイーストウッド最新作にヒロミとROLANDが…とかあんまり深く考えてはいけません

 

Mr.都市伝説 関暁夫×映画『シルクロード.com―史上最大の闇サイト―』

定期的にコラボ動画が来るような気がする関暁夫の都市伝説コラボ動画。しかし映画は真偽不明な都市伝説ではなくガチで存在した闇サイトの話です。

 

ホロライブ所属のVTuber白上フブキさんが『モービウス』のジャレッド・レトにインタビュー!以前『アリータ』のPRイベントでキズナアイさんが出演したことがありましたがVTuberの活動範囲がさらに広がっているんだなー(そして海外の俳優さんたちはどう思っているのかなー)と感じました。

 

ちなみに『ザ・バットマン』では同じくラプラス・ダークネスさんがロバート・パティンソンゾーイ・クラヴィッツにインタビューしました。ひろがるホロライブ!!

 

「皆さん、事件です」リポーターの阿部祐二さんが『人質 韓国トップスター誘拐事件』を本当の事件みたいにリポートする!この映画自体が俳優ファン・ジョンミン演じるファン・ジョンミンが誘拐されるという虚実が混ざり合った映画のため、その空気に合わせて作られた予告編と思われます。とても良い。

 

個人的に結構好きな予告編です。一見普通の動画なのですが男性視点を大沢たかお、女性視点を檀れいがナレーションするという異様に豪華な予告編です。あんまりこういう形式の予告編は見たことがなかったのでご紹介しました。これもっとやってほしいなあ。

 

 

それではここから惜しくもベストテンには入りませんでしたが個人的に印象に残った映画宣伝を評する部門賞に行きたいと思います!

この映画宣伝がすごい!2022:コラボフード賞

マーベラス

サミュエル・L・ジャクソン主演作『マーベラス』と富士そばがコラボ!MARVELOUSそばです!汁が青い!しかしレモン汁を垂らすと…

【そう来たか】富士そばの汁が青い「マーベラスそば」が衝撃的! 完全に予測の斜め上を行ってやがる!! 北千住東口店限定 | ロケットニュース24

なんと赤に変色!まさにマーベラス!ちなみに映画を実際に見た方に伺いましたがこういう変化を彷彿とさせるようなシーンは特にないそうです。でもマーベラスだから良し!!

 

ちなみにここでもう一つコラボフードをご紹介したいんですが…

こちらは『ヒットマンズ・ワイフズ・ボディーガード』と富士そばがコラボしたインスパイアそば。皆さんお気づきでしょうか。両方とも富士そばの北千住東口店の限定メニューであることを。これはもう明らかに映画好きな人(もしくはサミュエル・L・ジャクソンのファン)がいるに違いありません。これはもうコラボフード賞は富士そば北千住東口店に決定です!

この映画宣伝がすごい!2022:キャッチコピー賞

ヒットマンズ・ワイフズ・ボディーガード』

この流れで発表しますがキャッチコピー賞は先ほども触れた『ヒットマンズ・ワイフズ・ボディーガード』です。日本版キャッチコピーは「もうボディーガードなんてしない。なんて言わないよ絶対」と有名な曲の一節を引用しています。ここで元の海外版ポスターを見てみると…

「HIT ME BABY ONE MORE TIME」とこちらも有名な曲の一節を引用しているのです(念のため言っておくとブリトニー・スピアーズです)。つまり「有名な曲の一節を引用する」という元のポスターにあった精神を受け継いだキャッチコピーになっているんです!この心意気!おそらく配給さんや宣伝会社さんは相当考えたと思います。最終的にこの発想に至ったことに拍手を送りたいです。

この映画宣伝がすごい!2022:キャンペーン賞

『ビースト』

クイズに答えてプレゼント、写真投稿を募集など映画宣伝には様々なキャンペーンがありますが2022年で個人的に一番のキャンペーンはイドリス・エルバがライオンと戦う映画『ビースト』のキャンペーンです。

ギャップがすごい。ネコを飼ってる方にお聞きしたのですが確かに写真を撮っているとたまに野性が出る瞬間がある、とのことで実はかなりあるあるなネタだということを知りました。しかしこのギャップよ。ぜひ皆さんもハッシュタグ「#映画ビースト化」でインスタグラムなどを見てみてください。かわいいので。

この映画宣伝がすごい!2022:なりきり賞

『モービウス』

モービウスに扮した私は誰でしょう?毎度おなじみ特殊メイクでなりきりモノに新作登場です。思い返すと『ヴェノム』でもこういう企画があったのでスパイダーマンユニバースの恒例行事にしていくのでしょうか。そんな宣伝マニアの視点はさておき、正解は…

 

 

トリンドル玲奈さんでした。何故…?という疑問はさておき、トリンドルさんはモービウスに扮したままでジャレッド・レト本人にインタビューしたりしてるのでその勇気は評価したいです。レトさんも優しいので「鏡を見てるようだよ!」と言ってくれてます。

この映画宣伝がすごい!2022:宣伝キャラクター賞

『エリザベス 女王陛下の微笑み』

劇中に登場するキャラクターがSNSでPR活動をしたりイベントに登場したりする案件をよく見かけます。アニメーションだったらマスコットキャラクター、ホラー映画だったらそのホラーアイコンなどが宣伝キャラクターを務めますが、僕が2022年に注目したのはエリザベス女王を独自の視点で捉えたドキュメンタリー映画『エリザベス 女王陛下の微笑み』です。

この映画では来日したエリザベスバービーが全力応援!!

ただの紹介写真でもエリザベスバービーがいるとなんか映えるような気がします。

イベントに登壇したデヴィ夫人ともパチリ。本物のエリザベス女王並みに大忙しです。

そして極め付けはこちら。

エリザベス・バービーが映画の大ヒット祈願 エレガントな表情で玉ぐし奉納、おみくじも : 映画ニュース - 映画.com

映画宣伝で大ヒット祈願と言ったらお馴染みの東京・赤城神社での玉ぐし奉納にエリザベスバービー!

『アナベル』も同じことをしてましたがやはりこういう絵面はシュールで大好きです。

この映画宣伝がすごい!2022:楽曲賞

『プリンセス・ダイアナ』

強い意志で人生に立ち向かった女性という共通点を持つダイアナ元妃と坂井さん。あわせて公開されたコラボMVには、ダイアナの人生と、「Forever you」の歌詞が重なる仕上がりになっており、自分の道を後悔なく歩み続けた二人の女性の想いを感じることができる動画となっている。

海外の映画と日本の楽曲のコラボは数あれど、この予想外っぷりと文脈的な意味の深さは突出しています。最初にこのニュースを聞いた時は驚きましたがその組み合わせの絶妙さと、何よりもZARDファンの方々がこのコラボにとても喜んでいるという点で評したいと思います。

この映画宣伝がすごい!2022:ムビチケ特典賞

『MEN 同じ顔の男たち』

『MEN 同じ顔の男たち』特典付ムビチケカードを発売!!|キャンペーン情報|映画前売券のことならメイジャー|映画前売券情報

普通のミニ巾着袋に添えられた「MEN(綿)100%」の一言に完全にやられてしまいました。こういうダジャレ一点突破みたいなのに弱いもので…

この映画宣伝がすごい!2022:宣伝ステッカー賞

『マークスマン』

よく映画館などでポスター以外にも映画のステッカーが壁に貼られたりしていますが2022年で印象に残ったのはリーアム・ニーソンが最強の元狙撃兵を演じる映画『マークスマン』。

こちらは男子トイレの小便器を使うときにちょうど目の前に来る位置に貼ってあったステッカーです。すごいこと考えるな!

これにはリーアム・ニーソンもびっくり。

この映画宣伝がすごい!2022:コメント賞

『フラッグ・デイ 父を想う日』

ショーン・ペンが監督で父親役、主役の娘役がショーン・ペンの実の娘さんで父と娘の話を描くという家族ぐるみの映画『フラッグ・デイ』は応援コメントの依頼先が技アリでした。

映画の内容に合わせて芸能人として活動する父と娘にコメントをもらっています。IMALUさん、藤岡弘、と娘の天翔愛さんMr.マリックと娘のLUNAさん、他にも関根麻里さんなど的確なチョイス。

IMALUさんはトークイベントにも登壇されました。娘の心情にめちゃくちゃ共感したとのことです。ですよねえ。

 

ここからはランキングからは外れてしまいましたが忘れられないイベントを3件ご紹介します。

この映画宣伝がすごい!2022:イベント賞①

『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』

ニュース|映画『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』公式サイト

このタイトルでこの人呼ぶ以外選択肢ないでしょ!というチョイス。よかった。

この映画宣伝がすごい!2022:イベント賞②

『ザ・ロストシティ』

真っピンクのアン ミカ、ZAZYが「ザ・ロストシティ」ポスターを完全再現(イベントレポート) - 映画ナタリー

インパクトがすごい『ザ・ロストシティ』のポスターをアンミカさんとZAZYさんが再現。金髪ロン毛という理由でZAZYさんが呼ばれたであろうことがじわじわ来ます。

この映画宣伝がすごい!2022:イベント賞③

海上48hours 悪夢のバカンス』

有村昆、不倫を猛省「ダメなことはダメ」 若手トリオが遠慮なくイジる「ちゃんとされてますか?」 | ORICON NEWS

パリピたちの乗るジェットスキーが壊れて海のど真ん中で漂流、凶暴なサメが近寄ってくるし彼氏の浮気が発覚するしでてんやわんやな映画『海上48hours 悪夢のバカンス』。イベントにはぱーてぃーちゃんと有村昆氏が登場。こんな内容の映画のイベントに登場したら100%その話を聞かれるのに出てきた有村昆氏の心意気に拍手を送りたいです。

この映画宣伝がすごい!2022:宣伝ビデオ賞

『奈落のマイホーム』

夢のマイホームであるタワーマンションが一瞬にして地下に沈むディザスター映画『奈落のマイホーム』。そんな希望が一瞬にして絶望に変わる経験をした芸能人がいた!

リアル“奈落のマイホーム”経験者 仁支川峰子が語る『奈落のマイホーム』特別映像|Real Sound|リアルサウンド 映画部

公開されたインタビュー映像に登場したのは、俳優・仁支川峰子。仁支川は、1998年に新築わずか1カ月だった栃木県の自宅が豪雨被害で流された経験を持つ。まだ工事途中だった新築に引っ越したところ、豪雨が続き地盤が緩んだ果てに不運にも流されてしまったという。当時の写真を見たいと聞かれると「お写真どころか、ぜ~んぶ流されました」と返答。

なんかそんなこと聞いてすいません…という気持ちになりますが動画を見ると心の整理が付いたのか持ちネタとして披露してくれてホッとします。

 

 

ちょっと質問が不躾すぎるような気もします。

この映画宣伝がすごい!2022:法被賞

エディ・レッドメイン

「ファンタビ」エディ・レッドメインが来日! 宮野真守と熱いハグで再会、法被姿で三本締めも : 映画ニュース - 映画.com

2022年の海外俳優の来日の皮切りとなったのがエディ・レッドメイン(&ジェシカ・ウィリアムズ)でした。

実はこれまでのファンタビシリーズ3作全てで来日してくれてるエディ。

 

その度に法被をもらっているのでエディ・レッドメインの家には法被が3着あるということになります。まさにミスター法被ということで法被賞を贈りたいと思います。ファンタビシリーズはこの先続編がちゃんと作られるのか色々とアレでわからなくなってしまいましたが、もしまた新作が作られた暁にはエディに新作法被を上げて欲しいです。

この映画宣伝がすごい!2022:宣伝大使賞

こがけん

あるある満載!こがけんも夢中!温かなラブストーリー「リコリス・ピザ」を語る - 映画ナタリー 特集・インタビュー

毎年様々な宣伝大使や宣伝ヒーローが登場しますがここ数年のこがけんさんの映画宣伝界での活躍には目を見張るものがあります。

インド映画『エンドロールのつづき』の監督とのトークショーに出たり、

タイ映画『プアン/友だちと呼ばせて』の監督とのトークショーに出たり、

東京国際映画祭の『アムステルダム』上映に登場したり、

おいでやすこがとして『ホイットニー・ヒューストン』のイベントにも登場。

とにかく映画宣伝を見ればこがけんさんに当たるというぐらいの大活躍でした。しかも筋金入りの映画好きなのでコメントも的確で笑いも取れるということでかなり重宝されている感じがします。正直なところ、自分の楽しみにしている映画のイベントにこがけんさんが呼ばれるとホッとします。今後も楽しみです!

 

それでは最後に…これは触れるかどうか迷ったのですが2022年の映画宣伝を語る上で避けて通れない案件ですのでご紹介します。

この映画宣伝がすごい!2022:やっちまった賞

アバター ウェイ・オブ・ウォーター

ジェームズ・キャメロン含むアバターチームが来日し、アクアパーク品川でイルカショーを鑑賞したのですが…最終的にジェームズ・キャメロンが謝罪することになってしまいました。詳しい経緯はこちらの記事をご参照ください。

あまり深くは語りませんが、このように誰も得しない状況となってしまう宣伝はかなり辛いものがあります。宣伝する映画や来日した監督・俳優の思想、考え方に寄り添った形の宣伝が理想的だと思いました。

 

 

はい、ということで毎度のことですが前編は傾向と部門賞のご紹介で終わってしまいました。次回の中編では『この映画宣伝がすごい!2022』ベストテンの10位〜5位を発表します!

【レポート】『チケット・トゥ・パラダイス』六本木に日本版ジョージ・クルーニー現る!ジャングルポケット&坂下千里子登壇 | anemo

チケット・トゥ・パラダイスな中編を待て!

2022年映画ベストテン+α

こんにちは、ビニールタッキーです。

2022年は映画が豊作でしたねえ。まだまだコロナ禍ですがビッグバジェット映画が復活し劇場公開が当たり前になってきたことに喜びを感じた一年でした。2022年もありがたいことにオンライン試写のご案内を頂くことが多かったのですが仕事が多忙で泣く泣く見送った作品やお断りした作品も多かったです…さらに大型映画が帰ってきたということは私が好む中規模〜小規模な海外作品が隅に追いやられてしまい、見たいと思っても上映時間が合わずしょんぼり…というケースが多くありました。大作邦画で映画館が賑わうのはとてもうれしいことなんですがこればかりは仕方ないですね…映画館が潤うことが一番なので。

そんなこんなで2022年映画ベストテンを発表と思ったのですが相変わらずいい映画ばかりだったので例のごとくベスト20を発表したいと思います。それではどうぞ!

 

第20位 スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム

2022年1月上映の映画であり、何なら海外では2021年にすでに上映された映画のためランキングに入れるのを忘れられそうな映画なのですがどうしてもこの映画のことは忘れられないし忘れたくない!観客が当たり前のこととして受け入れている映画のリブートを「それもマルチバースの一つ」と捉えて救っていくという考え方が神がかっています。というか仮にこのアイディアを思いついて社内会議でプレゼンしたとしても普通は笑い話で終わりですよ。それを120%の愛情とファンサービスの気持ちで完成させたことに拍手を贈りたいです。某キャラクターがアドリブで言ったという「I Love You, Guys」がこの映画のすべてを象徴していると感じています。私達もI Love You, Guysってずっと思ってたんですよ…!

第19位 エノーラ・ホームズの事件簿2

前作『エノーラ・ホームズの事件簿』が好きだったのでわくわくして見ましたがやはり良かったですね。このシリーズの特色は推理ミステリーの中にエンタメとフェミニズムを両立させていることですね。さらにそこにイギリスで実際に起きた事件や社会運動を絡ませていくというのが面白い。特に今回は探偵社を始めたものの女性であるがゆえに事業がうまく行かないエノーラ(ミリー・ボビー・ブラウン)の元に少女が依頼を持ち込んでくる…という筋書きがとても良かったです。またシャーロック(ヘンリー・カヴィル)が前作以上に人間味のある優しい兄で「またコナン・ドイルの遺産管理団体から怒られるぞ!」と思いました。(参考リンク)今回も前作同様主演のミリボビさんと実姉のペイジ・ブラウンがプロデュースなんですが完全にフォーマットを掴んだ感じがするのでこのまま続編をなんぼでも作ってほしいですね。

第18位 ナイブズ・アウト グラス・オニオン

こちらも探偵モノ!あの南部訛りの名探偵ブノワ・ブランが帰ってきた!異様に豪華なキャストが一堂に会して繰り広げる人間ドラマと推理ミステリーがなんだかお正月映画(Netflixでの配信は12月ですが)という感じでよかったですね。前作『名探偵の刃の館の秘密』では豪華キャストがその人っぽくないキャラクターを演じるのが魅力でしたが、今回は逆にその人のステレオタイプな部分を極端に誇張しているのが面白かったですね。例えばデイヴ・バウティスタがゴリゴリに男性性むき出しだったりケイト・ハドソンがおバカなセレブみたいだったり。もちろん本人たちがそうということではなくそう見られているという部分を強調しているのがミソでしたね。イーロン・マスクを彷彿とさせる独善的なビリオネアの有毒性を描くこのお話がマスクのTwitter買収問題以前から書かれていたという話も興味深いです。優れた作品というのは常にその時代の空気を自然に掴んでいるものだということですね。前作『ナイブズ・アウト 名探偵の刃の館の秘密』についてはHuluさんの公式ブログでその魅力をご紹介しましたのでぜひご覧ください。

note.com

第17位 白い牛のバラッド

夫が無実の罪で死刑となった妻のもとに真犯人が見つかったという報告が。やりきれない思いを抱えていると夫の親友を名乗る男が現れる。無実の罪で夫を失ったイラン人女性ミナ(演じるのは共同監督でもあるマリヤム・モガッダム)の視線を通して描かれるのはイランという国での女性の生き辛さ。ミナはろうの娘を持つシングルマザーのため働いているが給与は安い。また夫の親友と親しくなるが未婚の女性が部屋に男性を連れ込むことは不浄とされているためアパートから立ち退きを宣告されてしまう。もちろん困窮するシングルマザーに部屋を貸すところなどほとんどなく、さらに義父から同居をしなければ娘の親権を奪うとまで脅される。宗教規律に基づく保守的で性差別的で家父長制的な社会制度はここ日本でも全く他人事とは思えないのが心底恐ろしいと感じました。この映画は国家に対する挑戦的な内容によってイランで上映禁止となったそうですが日本も同じような状況になりつつありとても嫌な気持ちになりますね…。このようにとても重いテーマを扱った作品ですが異様に凝った画角やカメラワーク、そして象徴となる「白い牛」など超自然的なシーンも多くとても見応えがありました。

第16位 ファイアー・アイランド

ゲイに人気のリゾート地「ファイアー・アイランド」を舞台に『高慢と偏見』をベースにした恋愛ドラマを繰り広げるロマコメ映画。数年前に『シラノ・ド・ベルジュラック』をクィア青春ドラマ風にアレンジした『ハーフ・オブ・イット』という素晴らしい映画がありましたが今回も往年の名作×クィア×現代解釈(+アジア系主人公という共通点もある)という構図で最高な作品ができました。製作と脚本を手掛けたのは主演でもあるジョエル・キム・ブースター。アジア系でゲイのスタンダップコメディアンとして超人気の人物です。他にも友人役のボーウェン・ヤン(SNLのレギュラーコメディアン。僕の推しです)やゲストハウスの家主役のマーガレット・チョーなど、出演者のほとんどがゲイ・レズビアンの当事者キャスティングというのが素晴らしい。もちろんコメディアンなので下世話で下品なギャグは冴え渡ってますし、主人公たちがアジア系ということでゲイコミュニティにおける人種の壁などの問題も取り扱っています。それでいて『高慢と偏見』的なラブロマンスは真剣にロマンティックに描いていて単なる「お笑い芸人がおちゃらけで作ったコメディ映画」とは一線を画する映画となっていました。

第15位 映画ゆるキャン△

あまり言及してこなかったのですが実は私『ゆるキャン△』の大ファンでして。原作コミックは愛読してますし関連書籍やムックも持ってますしアニメシリーズはショートシリーズの『へやキャン△』も含め何周も見てますし聖地巡礼も何回もしています。(舞台が山梨・静岡地区なので自分の居住地域からアクセスしやすいのも利点)そんな感じなので映画化にはテンションMAXで盛り上がりましたが「映画オリジナルエピソードで高校卒業後の主人公たちの話」と聞いた時はとても驚きました。いや無難に原作の未消化エピソードを映画化すればいんじゃね…と思ったのですが実際に映画を見たら完全に杞憂でしたね。というかあの傑作アニメ『ゆるキャン△』を手掛けたスタッフがやることなので最初から全幅の信頼を寄せるべきでしたね。確かに現実世界に比べたらファンタジーっぽい世界観ではあるのですが、元々地に足のついていたキャラクターたちが社会人となってさらに地に足がついていく感じがよかったですね。彼女たちのキャンプ場を作るという壮大な計画も、元々高校の野外活動サークルで限りあるものの中で失敗しながらも創意工夫でDIYしていたあの頃の延長線上という風に見えてぐっときてしまいました。個人的には斉藤さんの飼い犬ちくわ(チワワ)が明らかに年老いているという経年描写に泣きそうになってしまいました。とにかくこんな感じで大好きなキャラクターの変化を最高の形で追うことができるシリーズとなってファンとして本当によかったなと思いました。

第14位 セイント・フランシス

34歳で独身のブリジットはナニー(子守り)の仕事で出会った6歳のフランシスと両親のレズビアンカップルと親交を深めていく中で少しずつ変化していく。とにかく「こんなに映画の中で経血を見たことは中々ないな」と思うと同時に「じゃあ何で中々ないんだ?」と思う映画でした。女性あるあるの中でもとりわけ月経や経血、妊娠に関するあるあるを詰め込んで女性同士の連携と、それでも連携できないリアルを描いているのがとてもよかったと思います。6歳のフランシスがいわゆる「大人顔負けの真を突いたことを言う利発な子ども」で少しご都合主義的な感じもするんですが、レズビアンカップルの子どもということで一般的に公衆の門前では言わないようなこと(例えば生理に関すること)も当たり前のように言うという点でキャラクター造形として興味深かったですね。とにかく「この世に当たり前に存在するのになぜかフィクションの世界ではないことになっている部分」をここまで描いたという功績を讃えたいです。

第13位 シャドウ・イン・クラウド

第二次大戦中に機密文書を抱えて男だらけの爆撃機に乗り込む女性士官モード(クロエ・グレース・モレッツ)は閉じ込められた機銃室で謎の生物の影を目撃する。まず見て驚いたのは冒頭数十分ぐらいは狭い部屋に閉じ込められた主人公の視点のみということ。女性を蔑む卑語を浴びせてくる他の男性クルーの姿は一切見えないままお話が進んでいきます。その息苦しい状況が謎の生物の攻撃をきっかけに徐々にパニックアクション映画に移行していきます。この密室→パニックアクション→〇〇バトル(ネタバレになるので深く言えません)というジャンル移行がともすればガチャガチャしてるように見えるかもしれませんが自分的には面白いこと考えるな!と膝を打ちました。そして全編を通してみればわかるのですがこれは明らかにフェミニズム、特にミソジニーに関する映画だということです。突如として現れる謎の生物は何を象徴しているのか。彼女を追う特定の人物か、それとも有害な男性性そのものなのか。そんなことを考える映画でした。

第12位 ブラック・フォン

今年の「信頼できる映画好きが褒めていたので見に行ったら大当たりだった」枠映画。(昨年枠は『マリグナント』)。実は公開からしばらく経ってから見に行ったのですが本当に良かった!連続殺人鬼に誘拐された少年。監禁部屋で絶望していると線の切れた黒電話が鳴り響く。それは同じくこの部屋に監禁され脱出しようとしたが殺されてしまった子どもたちと繋がる電話だった。最初はどう考えても脱出できないと絶望していた彼も死者たちのアドバイスを聞くうちに生きる希望を見出す姿に思わず涙が溢れてしまいました。(特にケンカ術指南のところは嗚咽レベルで泣いてしまった…)僕はこういう「誰かが達成できなかった意思を別の誰かが引き継ぐ」話に本当に弱いので『ブラック・フォン』も大好きな映画でした。やっぱりスコット・デリクソンってすごい監督だよ!スティーヴン・キングみのある閉塞的な田舎+日常にある恐怖と暴力+超常的な怪異(+超常的な能力を持つ妹)もいいなーと思ったら原作がジョー・ヒルスティーヴン・キングの息子)でびっくりしたのもいい思い出です。

第11位 HiGH&LOW THE WORST X

みんな大好きハイロー映画シリーズ最新作。正確に言うと『HiGH&LOW THE WORST』の続編にあたる不良高校同士の喧嘩シリーズの最新作なのですが、これが開いてみるとまさかのシリーズ最高度数の関係性の湿度でした。正直お話の筋は「暴走する親玉が資金力でかき集めた集団 vs 喧嘩と信頼と友情で繋がった連合軍」という感じでザム(『HiGH&LOW THE MOVIE』)とほぼ同じことをやっているのですが、一つ一つの描写に冗長さがなくソリッドになっているのがとても良かったですね。(それはそれで少しさみしいと思ってしまうのはハイローオタクの悲しいSAGA…)大乱闘となる喧嘩も誰がどこでどう戦っているかというのを見やすくする工夫が感じられました。しかし人間関係…特に敵の親玉である天下井(BE:FIRST 三山凌輝)と参謀の須嵜(NCT127 中本悠太)の関係性の湿度がとんでもないことになっていました。須嵜のまるで90年代の不良漫画から出てきたような繊細な佇まいと喧嘩シーンのキレの良さがたまりません。須嵜が天下井を見つめる視線を思い出すだけで涙ぐんでしまいます。この映画で初登場した鈴蘭高校の面々もみんな魅力的ですし、他の高校同士も乱闘中に顔見知りであることが匂わされたりと描かれない関係性も多くあり、相変わらずハイローは最高だな!と感じました。

第10位 NOPE ノープ

2022年の映画を語るには『NOPE』は外せないと思います。もちろん『ゲット・アウト』『アス』のジョーダン・ピール監督の最新作という点でも注目ですがIMAXの大画面と音響を活かした映像、画角、作劇がすべて計算高く組み上げられているという点で「映画館(しかもIMAX級の大画面)で見るべき映画」でした。内容としてもエンターテイメント業界の搾取構造、見る側と見られる側の立場、そしてその逆転という熱い展開に。これまでのジョーダン・ピール作品のジャンルはホラーだったのですが今回は明確にアクションエンターテイメントになっているのが面白かったですね。それでもホラー的シーンの怖さは流石で上空を大勢の悲鳴が通り過ぎるところや例の「吸い込まれた後の様子」のシーンは本当に嫌で怖かったですね…。スケールが大きくビッグバジェットになったとしても作家性はしっかりあるということが証明されたので今後が益々楽しみになる映画でした。

第9位 バッドガイズ

ドリームワークス・アニメーション作品ということで見よう見ようと思っていたら周りの海外アニメ好きや映画好きが大絶賛しているので慌てて見に行きました。3DCGアニメーションを2D風に表現するという『スパイダーバース』的な手法のアニメ映画なんですが、『スパイダーバース』とは別種のアニメーションとしての気持ちよさがありました。明らかにジャパニメーションの影響を受けたアクションは見もので、特に『カリオストロの城』と『名探偵ホームズ』(犬ホームズ)からの影響を受けているのが興味深かったですね。お話の方も悪人たちが善人になろうとする…という単なる「いい話」ではなく、周りからの「お前はどうせ悪人だろ」というレッテルがアイデンティティにまで染み付いてしまって結果として悪人としての生き方になってしまった人たちのお話というのがとてもよかったです。「〇〇人は犯罪者が多い」というような現実の人種差別を戯画化して描くという点ではかつて革新的だったディズニーの『ズートピア』のさらに一歩先を描く話になっていました。個人的には主人公ウルフと相棒スネークの湿度高すぎな関係性も忘れられません。

第8位 ペルシャン・レッスン 戦場の教室

ナチスによるユダヤ人虐殺から逃れるため「私はペルシャ人だ」と嘘をついたユダヤ人青年。難を逃れたと思いきや強制収容所ナチス将校から「ペルシャ語を教えてほしい」と家庭教師を命じられでっち上げのペルシャ語を教えるが将校も真面目でどんどん覚えていくようになり…。粗筋だけ見るとコメディのようにも見えますがこれはれっきとしたナチス映画です。もちろん適当に思いついたペルシャ語を真剣に覚える将校の姿に笑ってしまいますが、主人公を疑い続ける別の将校や、ちょっとしたほころびからバレそうになるなど緊張がずっと続きます。そしてこのコメディのような授業のすぐ側では強制収容と虐殺が常に行われているのです。この映画を10位以内に入れたのはこのアンビバレントさが強烈だったからです。笑いと恐怖、コメディ劇のすぐ側にある迫害、ナチス将校のつらい背景を見せて観客に同情を感じさせたところで突き落とす冷徹な視点。どれだけナチスを人間的に描いても「彼らはひどいことをした」という部分は決して譲らないというこの一点だけでもこれは評価されるべき映画だと感じました。あれだけしょうもないと思っていたでっち上げのペルシャ語レッスンが最後に意味を持ち始めるラストには号泣してしまいました。素晴らしい映画です。

第7位 FLEE フリー

デンマークに住むアフガニスタン出身のアミン。仕事、恋人共に充実して幸せそうな彼には誰にも話していない壮絶な過去があった。アフガニスタンの情勢不安定から国外逃亡した実在の人物の身の上話をドキュメンタリー形式で聞き出しつつアニメーションとして表現するという少し変わった作りの映画です。しかし国外逃亡した難民である彼の身の安全を守りつつ壮絶な過去を表現する手法としてアニメーションを選択したと知った時は膝を打ちました。そして学生時代からの友人である監督にだからこそ語ってくれた彼の身の上話は本当に壮絶の一言でした。特に中盤の決死の逃避行で乗り込んだ劣悪な難民船の迎える結末などは現実のあまりの冷酷さに呆然としてしまいました。本当に絶句するばかりの映画なのですが、僕はこの映画が作られることになった経緯が好きなんです。監督がたまたま知り合った友人アミンと仲を深めていくうちに壮絶な過去があったことを知り、もしできれば映画にしようと持ちかける。アミンも渋ったが心にずっと秘めていた過去を語ったことで何かが解放されていく。そんな優しさと希望に満ちあふれたエンディングには涙を流しました。この映画を見てから自分の友達も普段は表に出さないけど様々な過去と途方も無い奥行きを持っているのかもしれない、と考えるようになりました。

第6位 プレデター:ザ・プレイ

プレデターの最新作!?シェーン・ブラックの『ザ・プレデター』の続編ではなく!?(※当方ザプレ民です)しかも時代は遡ってネイティブアメリカンの元にプレデターが現れる話…なにそれ面白そうじゃん!という初めて聞いた時の期待を遥かに越えてくる大傑作でした。まず狩猟民族vs狩猟民族という構図にするためにネイティブアメリカンを選ぶという発想が素晴らしい。さらにネイティブアメリカンは自身の生き方を模索する種族であるという点から狩人になりたい女性を主人公にするという発想も良い。そもそも「プレデター」というシリーズ自体が常に多様性を物語の主軸として置いていたという伝統に乗っているのも素晴らしいと思いました。この映画の唯一の欠点は劇場公開されなかった(日本ではディズニープラス配信)ことです。これは本当に勿体ない。さらに言えばこんなに語るべきことがあるのにパンフレットが全くないのが痛すぎる。あとからでも全然いいので劇場公開&パンフ作成お願いします!この願いを受け取れ!勇者よ!

第5位 コーダ あいのうた

こちらも2022年1月の公開であり、アカデミー作品賞を受賞した作品ということで散々語り尽くされた映画だと思うのですがやはり大好きな映画なので上位にランクインしました。ろうの漁師一家の中で唯一聴者である娘ルビーが高校で歌の才能を見いだされていく物語。この映画で何よりも好きなのは当事者キャスティングによるキャラクターがとても生き生きとしていることです。障害者がフィクションに登場すると純粋無垢で天使のような人物に描かれることもあるのですがこの映画のろう者はセックスもドラッグもするし下品だし性格も大雑把で本当に一人の人間として描かれているのがとてもよかったです。リメイク元となったフランス映画『エール!』と見比べたのですが、印象的なシーン(コンサートで無音の演出がある、父が娘の喉を触って歌を感じるシーンなど)が実は元にもあったことがわかって興味深かったですね。でも『エール!』よりろう者の実態を反映したり恋愛描写をもっと甘酸っぱいものにしたりとかなりブラッシュアップされている点が多く、オスカーも納得の映画でした。

第4位 私ときどきレッサーパンダ

ある時から興奮するとレッサーパンダになる体質になってしまった女の子の物語。カナダの地方都市在住のオタクなアジア系の女の子が主人公なんですが監督のドミー・シーも出自が同じで実質自伝的な映画になっているのがとても興味深いと思いました。これまで大作アニメーションは男性クリエイターによる物語がほとんどでしたが、アジア系女性の人生がモチーフとなった物語が本当に楽しくて明るくて、まだまだこの世には語られてこなかった物語が山程あるんだなと感じました。主人公メイはスーパーマンでも正義の心を持つ人物でもなく、由緒ある寺の娘で友達思いでアイドル好き(たまに妄想が暴走することがある)という設定もいいですよね。ここ最近アジア系アメリカ人の映画を見ることがありますが、やはり「厳格で保守的な親」「親の期待に応えようと努力する子ども」「伝統を重んじる家庭」「でも子どもはアメリカで育ったアメリカ人」という設定をよく見るので本当にあるあるなんだろうなーと感じます。そんな中で親も子も成長していくというお話をここまでの怪獣映画級の大スペクタクルで描くのは最高でした。こちらも欠点を上げるなら『プレデター:ザ・プレイ』と同じく劇場公開されなかったことですね。頼む!あの4TOWNSのライブシーンと怪獣大暴れシーンを映画館で見せてくれ!

第3位 ギレルモ・デル・トロピノッキオ

ここ数年ピノキオ映画が立て続けに3本公開されるという大ピノキオ時代があったのはご存知でしょうか。マッテオ・ガローネ監督の『ほんとうのピノッキオ』は原作がイタリアの児童文学ということでイタリアの監督がイタリアロケで原作にある「イタリア人らしさ」を強く描き出した作品になっていました。ロバート・ゼメキスのディズニー実写版『ピノキオ』はディズニー版ピノキオをかなり真っ直ぐに実写化した結果、マジカルで可愛らしい部分と同時に薄気味悪くて不気味な部分がより強調されるという怪作となっていました。そんなピノキオ映画の中でも個人的に一番好きなのがこの『ギレルモ・デル・トロピノッキオ』です。よく知られるピノキオの物語を「戦争で息子を失ったゼペットじいさん」という設定にアレンジし、舞台を第一次世界大戦のイタリアとすることでファシズムに染まり行く国家の物語としている脚色に唸りました。ストップモーションアニメの動きが美しい娯楽作でありながら現実で起きている戦争に強く突きつけるような明確な反戦映画でした。戦争下での子どもの気持ちに寄り添うという点では『パンズ・ラビリンス』ですし、異形の者たちに対する愛は『ヘルボーイ』や『シェイプ・オブ・ウォーター』に近いものがあり、まるでギレルモ・デル・トロの集大成のような映画でファンとしてはとても愛おしい気持ちになりました。

第2位 トップガン マーヴェリック

今にして思うと信じられないのですが『トップガン』の続編をやると聞いたときに「大傑作になる」と予想した人はほとんどいなかったと思います。ここ数年アクションスターとして完全に油が乗りまくってるトム・クルーズがプロデュースということでアクションは楽しめるだろうけどお話の方は80年代を懐かしむような、往年のファンもうっとりとするようなノスタルジーあふれる映画になるのかな…と正直思っていました。本当にごめんなさい。まさかこんな大傑作になるとは思いませんでした。「エリートパイロット候補生たちがぶつかり合いながらも絆を結んで実際の作戦に挑む」というトップガンの構図はそのままなんですが、スカイアクションの圧倒的なリアリティ、80年代からはるかにアップデートされた視点、キャラが立ちまくってる個性豊かな候補生たち、何度もシミュレーションすることで候補生と観客に作戦内容を叩き込んで物語の展開をわかりやくするという丁寧な作劇、そこに前作ファンなら爆涙必至なファンサービスなどが奇跡的なバランスで絡み合う大傑作です。さらにマーヴェリックは優秀な指導者になっており、本人の魅力と才能も余すことなく発揮するという最高の物語。この映画をIMAXで見たとき、最後にスクリーンを悠然と飛ぶ飛行機を眺めながら「こんな完璧な映画があるだろうか…」と震えました。

第1位 RRR

正直に言うと『RRR』については「殿堂入り」とか「特別枠」みたいな感じにしようと最初は思っていたんですが自分的にこの映画を2022年ベスト映画1位に選ばないのは間違っている、と感じて堂々1位としましたいやもう何をどう考えても1位ですよ『RRR』は。だってそういう斜に構えたりだとかカッコつけてあえて外す…みたいな姿勢とは真逆の映画だからです。真っ直ぐな価値観と真っ直ぐな表現方法を使い、カッコいいと思ったものを全身全霊をかけて最高にカッコよく見せる、という映画が『RRR』なんです。驚天動地のバトルアクションも政治的意味を含ませながら最高に楽しいシーンに仕上げたナートゥダンスも大好きです。個人的に一番グッと来たのは全編に渡って「水と火」の対比を象徴的に入れていたことですね。森の部族の守護者ビームを水、警察官としてイギリス軍に潜入するラーマを火に例えてその二人が衝突したり手を取り合ったりするとどうなるかということを水と火を使ってこれでもかと示していました。このラーマとビームの美しくも切ない友情、愛情の描き方も素晴らしかったですねえ。情報量も映像も役者の演技も見事で3時間超えの映画にも関わらず当たり前のように数回見ました。でも体感時間としてはほぼ一瞬ですね。とにかくインドの歴史、インドの神話、侵略の歴史、政治的文脈(さらに言えば主演俳優同士のファンダムの対立までも)あらゆるものを取り込んで最高のエンターテイメントにするって…これが映画じゃん!の一言に尽きます。

 

以上です。いやー長い。1万字を超えました。でも毎年思うんですが本当にこの世は面白い映画でいっぱいですね。2023年もたくさん映画を見るぞー!

Huluの『サタデー・ナイト・ライブ』シーズン46が10月に配信終了しちゃうんですという話

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こんにちは、ビニールタッキーです。

このブログを読まれてる方、または私のTwitterをご覧になっている方ならご存知かと思いますが僕はアメリカのコメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』(略称:SNL)の大ファンです。現在SNLはHuluが日本語字幕付きで配信しています。各回の内容のご紹介の記事などをこれまでに書いています。

planetvinyl.hatenablog.com

 

planetvinyl.hatenablog.com

そして今月、SNLの新シーズンであるシーズン48が2022年10月1日からスタートするという発表がありました!やったーーーー!!

うれしい!楽しい!大好き!という感じなのですが悲しみもあります。なぜならここ日本では新シーズンが始まるとHuluから2つ前のシーズンが削除されるからです…何度も言っていますがHuluさん!古いシーズンも見れるようにしてくださいよ!お願いしますよ!

そして今回はシーズン46が2022年10月3日に配信終了という発表がありました。この機会にぜひとも見て頂きたい!ということで振り返って行きたいと思います。もしこの記事で興味を持たれた方はぜひHuluに入ってみて下さい!まずは2週間無料お試し!(突然の宣伝)

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シーズン46 第1回 クリス・ロック

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音楽ゲストはミーガン・ジー・スタリオン。

今やウィル・スミスにビンタされたコメディアンとして有名になってしまったクリス・ロックですがSNL出身で超大人気のスタンダップコメディアンなんですよ。大統領選で盛り上がる中、キツいジョークを交えながら「みんな選挙に行こう」と呼びかけるモノローグは当時絶賛されました。

この回で好きなのはモノマネ女王クロエ・ファインマンによる『ザ・ドリュー・バリモアショー』この当時本当に始まった『ザ・ドリュー・バリモアショー』をそのままコントにするというスピード感ももちろんですが、ニコール・キッドマンリース・ウィザースプーンのモノマネも全部やるクロエの手数の多さに驚きます。ちなみにドリュー本人もこのスケッチにはご満悦だったようでInstagramに感想を投稿しています。

 

シーズン46 第2回 ビル・バー

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音楽ゲストはジャック・ホワイト。

ビル・バーも有名なスタンダップコメディアンですがドラマ『マンダロリアン』を見た方なら「背中にロボットアームを付けてたあいつ」と言ったほうが伝わるかもしれません。この回はコールドオープンで討論会でマイク・ペンス副大統領の頭にハエがとまったという珍事をネタにして「物体転送装置にバイデンとハエが一緒に入ってしまって『ザ・フライ』のようにハエ人間になってマイク・ペンスの頭に止まる」という時事性の強いネタから始まります。ちなみにバイデンを演じているのはジム・キャリーです。

この回は辛口で有名なビル・バーが気まずい思いをするというネタが多くて興味深かったです。昔気質のマフィアが現代的な価値観についていけず「今の御時世そういう言い方はちょっと…」と人種差別的な発言やボディシェイミングな発言を指摘されるスケッチが面白いです。

 

シーズン46 第3回 イッサ・レイ

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音楽ゲストはジャスティン・ビーバー

イッサ・レイはドラマ『インセキュア』や映画『ラブバード』で有名な俳優兼コメディアン。アラサー女子の恋愛、仕事、友情の話…というと白人女性のものばかりというドラマ界に風穴を開けた人です。「実は2020年3月に出る予定だったけどコロナ禍で出れなかった。その当時は宣伝することがあったけど今は何もなくて家でパズルをしてるぐらい」「SNSで攻撃されるのは家でホラー映画を見てるときと似てる。見てる間は怖い!どうしよう!ってなるけどスマホの電源が切れたらコロっと忘れる」とまさにコメディアン的な笑いも含めたモノローグが素晴らしいです。

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この回で印象的なのは地方選挙の特番で黒人の候補者を何が何でも推す弁護士のスケッチ。確かに少数派の意見を政治に反映するためにレプリゼンテーションは大切なのですが、政策や人となりについてもちゃんと注目すべきだという皮肉と知己に富んだスケッチです。(このコントで叫んだ「カニエは最悪!」というセリフが後に揉め事を起こしたりしましたがそれは別のお話)

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シーズン46 第4回 アデル

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音楽ゲストはH.E.R.。

歌姫アデルがSNLに登場!この回はモノローグがとにかく最高です。減量したことについて「コロナで空港の荷物の制限が厳しいから体の半分をイギリスに置いてきた」と言ったり「生放送って緊張する。気をつけてるつもりだけど放送禁止用語をすぐ言っちゃうんだよね。私のグラストンベリーのときの映像を見てみて」とライヴで放送禁止用語を言いまくった映像が流れたりと自身をネタにするのが印象に残りました。さすがは私生活の体験を歌にして共感を呼んだ歌姫です。

この回で面白かったのはアデルがアデルとして『バチェラー』に出ているというスケッチ。折に触れてバカ上手い歌を披露するアデルに他の出演者がうんざりするというコントです。しかしあまりにも上手すぎるのでだんだんみんな歌が聞きたくなるというハッピーなオチもついて最高です。

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シーズン46 第5回 ジョン・ムレイニー

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音楽ゲストはザ・ストロークス

ジョン・ムレイニー回では恒例となった異様に豪華なミュージカル仕立てのスケッチ。今回はニューヨークの土産物屋を舞台にハロウィンの時期ということもあり、レギュラーコメディアンたちが様々な扮装でひどい内容の歌をミュージカル調に歌います。

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こちらもジョン・ムレイニー回ではおなじみになった甥っ子(ピート・デヴィッドソン)が叔父の写真で勝手にミームを作るシリーズ。「写真で一言」的な大喜利スケッチですが、英語圏でよく見かけるミームの典型例を学べるのでとても勉強になります(?)

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シーズン46 第6回 デイヴ・シャペル

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音楽ゲストはフー・ファイターズ

この回はとにかく大統領選挙でジョー・バイデンが勝利したということでお祭り騒ぎのような回でした。コールドオープンでは今シーズンでずっとバイデンを演じてきたジム・キャリーのギャグが炸裂しまくり!特にラストでマーヤ・ルドルフ演じるカマラ・ハリス副大統領と一緒に披露したドナルド・トランプ、お前は負け犬だ〜」というポーズがネットミーム化した結果、事情にあまり詳しくない一部の日本の人たちがこれを本当の大統領の写真だと思って「けしからん!」と怒ったという冗談みたいなことも起きました。

ニュース番組風スケッチ「ウィークエンド・アップデート」も大統領選の結果の話一色。選挙結果を信じないトランプ支持者に対して「みなさんご存じないかもしれませんが第46代アメリカ大統領はジョー・バイデンです」と改めて言うところに笑ってしまいます。「バイデン当選を記念してパリで鐘が鳴りました。『ノートルダムの鐘』の葬式のシーンでも鳴らなかったのに」。

 

シーズン46 第7回 ジェイソン・ベイトマン

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音楽ゲストはモーガン・ウォーレン。

この回はクリスマスシーズンということでその手のネタが多いのが印象的です。クリスマスに子どもたちの手紙を読むサンタとエルフたち。しかしその中に奇妙な手紙が…というスケッチ。エミネムの「Stan」をMVごとパロってサンタの熱狂的ファンの話に仕立てるのがすごすぎます。そして最後に…!というオチも最高です。

再びジェイソン・ベイトマンがサンタを演じるスケッチ。デパートでサンタが子供を膝の上に乗せて「プレゼントは何がほしいんじゃ?」と聞く(それを両親が聞いている)というアメリカではおなじみの風習をコロナ対策でソーシャルディスタンスを取った形で行いますが…コメディアンが派手に転んだりセットをバッタバタ壊す昔ながらのドタバタコメディでこういうのもたまにはいいなーと笑ってしまいました。

 

シーズン46 第8回 ティモシー・シャラメ

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音楽ゲストはブルース・スプリングスティーン&Eストリートバンド。

個人的に大好きな回です。ニューヨーク出身のティモシー・シャラメはモノローグで昔エキストラとして母親が出ていたエピソードを披露。実に適当なピアノ弾き語りもいい感じです。個人的に好きなのはディオンヌ・ワーウィックトークショーのスケッチ。全員が全員誰かのモノマネで登場する中、シャラメはハリー・スタイルズのモノマネで登場します。「ウォーターメロン・シュガーって何?」「オーラルセックスのことだと言う人もいるね」「あらいやだわ」「女性に対するね」「あなた気に入ったわ」とかしょうもない会話をしています。(マシンガン・ケリー役を仲のいいピート・デヴィッドソンがやってるのも良い)

そしてこの回の白眉はシャラメとピート・デヴィッドソン演じるTiktokerラッパーがHIP-HOPの歴史について語り合う番組に出演するスケッチ。二人のZ世代的なチャラいラップ(基本的にYe!とSkrr!しか言ってない)も最高ですしそれを見たクエストラブ(本人)が激怒するという下りが最高です。

 

シーズン46 第9回 クリステン・ウィグ

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音楽ゲストはデュア・リパ。

クリステン・ウィグが故郷のSNLにカムバック!モノローグでは盟友のマーヤ・ルドルフ、そしてケイト・マッキノンと一緒に「マイ・フェイバリット・シング」のめちゃくちゃな替え歌を歌う多幸感あふれる寸劇が最高です。

この回で好きなのは1944年のクリスマスイブにアメリカ兵たちが戦地で慰労会をするスケッチ。個人的にはこのスケッチでボウエン・ヤンの人気が一気に爆発したと思っています。それぐらいこのクリステンと彼の寸劇は素晴らしい!最後に音楽ゲストのデュア・リパが出てくるのも楽しくていいですね。

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シーズン46 第10回 ジョン・クラシンスキー

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音楽ゲストはマシンガン・ケリー

ギャグもシリアスもイケるジョン・クラシンスキーはSNLでも安定の面白さです。経済番組にリモート出演する経済学者の部屋に不気味な双子が現れる…というスケッチでは怪異を当たり前のように受け流すジョンの演技が逆に恐怖と笑いを誘います。

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ジョン・クラシンスキーといえばドラマ『ザ・オフィス』ということでこの手のネタが多かったのが印象的です。ドラマの主題歌に合わせて出演者が歌を歌うコンピレーション・アルバムが出る、というスケッチでは『クイーンズ・ギャンビット』『ストレンジャー・シングス』『マンダロリアン』といった大ヒットドラマの主題歌に適当な歌詞を付けた歌に笑ってしまいます。もちろんジョンは『ザ・オフィス』の主題歌を熱唱。

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シーズン46 第11回 ダニエル・レヴィ

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音楽ゲストはフィービー・ブリジャーズ。

Huluの表記はダニエル・レヴィですがダン・レヴィという呼称の方がよく知られていると思います。ドラマ『シッツ・クリーク』でもおなじみの彼です。今回は社会風刺ネタが多かった印象です。黒人と白人の友人や夫婦が出演するトーク番組風スケッチでは黒人文化のリスペクトがあまりよくない方向に行ってしまっている白人というかなり風刺の強いネタが冴え渡ります。

この回ではLGBTQの若者を支援するIt Gets Betterプロジェクトをコメディにしたスケッチが印象に残りました。いじめを受けているクィアの若者に対して「より良い未来はある」と呼びかけるプロジェクトですが「でも大人になったら別の悩みがあるよ(例:今度はゲイからいじめられた、税金が高い、家庭を持てたがペットが凶暴など)」と呼びかける内容です。そんな社会的意義のある活動をギャグにするのはいかがなものか…と一瞬思うのですがここに出演しているコメディアンは全員実際にクィアであることを公表しています。当事者も多いSNLだからこそギャグにできるというアメリカコメディの層の厚さにグッときながらも笑えるスケッチです。

 

シーズン46 第12回 レジーナ・キング

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音楽ゲストはナサニエル・レイトリフ。

個人的にはHBOドラマ版『ウォッチメン』での主演が忘れられないレジーナ・キング。しかしコメディ演技もバッチリでグッときます。独身女性が自分のタイプの男性を選ぶバラエティ番組風スケッチでは「40代のイタい白人男性」に異様に欲情する女性役で登場。レギュラーコメディアンたちの深刻なイタい男っぷりとそれに興奮するレジーナ・キングに爆笑してしまいます。

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この回はWeekend Updateが最高でした。Qアノン支持者…という謎の女性(ケイト・マッキノン)が「彼らは悪の秘密結社が子供を食べていると主張しているが、どうやって集めて、どこで食べているのか教えてほしい」と言い始めます。実は(と言うほどでもないのですが)この女性は魔女でQアノンの主張を信じていたが全然デタラメばかりで失望しているというネタでした。「最近の子どもはお菓子を食べないのでお菓子の家に近付いてくれない」「代替肉で家を作ってみたら崩壊した」など現代の価値観に魔女は苦労しているという風刺ネタに笑ってしまいました。

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シーズン46 第13回 レゲ=ジャン・ペイジ

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音楽ゲストはバッド・バニー。

この回の観客の熱狂っぷりはすごいです。『ブリジャートン家』で有名なレゲ=ジャン・ペイジはセクシーの権化という感じで彼が何かをするたびに客席から歓声があがるという盛り上がりっぷり。モノローグでは「普段の僕は全然セクシーじゃないんだ。普通の人間なんだ」と言いながらいちいちセクシーがダダ漏れするというギャグが最高です。

『ブリジャートン家』の撮影現場にインティマシー・コーディネーターを呼ぶがいつもの信頼できる人がコロナ濃厚接触者となったため別の人が担当する…というスケッチ。ドラマに出ている役者本人がその作品のコントをやることはよくありますがその中でもかなり下品!でも全力でやってくれる(そしてコントでもセクシーな)レゲジャンのノリが最高です。

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シーズン46 第14回 ニック・ジョナス

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音楽ゲストもニック・ジョナス。

ジョナス・ブラザーズの三男ニックが登場。この回は男性性に関するネタが印象に残りました。シンデレラのパロディスケッチでは王子様が持ってきたガラスの靴が異様に小さいことからシンデレラの一家でさえドン引きする話になっていくのがひねりがあって面白かったですね。

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男友達が集まって独身最後の夜を楽しむバチェラーパーティーで「みんなと並んで勃起するのが夢だったんだ」と歌い上げるスケッチ。本当に下品でしょうもないんですがバチェラーパーティーってセックス云々より男同士の絆を深め合うという奇妙な行事だということを改めて感じました。あとスケッチ全体の雰囲気がなんとなく『プロミシング・ヤング・ウーマン』を思い出すようなシチュエーションで少しドキドキしました。

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シーズン46 第15回 マーヤ・ルドルフ

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音楽ゲストはジャック・ハーロウ。

マーヤ・ルドルフ IS BACK!SNL出身で今も愛されるマーヤ・ルドルフの帰還!さすがは安定の面白さです。著名人が激辛料理を食べながら質問に答えるYoutubeの人気番組「Hot Ones」にビヨンセ(マーヤ・ルドルフ)が出演するというスケッチ。常に完璧でいつも冷静なビヨンセが激辛料理を食べたら…というコントに笑ってしまいました。

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SNLファン的にはたまらないスケッチ「The Maya-ing」。SNLの収録スタジオがあるビル30 Rock自体が数々の記憶を持っているという『シャイニング』風味のコントです。マーヤ・ルドルフのレギュラー時代の相棒コメディアンたちがゲスト出演し、30 Rockの歴史を少し垣間見ることができるスケッチです。

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そして…この回ではどうしても取り上げたい場面があります。Weekend Updateでこの当時アメリカで激化していたアジア系へのヘイトクライム(特にアジア系の老人に暴力を振る人種差別的な犯罪)についてアジア系コメディアンのボウエン・ヤンが語るコーナーです。最初こそ得意のゲイネタで笑いを取りますが「本当はこんなことについて話したくない」「老人を殴る人に対話なんて不可能だ」と真剣な話を始めます。このボウエン・ヤンのエモーショナルな演説はとても評価されました。ぜひ見てほしいです。

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シーズン46 第16回 ダニエル・カルーヤ

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音楽ゲストはセイント・ヴィンセント。

『NOPE/ノープ』の主演でも話題となったダニエル・カルーヤ。映画では田舎の素朴な牧場主を演じていましたがご本人はウィットに富んだ英国男子だということを思い出します。彼が医者を演じるスケッチではコロナワクチンを拒否する家族を説得するクイズ番組が痛烈で笑いました。「はい、ワクチンを打ちます」と答えるだけで賞金が手に入るにも関わらず「ワクチンは信用できない」「ワクチンは危険だとFacebookで知った」「梅毒が入ってない?」と拒否する家族の様子がワクチンを忌避するアフリカ系アメリカ人の姿を戯画化していて興味深いです。

大学生たちのサークルが湖のコテージでバカ騒ぎする企画を立てているとダニエル・カルーヤが「母の日も近いしみんなのママを呼ぼうよ」と持ちかけるスケッチ。最初は「誰が呼ぶかよ!ふざけんなよ!」となっていた仲間たちがだんだんママを呼ぶ派になっていく流れが牧歌的でかわいらしくて最高です。SNLを見ていると日本に比べてアメリカのほうがお母さん、および母の日に対する愛情が深いと感じます。

 

シーズン46 第17回 キャリー・マリガン

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音楽ゲストはキッド・カディ。

この回はかなり傑作です。キャリー・マリガンはモノローグからすでに最高で、アメリカに来るとよくミシェル・ウィリアムズに間違われるという話やパートナーのマムフォード・アンド・サンズのマーカスと夫婦漫才をやったりとジョークもキレッキレでした。

SNLの名物スケッチの一つ、間違い探しのクイズ番組「What's Wrong With This Picture」では見た目は普通の女性なのに明らかにやばい回答ばかりするのが最高です。

こちらのスケッチは放送当時話題になりました。『燃ゆる女の肖像』『アンモナイトの目覚め』などの時代劇レズビアン映画のあるあるを詰め込んだ『レズビアン時代劇』。「主演はノーメイクを貫くストレートの女優2人」「セリフは12行なのに上映時間は2時間半」「異様に暗い」などのあるあるをキャリー・マリガンが圧倒的な演技力で熱演してるのが見ものです。「セックスシーンが生々しいところでこれは男性監督だったと気づく」というキツいジョークに苦笑いしてしまいます。

ちなみにこの回の音楽ゲスト:キッド・カディが登場するMV風スケッチ「Weird Little Flute」(ヒップホップでよく使われる奇妙なフルートの音)にはキッド・カディと仲良しなティモシー・シャラメがなんと友情出演!本当にチョイ役なのに出るあたりに仲良しな感じが伝わります。

 

シーズン46 第18回 イーロン・マスク

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音楽ゲストはマイリー・サイラス

まさかのイーロン・マスクがホスト。この回は映画・ドラマネタが多かった印象です。明らかにケイト・ウィンスレット主演のHBOドラマ『メア・オブ・イーストタウン』をパロった犯罪ドラマ風スケッチ。この手のドラマの「なぜかいつも曇り」「主人公は暗い過去を持つ」などのあるあるとペンシルベニアの印象(田舎っぽい、みんな微妙に訛ってる)をギャグにしています。

もう一つはピート・デヴィッドソンの当たり役チャド(常に無気力だが異様にモテる白人男性)が映画『オデッセイ』のような火星探査基地を舞台に仲間を救うというスケッチ。火星でもテキトーで恐れ知らずなチャドが最高です。さりげなく音楽ゲストのマイリー・サイラスもしっかり出ています。この火星探査を指揮していたイーロン・マスク最後に責任逃れするという点も皮肉が効いていていいですね。

 

シーズン46 第19回 キーガン=マイケル・キー

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音楽ゲストはオリヴィア・ロドリゴ

個人的に大好きなキーガン=マイケル・キーSNLに出てくれてうれしい!ジョーダン・ピールとのお笑いコンビ「キー&ピール」でも有名なキーガンはコメディアンということでスケッチはお手のもの。マペット・ショーでカーミットにツッコミを入れる役のスタトラー&ウォルドーフに本気で注意するセキュリティスタッフのスケッチは笑いました。キーガンの暴れっぷりに大ベテランのキーナン・トンプソンが必死に笑いをこらえているのも最高です。

高校の卒業式で校長先生から「卒業証書授与式ではお静かに」と注意されているにも関わらず自分の子どもや知り合いの子どもが出てくるとガヤを入れまくるスケッチも最高です。こういうガチャガチャした役が似合いますね。ガヤを入れるのはアフリカ系だけかと思ったら中盤でヒルビリーっぽい家族もガヤを入れてくるのが最高です。

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シーズン46 第20回 アニャ・テイラー=ジョイ

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音楽ゲストはリル・ナズ・X。

アニャさんがSNLに!この当時Netflixドラマ『クイーンズ・ギャンビット』が大評判でモノローグでもそのネタを披露してくれました。「まだ『クイーンズ・ギャンビット』を見てない人は今まで何してたの?パンデミックの時はこれか『タイガーキング』を見るかの二択だったじゃない」「このドラマに影響を受けて何百万人もの人がチェスを購入して、そのうちの数十人が実際にチェスを習った」とジョークもキレッキレです。

この回で好きなのはプライド月間が近い、かつ久しぶりのゲイパレード開催ということでその雰囲気を凝縮した「It's Pride Again」ですね。もちろん音楽ゲストのリル・ナズ・Xも参加してのお祭り騒ぎです。しかもプライド月間が企業のCMに使われているという現状を皮肉るギャグも入れているのが最高です。


…ということでザーッと振り返ってみました。こうして振り返ってみるとパンデミックでギリギリの少人数から始まり、途中何回かの客席激減などを経て最後のアニャさんの回では客席の全席解禁と、当時の様子を思い出してしまいます。とにかくこれらすべてが2022年10月3日をもってHuluでの配信が終了してしまいます。ぜひ見てみてください!

みんなも入ろうHulu!お試し2週間もありますよ!(宣伝2回目)

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『サタデー・ナイト・ライブ』のシーズン47がHuluで全話見れるから見てくれー!

こんにちは、ビニールタッキーです。

私が常に推してるアメリカの大人気コメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』(以下:SNL)は現在Huluで見ることができます。これまでそのことに何度も言及しているんですがそのたびにSNLってHuluで見れるんだ。知らなかった〜」と毎回反応をいただくので何度でも言います。SNLはHuluで見れます。私が過去に書いた記事は以下の通りです。

2021年10月〜2022年5月まで続いたシーズン47が終了したので現在全エピソードを見ることができます。映画ファン、俳優ファン、そしてアメリカの時事やポップカルチャーに興味のある皆さんにぜひ見てほしい!という願いを込めて全21回を全て見た私がその見どころやお気に入りのスケッチをご紹介したいと思います。

…こう言うと「お前Huluの公式ブログで連載してるからステマで紹介記事書いてるんじゃねーの?」と思われるかもしれませんが全然違います!本当に純粋な気持ちでSNLファンが日本に増えてほしいと願ってるんです!だってスーパー面白いから!毎週誰からも頼まれてないのに必死でコントを聞き取って日本語訳してTwitterで感想をツイートしてるのはファンが増えてほしいからなんです!もっとSNLの輪が広がってほしい!

ちなみに今回はSNLの公式Twitterアカウントが投稿したスケッチの動画を引用する形でご紹介します。(なぜなら公式のYouTube動画は古いもの以外は日本から見れないからです…!)もし気になったスケッチがあったら「これがHuluに入ったら日本語字幕付きで見れるのか〜」と思ってください。入ろう、Hulu!まずは2週間無料お試し!

 

シーズン47 第1回 オーウェン・ウィルソン

2021/10/2放送回。音楽ゲストはケイシー・マスグレイヴス。

英語圏オーウェン・ウィルソンといえばピクサー映画『カーズ』のライトニング・マックイーン。新作の『カーズ4』にアテレコするがセリフがかなりひどい…というスケッチが最高です。メーターとの会話セリフにRワードが入っているのでオーウェンが嫌がるという下りがあって(Rワードとは何かは各自調べて見てください)こういうことを学べるのもSNLのいいところですね。(?)

あとAmazonジェフ・ベゾスに扮して『スター・トレック』風の宇宙旅行に出るスケッチでは弟のルーク・ウィルソンカメオ出演してきて笑えます。

 

 

シーズン47 第2回 キム・カーダシアン・ウェスト

2021/10/9放送回。音楽ゲストはホールジー

ゴシップ的にはある意味伝説となった回ですね。後に交際することとなるキムとピート・デヴィッドソンが出会ったのがこの回です。『アラジン』のパロディスケッチで披露した二人のキスは話題となりました。スケッチの中身自体はペニスに悩みを持つアラジンがジャスミンとの交際に腰が引けているというしょうもないものです

この回はキムがコートニー・カーダシアンに扮したリアリティ番組風スケッチに母のクリスが出てきたり(ややこしい)バチェロレッテ的な番組にジョン・シナクリス・ロックチェイス・クロフォード(『ザ・ボーイズ』のディープ!)、さらにはエイミー・シューマーが出てくるなど異様に豪華で笑ってしまいます。

 

 

シーズン47 第3回 ラミ・マレック

2021/10/16放送回。音楽ゲストはヤング・サグ。

この時ちょうど『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』に出演したことから悪役の素晴らしさについて語ったり、エジプトの移民である彼が住んでいた街はハリウッドから車で10分くらいなのにとてつもなく遠く感じたとかそういう話が聞けてとても興味深いです。こちらは当時最速でコメディに取り入れたであろう『イカゲーム』パロディスケッチ。

シリアスな役ばかりでコメディはやったことがないというラミですが真顔でおかしなことをするというアダム・ドライバータイプのコメディ演技でこの回は今シーズンの中でもかなりお気に入りです。今まで何度かラミのモノマネをしていたピート・デヴィッドソンが今度はラミにモノマネし返されるスケッチや孤高のシンガーアンジェロのスケッチ、そして個人的に好きなのはプリンスの伝記映画のオーディションのスケッチです。ダニエル・クレイグカメオ出演するのもラミとの絆を感じて最高です。

 

 

シーズン47 第4回 ジェイソン・サダイキス

2021/10/23放送回。音楽ゲストはブランディ・カーライル。

SNL出身であり主演ドラマ『テッド・ラッソ』も大好評のジェイソン・サダイキス。レギュラー時代の人気キャラクターだったデビルも久しぶりに復活!「異常気象は俺がやったんだ」「ビットコイン電子タバコも俺が作った。スマホでネットを見てる時に出てくるデカイ広告があるだろ?あれも俺だ」「Qアノンは俺とは関係ないぞ!お前らの妄想に巻き込むな!」「ひどいなコリン!スカーレット・ヨハンソンとの結婚も俺がやってやったのに!」などキレッキレの芸が光ります。

SNLの名物スケッチの一つ、「What's Up With That?」も復活!トーク番組で司会者が豪華ゲストと話している最中に音楽が流れると歌いだしてしまうという名物スケッチ。ジェイソンはこのスケッチでジャージ姿でひたすら踊りまくるという役をもう何年も続けています。さすが!

 

 

シーズン47 第5回 キーラン・カルキン

2021/11/6放送回。音楽ゲストはエド・シーラン。

マコーレ・カルキンの弟でドラマ『Succession』でも人気のキーラン・カルキンが登場。モノローグで「実はSNLに出るのは二度目なんだ。30年前に兄が出た時に一緒に出たんだよ」「その時にキャストに抱え上げられてうれしかったんだ。今回もやってもらえるとうれしいな」という話に感慨深くなります。

やはりコメディ演技も見事。インターネットの契約解除で延々とたらい回しにされるスケッチはこういうのアメリカでもあるあるなんだなーと苦笑いしてしまいます。あとなんとなくですが若い頃のロバート・デ・ニーロに似てる感じがしてぐっと来ました。

 

 

シーズン47 第6回 ジョナサン・メジャース

2021/11/13放送回。音楽ゲストはテイラー・スウィフト

『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』『ザ・ファイブ・ブラッズ』『ラヴクラフト・カントリー』のジョナサン・メジャースがSNLに!SNLの歌うまメンバーであるセシリー・ストロング&ボウエン・ヤンと一緒にブロードウェイミュージカル風に歌って踊るスケッチが特に好きです。(歌の内容は陽気なドラッグ中毒者の話ですが)

また、今シーズンから表舞台にも出るようになった脚本家チームのPlease Don't Destroy(以下:PDD)が手掛けたピート・デヴィッドソンの歌モノスケッチ「3人のダサい童貞」に音楽ゲストのテイラー・スウィフトが登場するというのも豪華で最高です。

 

 

シーズン47 第7回 シム・リウ

2021/11/20放送回。音楽ゲストはスウィーティー

シム・リウはもともとコメディ畑出身ということもあって安定感のある回です。オープニングのモノローグで有名な「マーベルに「そろそろアジア家ヒーローはどう?」とリプライした」話や「売れない頃スパイダーマンの格好で子供の誕生日を祝うバイトをしてた」話など鉄板ネタで笑いを取ります。

同じアジア系であるレギュラーコメディアンのボウエン・ヤンと「アジア系として初めて〇〇したで賞」をどっちが多く持っているか言い争うスケッチは単純な笑いとそういう賞自体を揶揄する意味が同居していて好きです。

 

 

シーズン47 第8回 ビリー・アイリッシュ

2021/12/11放送回。音楽ゲストもビリー・アイリッシュ

音楽ゲストがホストも担当することはたまにあるのですがまさかのビリー・アイリッシュ!演技は苦手と言いつつもTiktokのスケッチでのダンスやクリスマスシーズンということで歌ネタで盛り上げてくれます。ちょいちょい兄のフィニアスが出てくるのも笑えます。

無表情でおかしなことを言うホテルのCM風スケッチでは何度も吹き出しそうになるのをケイト・マッキノンがいじったりして笑ってしまいます。

 

 

シーズン47 第9回 ポール・ラッド

2021/12/18放送回。音楽ゲストはなし。

この頃ちょうどオミクロン株が猛威を振るっていたことからSNLのスタジオのあるNYも通常通りの収録が困難となってしまいました。これが本当に急遽決まってしまったため、有観客の収録どころかキャストを集めての放送すらも不可能に。事前収録したスケッチと過去の名作の再放送で構成され、音楽ゲストのチャーリー・XCXも出演予定がキャンセルに。それでも通算5回ホストを務めた人だけが入れるクラブ「ファイブ・タイマーズ・クラブ」へのポール・ラッドの参加をお祝いするためにメンバーのトム・ハンクスティナ・フェイがかけつけてくれました。キーナン・トンプソンの「出演4.5回おめでとう!」というジョークに笑ってしまいます。

再放送…と聞くとがっかりするかもしれませんが過去の名作を日本語字幕付きで見れるという滅多に無い機会なのでテンションが上りました。スティーブ・マーティンの名作スケッチ「クリスマスの願い」が見れるのも嬉しい限りです。ポール・ラッドもこの爆笑必至な一人語りのスケッチが大好きだそうで何度も見て完璧に覚えたそうです。

 

シーズン47 第10回 アリアナ・デボーズ

2022/1/15放送回。音楽ゲストはブリーチャーズ。

前回の無観客&再放送という特殊編成から一ヶ月後、有観客まで状況は復帰しました。この回のホスト、アリアナ・デボーズは『ウエスト・サイド・ストーリー』などでも有名。明るいキャラクターが不安を払拭してくれてとてもいい回でした。同じくオープンリーレズビアンであるケイト・マッキノンとの夢の共演も最高です。

個人的には『サウンド・オブ・ミュージック』をパロったスケッチの内容がめちゃくちゃなドレミの歌が大好きです。「ファはクイーン・ラティファの最後のファ〜。ラはクイーン・ラティファの最初のラ〜。ティ(シ)はクイーン・ラティファの真ん中のティ〜」のあたりが最高。ダンスも歌も見事!

 

シーズン47 第11回 ウィル・フォーテ

2022/1/22放送回。音楽ゲストはマネスキン。

SNLのレギュラーで当時の同期だったクリステン・ウィグビル・ヘイダーやアンディ・サムバーグはホストとして何度も呼ばれてるのに自分だけが12年間一度もホストに呼ばれてない!という自虐ネタに笑ってしまいます。そしてお祝いに駆けつける盟友クリステン・ウィグ「彼女が出てきた時の方が拍手が大きいぞ!」

彼の当たり役である『ほぼ冒険野郎マクグルーバー』は極度の愛国者という設定ですがコロナ禍ですっかりQアノンになってしまったというスケッチには笑いました。

 

 

シーズン47 第12回 ウィレム・デフォー

2022/1/29放送回。音楽ゲストはケイティ・ペリー

ウィレムおじさん!オープニングのモノローグでは表情が豊かすぎるとよく言われるという話や地元のウィスコンシン州訛りを披露してくれます。スケッチはなぜか男性機能の回復薬のCMや『美女と野獣』のベルの父親の秘めた趣味、自分で自分のアレを咥える方法など異様に下ネタが多いのが印象的です。なぜ?

この回で好きなのは夜に目が覚めるあるある(Spotifyで曲を聞いてたら大音量で広告が流れる、首にしこりがあるのに気付いて気になる、急に痙攣が起きる等)を歌った歌『Now I'm Up』ですね。かっこよく歌うウィレムおじさんが好きです。

 

シーズン47 第13回 ジョン・ムレイニー

2022/2/26放送回。音楽ゲストはLCDサウンドシステム。

この時はちょうどロシアのウクライナ侵攻が始まった時期でした。いつも政治風刺劇のコールドオープンで始まるSNLですがこの回はウクライナ・ドゥムカ・オブ・ニューヨーク合唱団の歌唱で幕を開けました。ジョン・ムレイニーはモノローグで薬物中毒の治療に専念していたという話をジョークたっぷりで披露します。こんなの日本じゃ絶対にないなーと感じます。この回の白眉はPDDの「良性の変異株」ですね。罹るとパリピになれる変異株が出た!というスケッチです。

今回でファイブ・タイマーズ・クラブ入りしたジョン・ムレイニーは豪華ゲストから迎え入れられます。同じくクラブ入りした時にキャストが全然いなかったポール・ラッドが嫉妬してるのも面白い。

 

 

シーズン47 第14回 オスカー・アイザック

2022/3/5放送回。音楽ゲストはチャーリー・XCX。

実はジェイソン・サダイキスの回でちらっとだけ登場したオスカー・アイザックが初ホスト。『ムーンナイト』でMCUの仲間入りしたオスカーが子供の頃に親友と撮影した自主制作映画「アベンジャー」を流す爆笑モノのモノローグは見ものです。

やはり忘れられないのは「リトル・ミートボール・マンの歌」ですね。以前このブログでも触れたサラ・シャーマンのボディホラーコメディの真髄を味わうことができます。前回はスタジオ出演できなかったチャーリー・XCXもこの異様なスケッチに参加しています。一度聞くと頭から離れない…

そしてこの回で最も話題となったのはケイト・マッキノンがフロリダのDon't Say Gay法案について語るコーナーです。ほとんどの場合強烈なコントキャラになりきって登場するケイトが本人として登場。当事者として「この法案っていったい何なの?」と語る話芸を披露します。

 

シーズン47 第15回 ゾーイ・クラヴィッツ

2022/3/12放送回。音楽ゲストはロザリア。

この頃『ザ・バットマン』のキャットウーマン役で話題となったゾーイ・クラヴィッツが登場。全体的に下ネタ多めのスケッチだったのが印象的です。そんな中でも話題となったのはレジなしで自動的にスマホ決済されるスーパーマーケットAmazon Goのスケッチ。白人たちは普通に買い物していますがアフリカ系の人たちは皆「これは罠に決まってる」と警戒するという人種間の感覚の違いについて皮肉がたっぷり効いたスケッチです。

そしてキャットウーマンにちなんでPDDの3人とゾーイが猫を探すスケッチ。なんの前触れもなくニュッと出てくるポール・ダノに笑ってしまいます。

 

 

シーズン47 第16回 ジェロッド・カーマイケル

2022/4/2放送回。音楽ゲストはガンナ。

この回はある意味でとても重要な回でした。この数日前にアカデミー賞で例の大事件がありました。アメリカコメディ界を揺るがすような事態の最中、ホストとして登場したのがスタンダップコメディアンのジェロッド・カーマイケル。しかもこの数日前にゲイであることをカミングアウトしたばかりでした。そんな話題性たっぷりで何を語るか最大級の期待を背負わされた状態でしたが冷静かつウィットに富んだスタンダップコメディを披露しました。正直なところ、これを見るまでジェロッド・カーマイケルについてあまり詳しくなかったのですがこのモノローグ一発で虜になってしまいました。

この回はやはりウィル・スミスネタが多めなのですが、個人的に好きなのは自分の子供をストレートと決めつけないために「ありのままの自分」を示すメッセージが書かれた赤ちゃん服のCM。この意識の高い服を赤ちゃんに着せてる自分は意識が高い、と勘違いしているという点まで描いていて皮肉が効きまくっています。

この回はもう一つ、音楽ゲストのガンナも参加した90分くらいの映画しか見たくないというMV風スケッチ「Short Ass Movies」も傑作です。日本語の解説コラムもあります

 

シーズン47 第17回 ジェイク・ギレンホール

2022/4/9放送回。音楽ゲストはカミラ・カベロ。

ジェイク・ギレンホールは音楽好きとしても有名ですが全体的に歌ネタが多かった印象です。前シーズンで友情出演した際も歌を披露してましたが、今回もモノローグで歌を披露。

色々ありますがあえて一番しょうもないスケッチを選ぶとインスタグラムでいいね!した写真を挙げてなぜいいねしたのか本人に理由を尋ねるクイズ番組「いいね!した理由は?」が好きです。マジでしょうもない。

 

シーズン47 第18回 リゾ

2022/4/16放送回。音楽ゲストもリゾ。

リゾもダブルヘッダー!モノローグでホストになれた喜びを興奮気味に語る姿にこちらもうれしくなります。「放送中にビッチって言った回数の世界記録を作るよ!」という宣言も最高。プロの俳優ではないので途中目が泳いでしまったり何度も吹き出しそうになったりするんですがそんなところもチャーミングでたまりません。しかし音楽パートではバキバキにキマっててカッコいい!こちらはブラック・アイド・ピーズの名曲が生まれる瞬間を捉えたというスケッチ。セシリー・ストロングのファーギーの歌マネが上手い。

リゾの「フルート奏者」「トゥワークが得意」という要素を重ね合わせた「トゥワークをしないとフルートが吹けないオーケストラメンバー」のスケッチはシンプルですがリゾの持ち味が活かされていて好きです。

 

 

シーズン47 第19回 ベネディクト・カンバーバッチ

2022/5/7放送回。音楽ゲストはアーケイド・ファイア

この週はアメリカ全土を揺るがせた人工妊娠中絶の権利を覆す最高裁の草案をネタにしたスケッチや言動が多く見られました。いつもは現代政治の風刺劇から始まるオープニングも今回は約1000年前のとあるヨーロッパの議会が舞台。最高裁の草案で使用されている文言が13世紀のヨーロッパの論文からの引用からだったという事実を元に「医学も発達しておらず、女性の権利も全く存在しないようなこんな古い時代の価値観を現代の法律に適用するんか?」という皮肉を込めたスケッチです。こういった政治色と時事性の強いコメディを作り上げ、ホストである俳優も賛同して取り組む姿勢に尊敬と憧れを感じます。

この回はカンバチさんのコメディ演技が素晴らしく政治的メッセージも皮肉もたっぷり効いているのでシーズンの中でもかなりお気に入りの回です。どれも最高のスケッチなんですが、ここはあえてカンバチさんの美しい歌声が堪能できる「Chuck E. Cheese」を推します。アニマトロニクスのキャラクターショーで有名なピザ屋チャッキーチーズで、機械の故障により店長の趣味で80年代風のテクノポップユニットが代わりにショーを行うというスケッチです。

 

 

シーズン47 第20回 セレーナ・ゴメス

2022/5/14放送回。音楽ゲストはポスト・マローン。

ドラマ『マーダーズ・イン・ビルディング』でSNLレジェンドのスティーヴ・マーティンマーティン・ショートと共演しているセレーナ・ゴメス。二人からのアドバイスや旧友のマイリー・サイラスのモノマネ、さらには今シングルなのでSNLで出会いを求めている(SNLのコメディアンと出演したホストが結婚するということがよくある)、などジョークが冴え渡っているモノローグが最高です。スティーヴ・マーティンも特別ゲストでスケッチに出てくれています。

この回で大人気だったのはNetflixで世界配信されバズっている『はじめてのおつかい』を完全にパロったスケッチ。番組のエフェクトや日本語の字幕まで完璧なことに驚きます。「アメリカでは子ども一人でお使いには行かせられないので、子どものように頼りない人物として「付き合いの長い彼氏」にやってもらいましょう!」という前提がやばい。SNLを見ているとこの「付き合いが長すぎてお母さんと子どもみたいな関係になってしまっているカップル」というネタが良く出てくるんですが向こうでもあるあるなんですね…

 

 

シーズン47 第21回 ナターシャ・リオン

2022/5/21放送回。音楽ゲストはジャパニーズ・ブレックファスト。

ついにシーズン47の最終回!子役時代から活躍するナターシャ・リオンが元カレのフレッド・アーミセンを登壇させたり薬物中毒などの諸問題を明け透けに振り返ったりするモノローグから心を鷲掴みにされます。

そして長年レギュラーだったピート・デヴィッドソン、ケイト・マッキノン、エイディ・ブライアント、カイル・ムーニーが卒業することがこの回の放送前に発表されました。この第21回はそれぞれのお別れのようなスケッチがあってとても感慨深い気持ちになりました。コールドオープンはケイト・マッキノンの当たり役の一つ宇宙人に何度も誘拐されてひどい目にあってるラファティさん。宇宙人と共に地球を去る覚悟を決めた彼女が最後に「地球よ、愛してるよ。ここにいさせてくれてありがとう」と言った時はこんなにしょうもないコントなのに涙があふれるという奇妙な現象が起きました。

 

というわけでシーズン47をご紹介してみました。レギュラー4人の卒業は寂しい限りですが、実はシーズン47は歴代の中でもレギュラーコメディアンが最も多いシーズンでもありました。もちろんコロナ禍で欠員が出ても大丈夫なような措置ですが、その自由度からレギュラーメンバーが欠席してドラマや映画の撮影を行ったりしていました。(よく見るとシーズン47は特定のメンバーが数回に渡って出てこないということがありました)このため今回卒業する4人も人気がなくなったからではなくSNL以外の活躍の場が増えてきたから卒業、ということだとわかります。

例えばケイト・マッキノンアメリカでは異様に人気の高いNetflixドキュメンタリー『タイガーキング』のドラマ化作品に出演。さらにグレタ・ガーウィグ監督の実写版『バービー』にも出演予定です。大忙し!

ピート・デヴィッドソンはキム・カーダシアンの彼氏としてセレブ的な注目が続くことはもちろんのこと、出演映画はA24映画『Bodies Bodies Bodies』、同じくA24&プランBの『Wizards!』、盟友マシンガン・ケリーが監督するコメディ映画『Good Morning』そして自信もプロデューサーとして参加するラモーンズの伝記映画『I Slept With Joey Ramone』でジョーイ・ラモーン役を演じるなどひっぱりだこです。

エイディ・ブライアントはエミー賞にもノミネートした主演ドラマ『shrill』(日本未上陸)が人気に。こちらは終了してしまいましたがリアルサイズの俳優としてメリッサ・マッカーシーやエイミー・シューマーに続くような活躍をしてほしいと願っています。

カイル・ムーニーはここでも紹介した狂気のTVシリーズ『サタデーモーニング・オールスターヒッツ!』がありました。この先もクリエイター&パフォーマーとしてザラついたビデオ映像風のコンテンツを作り出してくれるに違いありません。

 

というわけでSNL出身コメディアンは今後も活躍が予想されます。そんな彼ら/彼女らのキャラクターをより知れるという点でもSNLはオススメです。さらにはホストを務める俳優の素顔やコメディ演技、コント中に思わず吹き出してしまうようなお茶目な一面、そしてその人の持つ社会的・政治的姿勢などなどが見て取れるという点で映画ファンにもオススメの番組なんです。個人的には音楽ゲストのライブショーも今アメリカではこういう人たちがトップランナーなのかー!というショーケースにもなっているので音楽ファンにもオススメです。とにかくアメリカのポップカルチャーに興味がある人はぜひ見てほしいんです!

 

ということでみんな入ろう!Hulu!まずは2週間無料お試し!(2回目)そしてSNLにハマりましょう!

 

「この映画宣伝がすごい!2021」イベントやります!

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こんちには、ビニールタッキーです。

映画宣伝好きの皆さんには毎度おなじみ、それ以外の人たちには全く知られていないであろうイベント、「この映画宣伝がすごい!」の2021年版をやります!

イベントの正式名称はビニールタッキー×稲田豊史×杉山すぴ豊 「この映画宣伝がすごい! 2021 ~アカデミー賞も間近だけど、こっちはこっちで盛り上がれ!」です。相変わらず長い!なろう系か!

開催日時は2022年3月19日(土)19:00〜です。今回も前回に引き続き下北沢本屋B&Bさん主催のオンラインのリアルタイム配信イベントとなります。アーカイブはありませんのでご注意ください!一夜限りの祝祭です!

リアルイベントだった時の様子は2018年版の取材記事がありますのでご覧ください。

初めてイベント形式で開催した「この映画宣伝がすごい!2018」から数えて4回目。2020年版からは情勢を鑑みてオンラインイベントとなりましたが、オンラインであることをいいことに時間をはみ出ても映画談義に花が咲きました。

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ゲストは毎度おなじみ杉山すぴ豊さんと稲田豊史さん!(写真は2019年版のリアル登壇イベントの様子です)実際に映画宣伝やPRイベントに携わるすぴ豊さんの舞台裏話や、映画配給会社や映画館への取材も多い稲田さんの事実に裏打ちされたお話など、僕も毎回発見と驚きの多いトークになっています。

トークのメインは「海外映画が日本に持ち込まれた時に発生する面白い映画宣伝」略して「おもしろ映画宣伝」を勝手に称賛し表彰する「この映画宣伝が宣伝がすごい!2021」のベストテン発表です。

発表内容は↑のようにブログで毎年公開していますが、このトークイベントはその内容をプレゼンテーション方式で初公開する場となっています。(あんまり大きな声では言えませんが文字情報として残らないトークイベントだからこそ話せるここだけの話も盛り沢山です!)2020年はコロナの影響でおもしろ映画宣伝が激減してしまったのですが、2021年はどれをベストテンにしようか、どの宣伝を部門賞にしようか迷うぐらいおもしろ映画宣伝が復活したんですよ!(涙)あの超話題作はランクインしているか?あの風変わりな宣伝は部門賞に入っているか?など予想するのも楽しいと思います。

昨年は宣伝担当の方がイベントを見ていたとか、職場のみんなで見守っていた(!)という話があったり、イベント後に映画公式アカウントが反応して下さったり業界注目度が高いようで緊張が高まっています!見られてる!!怖い!!

また、3月28日(日本時間)に発表されるアカデミー賞予想もやっちゃうぞ!と思ってます。個人的な話ですが今年は当日仕事を休んでリアルタイムで授賞式をウォッチする予定なのでガチ予想で行きますよ!

というわけで楽しいイベントにしていきたい!と現在必死にプレゼンを作ってます!(※イベント開催一週間切ったのにまだ完成してません…いつものことですが)改めて、皆さん、2022年3月19日(土)19:00〜「この映画宣伝がすごい!2021」よろしくお願いします!

 

コメディアンのサラ・シャーマンが気になるというお話

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こんにちは、ビニールタッキーです。

このブログを見てる方はご存じだと思いますが僕はアメリカのコメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』の大ファンです。Huluさんの公式ブログで紹介記事を書いたりしました。

最新シーズン47がHuluにて見れるのですがこのシーズンから新レギュラーとなったサラ・シャーマンが少し気になっています。

開始当初からコントの脇役としてちらほらと出てはいたのですが、同期で入った他の二人のコメディアンに比べて派手な当たり役がなく、正直なところ少し地味な印象でした。

しかし彼女が世間的にも注目を集めたのがこのコント。

ニュース番組風のコーナー「Weekend Update」にゲストとして登場したサラはニュースアンカーであるコリン・ジョストの些細な発言の言葉尻を捕らえてゴシップ記事風に糾弾するというネタを披露。例えばこんな感じ。

サラ「緊張して生放送でポロリしちゃうかも」

コリン「君の今の服なら大丈夫だよ」

サラ「私の乳首の位置がわかるの…?」

コリン「みんな同じだよ」

サラ「速報です!コリン・ジョストは大量の乳首を見てきたそうです!

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サラ「この番組は美男美女だらけ。私は美術学校卒のチャッキーみたい」

コリン「そんなことないよ」

サラ「私に惚れてるの…?」

サラ「速報です!コリン・ジョストが新人を口説いています!

基本的に悪口を受け流すタイプのコリンもこのギリギリのネタに「本当にやめてくれ!」と困惑気味。あまりのキレの良さと掛け合いのうまさに「なんだこれは!?」と視聴者を驚かせました。ちなみにこのネタは好評なようで数週間後に同じネタで再登場しました。*1

これがきっかけとなって作り手も本人も活かし方を掴んだのか、通常のコントでも印象に残るキャラが多くなりました。(まあこれもだいぶギリギリのネタですが)

特徴的なメガネにマレットヘア風の髪形に派手な服装。現レギュラーの女性陣とは全く異なる雰囲気にとても興味を引かれました。

ということで彼女のツイッターアカウントを探して見てみました。

えっ怖い。よく見るとアイコンも怖い。どういうことなの…?

Sarah Squirm(サラ・スクワーム)名義でも活動するアメリカのコメディアン:サラ・シャーマンはジャンルで言うと不条理ギャグとボディ・ホラー(人体破壊などのグロテスクなホラー)を組み合わせたコメディ…って完全にアングラ芸人じゃん!

彼女が全国ネットのSNLに出るのは日本で言えば地上波に山塚アイが出たとかNHK電気グルーヴが出たとかそんな感じでしょうか。(例えが古い)

サラ・シャーマン(またはサラ・スクワーム)は1993年生まれの28歳、ニューヨーク州ロングアイランドユダヤ人の両親の元に生まれる。

大学の演劇科を卒業後、2015年にシカゴのスタンダップコメディ界で人気を集める。多くのコメディアンを輩出したこの地でメインショー「Helltrap Nightmare」を開催。「私の仕事は女性の身体にグロテスクさを取り戻すこと」「社会が押し付けてくる「女性の体」から実際の女性の体はどのように逸脱しているかを表現する」ということでステージ上から観客に色々なモノを見せたり顔に塗りたくったりしたそうです。

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Sarah “Squirm” Sherman goes all out "sliming" stand-up comedy - Medill Reports Chicago

2019年からはLAで活動。ゴアビデオ、体液コメディやノイズミュージックなど本人曰く「very gross(めっちゃキッショイ)」ショーを開催。

このようなスタンダップコメディやステージパフォーマンスに加えてデジタルコンテンツ制作にも精力的で、2018年にはアダルト・スイム(ざっくりいうとアメリカの大人向けのイケてるカートゥーンプラットフォーム)にて短編映像を発表。続いて去年発表した代表作「Sarah Vaccine」は13分の短いビデオですがなかなかに人を選ぶポップでゴアくてグロい映像なので一見の価値ありです。個人的にはフライング・ロータスの『KUSO』や『サイコ・ゴアマン』あたりを思い出しました。

そんな彼女が2021年にSNL参加が発表された時の第一声は「SNLは間違いを犯したね!」

 

同じユダヤ系でSNLの伝説的レギュラーだったアダム・サンドラーの映画『アンカット・ダイアモンド』がお気に入りでいつかサフディ兄弟の映画に出るのが夢。(「ゲロを吐きまくるユダヤ人」役で出たいんだそうです)

さらに調べていくとジャッカス・フォーエバー』に脚本の一人として参加しているとのこと。まあ確かにあれも人体の限界に挑戦してますしね…

最近もシカゴのインディーズロックアーティストLala Lalaのアルバム告知映像に出演。見てたら急にCHAIが出てきたりしてビックリしました。

来歴を見るとコメディアンというよりコアでアングラなパフォーマンスアーティストという印象が強くなってきました。返す返すもよくこんなアナーキーなコメディアンを全国ネットのテレビに出したな!と驚きます。ここまで知るとSNLのオープニングで流れるお澄まし写真すら少し面白くなってきてしまいました。

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しかしSNLにはgross(キモい)なレギュラーコントも豊富にあるので彼女の才能が発揮される余地はまだまだたっぷりあるような気がします。今後も彼女に注目して行きたいと思います。

SNLの視聴者が私のTwitterアカウントに訪れた時の感じ」本当にそれ。

*1:個人的にはあまりこのネタをやりすぎるとセクハラ被害を訴える女性を揶揄してるみたいで少し嫌だなと思っていたら次の回ではコリンのお金持ちっぷりやクィアベイティングな行動を揶揄するネタで構成されていました。

2021年映画ベストテン+α

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こんにちは、ビニールタッキーです。

2021年はたくさん映画を見ました。大変ありがたいことに映画の試写、しかもご時世的にオンライン試写のご案内を頂くことが多くて地方在住の映画ファンとしては「ありがてぇありがてぇ…」と拝みながら見ていました。関係各社の皆様本当にありがとうございます。もちろん映画館の方も本当に厳しい時期だったので応援のために足繫く通いました。そんな感じで日々映画を見続けた結果、2021年は新作147本、旧作31本の計178本を見ました。さすがに見すぎだと思います。22年はもう少し自分の生活スタイルを崩さない程度に見ようと思います…

というわけで個人的2021映画ベストテンを発表したいのですが、これだけの本数を見るとベストテン以外にも印象に残る映画がいっぱいありました。ということでで20位から1位までの発表にしたいと思います。それでは行ってみよう!

第20位 モータルコンバット

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まず序盤の真田広之のカッコよさにいきなり涙を流し、映画オリジナル主人公に一瞬戸惑い、「人間界と魔界が戦う格闘技大会モータルコンバットというのがあって既に魔界が9連勝中で人間界は大ピンチ」という話にのけぞり、わりと本気のフェイタリティ(残酷描写)に興奮し、最後に「Techno Syndrome」が流れる頃には心の中で拍手を送っていました。人間界や魔界の描写はざっくりしてるのに残酷描写は本気、物語はおおざっぱだけど人物の関係性描写は繊細、などレーダーチャートにしたら一部の角が極端にはみ出ているような映画で好感が持てました。何よりもアジア系俳優が多く活躍していることに感動しました。(個人的に推しのルディ・リン(リュウ・カン役)の魅力がこの映画で知れ渡ったのもうれしい限り。少女漫画のような顔立ちに刃牙のような筋肉!)そしてこの映画なら胸を張って言える。「世界よ、これが真田広之だ!」

第19位 すべてが変わった日

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ポスターを見て息子の死と向き合う老夫婦の話かな…と予想したんですが「義理の娘が再婚した男が怪しい…と後を追ったらヤバすぎる家族の一員だった!」という恐怖のスリラー映画でした。このヤバい一家というのが『天空の城ラピュタ』のドーラ一家を猛烈に感じ悪くしたような連中で、特にドーラにあたる女家長のブランチ(レスリー・マンヴィル)が凄まじいの一言。2021年に見た映画の中でも屈指の嫌さ、狡猾さ、残忍さを持つ人物でした。事態がそっちに行ってほしくない…という方向にズンズン進んでいくのも最悪で最高。このアメリカ中西部の暗部みたいなテーマがどことなくテイラー・シェリダンっぽいなと思ったら主演のケヴィン・コスナーは彼が手掛けるドラマシリーズ『Yellowstone』にも主演していると知りました。この配役はその影響なのでは…とにらんでいます。ちなみにこれは全くの個人の感想なんですがこの映画をオンライン試写で鑑賞した時ちょうど新型コロナワクチンの副反応の高熱で苦しんでいたのでかなり悪夢的な映像体験でした。(注:体調が悪いときは映画とか見てないで安静に過ごしましょう)

第18位 RUN/ラン

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全編PCの画面のみで描く傑作スリラー『search/サーチ』のアニーシュ・チャガンティ監督が次に手掛けたのは病弱な娘と過保護な母親の家庭内スリラー。自分の身近にいて常に信頼していた家族の姿が徐々に揺らいでいくスリラー描写はさすが『サーチ』の監督。主演のクロエを演じるキーラ・アレンは実際に車椅子ユーザーということで健常者には分からない日常生活の動きやちょっとしたことに潜む困難などがとてもリアルで圧倒されました。予告編を見てなんとなく代理ミュンヒハウゼン症候群のことなのかな…と思っていると予想の斜め上を行く展開でウワーッ!となりました。賛否が分かれているらしいラストも僕は好きですね。そして怖い役の時のサラ・ポールソンはやっぱり怖い!

第17位 1秒先の彼女

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常に人よりテンポが早いせいで人生がうまくいってないと感じているシャオチーが運命的に出会った男性とデートの約束をしたが朝目覚めると約束の日の翌日になっていた…しかも身に覚えのない日焼けや記念写真が残っている…というちょっと不思議な台湾のラブコメ映画。この映画には大仕掛けがあるのでこれ以上は言えませんが、一歩間違うと人道的に危うくなってしまいそうな展開を、ある人物の健気な性格と一途な思いでちゃんと回避しているのが上手い!と思いました。周りとテンポが合わなくて悩んでいる人(自分もそういうところがある…)に「大丈夫だよ」と語りかけるような映画であり、思わず応援したくなるような恋愛映画なのでラストは「本当によかったね…」と涙を流しました。

第16位 サンドラの小さな家

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DV夫と別れたサンドラは幼い娘と引っ越そうとするが相次ぐ不況と資金難、不十分な社会保障で住む家が見つからない。ならば自分で家を建てるしかない!と無謀にも挑戦するがその熱意に協力者が集まる…というお話。アイルランドの女性監督がシングルマザーの友人の実体験をもとに、アイルランドの住宅問題と親権の問題、それらとどう向き合うべきかを示す映画でした。家の建築を手伝ってくれる人の中には"バイト仲間の知り合いの知り合い"みたいな薄い関係性の人もいるんですが、その一人が言った「初めて人に頼りにされてうれしかった」というセリフが心に強く残りました。アイルランドには日本における「情けは人の為ならず」のような精神が古来からあるらしく、困っているサンドラを助けた人たちも心が救われていくというお話がとてもよかったです。あとメインキャラの大工の親方の息子がダウン症の俳優さんなんですがそれについてなんの言及もなく普通に溶け込んでいるのもよかったですね。日常に当たり前にいる人が映画の中でも当たり前にいることの風通しのよさを感じました。

第15位 アイの歌声を聴かせて

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日本のオリジナル長編アニメーション映画。AIが日常に存在する近未来で高校に転入してきたシオンが実験中の人型AIだと知ったサトミとクラスメイト数人がシオンの正体がバレないように奮闘する…という青春映画。知り合いの映画ライターさんが宣伝本部長に就任したの?というぐらい猛プッシュしていたので予備知識ゼロで見に行ったらボロボロに泣いてしまいました。とにかく歌うことが大好きなシオンが特殊なハッキング能力で周りの全自動掃除機やスピーカーと一緒に歌い出すミュージカルシーンが新鮮でした。これがディズニーアニメでプリンセスが歌うと周囲の小鳥たちも踊り歌い出すシーンみたいで面白かったですねえ。この「ディズニーアニメのような」という部分が実は物語の肝になっているのも泣けて泣けてしょうがなかったです。詳細は避けますが自分は「誰かが遠くで誰かのことをずっと思っている」というお話に弱いのでこの映画には完全にやられました。他にも異なるスクールカーストに所属するクラスメイトたちが少しずつお互いを理解していく王道の展開も丁寧で最高です。日本のオリジナルアニメでこんなにクオリティが高くて泣ける映画があるなんて!もっとみんなに教えたい!とこの映画を見た人たちが宣伝本部長みたいになるのも納得しました。僕もその一人です。

第14位 隔たる世界の2人

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アメリカのBLM運動の大きなきっかけとなったジョージ・フロイド氏事件から発想を得たNetflix配信の短編映画。何度批判されても繰り返される白人警官による黒人への不当な暴力を、何度も繰り返されるタイムループに落とし込んだ傑作です。何でもない日常を送ってるだけなのに何をどうやっても必ず殺されてしまう、という展開はタイムループものあるあるなんですが、それを黒人青年と白人警官という"隔たる世界の2人"に落とし込むことで社会問題を直接反映しているのが素晴らしいと思いました。ぼんやりとした教訓話ではなく「この問題を取り扱っているんだ!」とはっきり示すエンディングも強烈で印象に残ります。ちょうどこの時期に白人と黒人の幼馴染が同じように生きて暮らしているのに世の中の見え方が全然違うということを描いた映画『ブラインドスポッティング』を見たばかりだったのでなおさら胸にズシンときました。

第13位 ザ・スイッチ

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『ハッピー・デス・デイ』『ハッピー・デス・デイ 2U』のクリストファー・ランドン監督の最新作。内気な高校生ミリーがある日無差別殺人鬼ブッチャーと心が入れ替わってしまう…というスラッシャーと入れ替わりモノを組み合わせたジャンルミックスホラー。中に女子がいるようにしか見えないヴィンス・ヴォーンがとにかく素晴らしい。巨漢の男性の身体を手に入れたことで内気だったミリーが次々と大胆な行動に出るのですが、その大胆さは元々彼女の中にあったのでは…と気づく成長物語になってるのがとてもいいんですよ。特にブッチャーの姿のままで憧れの男子と急接近するシーンは、やろうと思えばいくらでも悪ふざけとかギャグシーンになりそうなところを本当に真面目に丁寧に演出していて素晴らしかったですね。一方ミリーの身体に入ったブッチャーが「お前の身体に入ってわかったがお前は弱い。何の力もない」と女性の存在を身体の構造で否定してくるクソ野郎であるというのも重要です。他にもアフリカ系の友人が白人警官(ミリーのお姉さん)に本気で撃たれそうになる描写やゲイの友人の家庭の描写など細かいところにも風刺がありウィットに富んだ映画でした。

第12位 ライトハウス

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絶海の孤島に派遣された灯台守二人。一定の距離感を保っていた二人だが嵐によって連絡船が来なくなってから徐々に崩壊し始める。全編モノクロ、35mmフィルム撮影、登場人物はほぼ二人と公開前からやべー映画だぞと聞いていたのでまず予習のためにロバート・エガース監督の前作『ウィッチ』を見たらこれやべー監督だぞ!となりました。実際に映画を見てみるととにかく膨大な暗喩、暗喩、暗喩。そして神話や民話、絵画や映画の引用。抑圧的で横暴な老人(ウィレム・デフォー)と何か裏がありそうな若者(ロバート・パティンソン)の二人芝居が緊張感を高め、映画後半にドライブしていく感じが凄まじかったです。まさにライトハウス灯台)という巨大なファルスが示す男性性や男根主義を巡る物語でした。こんなに拘りが強くて暗喩が好きな監督だと同じく暗喩大好きなアリ・アスター(『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』)と気が合いそうだな、と思ったら実際にバッチリ意気投合しているらしくて笑ってしまいました。

第11位 シャン・チー テン・リングスの伝説

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もうこの映画はオープニングシークエンスに完全にやられました。最強の男ウェンウー(トニー・レオン)が龍の力を持つ一族の女性と戦うシーン。カンフーとダンスとロマンスが一体となった素晴らしいシーンでした。ウェンウーが負けた時に見せる「おもしれー女」的な表情も最高です。この悪役をトニー・レオンが演じたことが映画に深みを持たせています。あの亡き妻を求めて苦しむウェンウーとそれを心配そうに見つめる手下のシーンは本当に胸を打ちました。一方主人公のシャン・チーが本来の力を発揮するシーンは一瞬「ナメてた相手が実は殺人マシンでした」的な見え方でスカッとするんですが、彼の日常を見ると自分が殺人マシンであること、そしてあの父親の血を引いてることが本当に嫌だったんだな…と感じるのでその手の殺人マシン映画とは異なるテイストがありました。このようにカンフーで戦う肉体的なヒーローですが家父長制や有害な男性性を否定するようなキャラだったのがとても印象的でした。個人的には直線的で攻撃的なカンフーを曲線的で流れるような太極拳で制すという展開がマイフェイバリットカンフー映画『マスター・オブ・リアル・カンフー/大地無限』と同じで大興奮しました。(しかもこの両方にミシェル・ヨーが出ている!)。この柔よく剛を制すという戦闘スタイルがそのまま作品のテーマになっているのも往年のカンフー映画のようで胸熱でした。

第10位 ニュー・ミュータント

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X-MENシリーズの最新作にして20世紀フォックスX-MEN映画の最終作。色々あって日本では劇場未公開となってしまいました。僕はずっと楽しみにしていたので配信レンタル開始早々に鑑賞しました。この不遇な作品を10位に入れたことからもお分かり頂ける通り大好きなんですよ!特殊能力を持った人間の突然変異:ミュータントの姿に人類の差別の歴史を重ね合わせるのが映画X-MENでしたが、この作品はある日突然ミュータント能力を発動してしまった若者の姿に、身体が精神とは違うスピードで変化する実際の若者の戸惑いや不安のようなものを重ね合わせているのが面白いと思いました。とても小さい規模の話なのですが、人種差別、性暴力、同性愛など多くの要素を取り入れています。特に強く言いたいのはアメコミヒーロー映画で『エターナルズ』より『ニュー・ミュータント』の方が先に同性のキスシーンをやってるぞ!ということです。先駆者はこっち!あと『ホークアイ』でネイティブアメリカン設定のキャラを実際にネイティブアメリカンの俳優さんが演じて話題になったけど『ニュー・ミュータント』でネイティブアメリカン設定の主人公ダニーをネイティブアメリカンの俳優ブルー・ハントがやってるから!こっちの方が先!!あとアニャ・テイラー=ジョイがのっぺらぼうの男に襲われるシーンは『ラストナイト・イン・ソーホー』より『ニュー・ミュータント』の方が先にやってるから!!そんな感じで先駆的だし思いのほかよくできてるのに不遇な作品なので本当に応援したいんです!みんな見てくれ!

第9位 モンタナの目撃者

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大好きなテイラー・シェリダンの監督の最新作。数年前に山火事で生存者を救えなかったトラウマから出世街道を外れ自暴自棄になっている消防士ハンナ(アンジェリーナ・ジョリー)が謎の暗殺者に追われている少年と出会うが、暗殺者の放った火が巨大な山火事となって彼らに襲い掛かってくる…というスリラー。保安官役のジョン・バーンサルは相変わらずテイシェリに愛されているな!(「バーンサルとは常に一緒に仕事をしたい」と公言している)というキャラでしたし彼のパートナーで妊婦のアリソン(メディナ・センゴア)はひどい目に合いそう…と思いきや物凄い大活躍を見せるのもテイシェリの新機軸という感じで最高でした。ハンナが「タフな女性」とか「母性本能で動く女性」といった女性という設定に頼ったキャラ付けではなく一人の大人として少年を助けるという描写になっているのがよかったですね。それをタフな女性や力強い母親のイメージがあるアンジーが演じているのが素晴らしい。このように男臭い描写が得意な一方で女性描写があまり芳しくなかったテイシェリがついにワンステージ上がった感じがしてとてもうれしくなる作品でした。

第8位 野球少女

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高校の野球部で唯一の女子部員がプロ入りを目指すスポーツ映画。主人公のチュ・スインはかつて天才野球少女ともてはやされた名投手だったが女性も入れるはずのプロリーグにはガラスの天井があった。そんな中一人の監督と出会う…。こう書くとスポ根映画みたいに見えますがどちらかというととても静かで淡々とした映画です。野球の試合のシーンも少なくその手の映画を期待した人は肩透かしを食らうかもしれません。しかしその静けさの中に炎が燃え盛っているような映画です。特に中盤で登場する彼女と同じくプロを目指している女性選手が思わず放つある一言、彼女の孤軍奮闘が全く知らない誰かに影響を与えていたことがわかるシーン、そして終盤である提案をされた時に彼女が放つセリフ、これら全てが本当に熱くて泣きました。同じく野球選手を目指す幼馴染の男の子が昔は弱っちかったのに今は身長も手のひらも自分より大きくなった…という描写は切なかったですね。野球業界だけでなく、どの業界にもあるような女性が突破できないガラスの天井をまざまざと見せ、なぜそんなものを作るのかと問い詰めてくるような映画でした。

第7位 小公女

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2021年から開始した動画配信サービスJAIHOが配信した韓国インディーズ映画。タバコとウイスキーと彼氏をこよなく愛するミソは家賃の値上がりをきっかけに家を諦めて学生時代の友人の家を転々とする放浪生活を始める。『パラサイト』のように貧困問題を描いているのか、というとそうでもなくどちらかというと学生時代の友人たちがすっかり"大人"になってそれぞれ悩みを抱えている様子を見ていく…というロードムービー風の話です。しかもミソは自分のスタイルを貫くタイプなので彼女に会った友人たちが影響を受けて変わっていくという変則的なロードムービーとなっています。とにかくこのミソが魅力的でハードボイルド小説の主人公のようなカッコよさがありました。酒とタバコが好き、貧しくても気高い、小さな楽しみを大切にする、彼氏(この彼氏がパッとしないのもいい!)のことを本当に愛しているので男性の友人宅に転がり込んでも全くいやらしい雰囲気にならない(これも本当にいい!)。この年見た映画の主人公の中で最もしびれた人物ですね。終盤にかけてのカタルシスも良く、物凄く出来のいい短編小説を読んだような後味でした。

第6位 モロッコ、彼女たちの朝

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身重の妊婦サミアが路頭に迷っているところを見たパン屋の女主人アブラは散々悩んだ末に彼女を家に招く。この二人が助け合う中でお互いの考え方に変化が起きていくというシスターフッドの物語です。なぜアブラが悩んだかというとモロッコでは未婚の妊婦はタブーだからなんです。この映画を撮ったモロッコ出身の女性新人監督マリヤム・トゥザニは子供の頃に両親が未婚の妊婦を匿ったという経験からこの映画を作ったそうです。この映画を見てふと気付いたのは彼女たちは男性がきっかけで生きづらさを抱えているのに肝心の男性はほとんど出てこないということ。サミアを妊娠させた男の姿は出てきません。アブラが心を閉ざすきっかけになった男たちも出てきません。この映画はそういった男たちを直接登場させない、つまり具体的なキャラクターを悪役に仕立てないことでこの問題はすべての男たちやそういう社会にあることを印象付けています。(ここで宗教をやり玉にあげないバランス感覚も見事です)まあただ単にサミアが相手の男をどうでもいいと考えているから、という風に見えるのもいいなと思います。他にもおいしそうなモロッコのパンや異国情緒あふれるカサブランカの街並み、フェルメールの絵画のような画面の作り方など目にも美味しい要素でいっぱいです。監督が昔匿った女性は結局その後どうなったのか分からないそうです。今どこで何をしているのか…そんな監督の気持ちがそのまま表れているようなエンディングも忘れられません。

第5位 パワー・オブ・ザ・ドッグス

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Netflix配信映画。20世紀初頭のアメリカ西部で牛の牧畜で生計を立てる兄弟。ある日弟が旅館の女主人と結婚したことから家族間に軋みが起こり始める。とにかくベネディクト・カンバーバッチ演じる兄フィルの剥き出しの男根のような有害な男性っぷりが本当にすごい。(特に弟の妻(キルスティン・ダンスト)を弄るシーンが本当にひどい)しかし映画を見続けていると中盤で彼の複雑な身の上がわかり印象が少し変わります。一方でジェシー・プレモンス演じる心優しい弟ジョージも結婚後の妻に対する言動を見ると結局は兄とは違う形で家父長制の型にはまっていることがわかります。そして妻の連れ子ピーターの男性性とは遠くかけ離れているように見えて実はふつふつと煮えたぎる感情。この登場人物たちの不協和音が奏でる「男らしさを巡る話」がメインテーマとなっています。時にヒリヒリと、時にじっとりと感じる人間関係、それを遠くから見つめているような美しい大自然。こんな重層的な西部劇を作り上げたジェーン・カンピオン監督は本当にすごいな!と唸りました。

第4位 フリー・ガイ

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GTAやフォートナイトのようなやりたい放題なオンラインゲームのモブキャラ・ガイ(ライアン・レイノルズ)が運命の女性モロトフガール(ジョディ・カマー)に出会い自我に目覚めるアクションロマンスコメディ。まず第一に「ガチャガチャした映画に見えるけどよく考えられているな」と思いました。例えばガイとモロトフガールの関係性や、プログラマーの男女の関係性など、これまでの恋愛映画の構図とは少し異なっていたりあえて逆転させていたりと「よく考えられているな!」と感心しました。一方で強欲な経営者が他人のIPを奪ったり適当に続編を作ろうとしたりするという話をディズニーに買収されたばかりの20世紀映画がやるというメタ的な構造には爆笑しました。(この買収のメタギャグがピークに達する"あの"シーンで劇場が爆笑に包まれたことは忘れられません)こういうゲーム世界を舞台にした映画は「ゲームもいいけど現実も大事にしなきゃだめだよ」というお説教みたいな結論に行きがちですが、この映画は「いやどっちも必要な人には必要だし大事だろ」という結論にしているのが本当に優しいと思いました。劇中に出てくる「確かにゲームはリアルじゃないが、今自分たちが感じている感情はリアルなんだ」というセリフはゲームを愛する人、ひいては映画や小説などフィクションの世界を愛する人すべてに捧げられているようで本当に感動しました。

第3位 キャンディマン

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1992年のホラー映画『キャンディマン』の続編。現代芸術家のアンソニーは新しく引っ越してきた土地に伝わる都市伝説「殺人鬼キャンディマン」の話に魅せられていく。いわゆるジェントリフィケーションによって地域のコミュニティやアイデンティティが崩壊していくことに警鐘を鳴らすような社会派ホラーでした。この映画の基となった1992年版『キャンディマン』は悲恋の末に残酷な最期を遂げたアフリカ系男性の怨念が怪物となって現代に蘇るという言わば黒人版『オペラ座の怪人』的なお話で当時としてもかなり人種差別や格差社会に切り込んだ映画でした。しかしキャンディマンが黒人白人・悪人善人も関係なく無差別に殺したり最後に怨念が白人に乗り移ってしまったりとテーマにブレがあるような感じがしました。今回の『キャンディマン』は"ジェントリフィケーション"されてしまった92年版から明確にアフリカ系のアイデンティティを取り戻すという企画意図を感じられ、そこに深く感動しました。「鏡の前で名前を5回唱えるとキャンディマンが現れて殺される」というちょっと陳腐なギミックを本気で怖くして斬新に見せるアイディアもいいですし、この設定をうまく活かした終盤の展開も見事でした。血なまぐさいホラー映画とは思えぬエンドロールの静かな紙芝居も忘れられない映画です。

第2位 ラーヤと龍の王国

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ここ数年のディズニーアニメには物語の王道の流れを裏切るとか別の視点で見てみるという試みを強く感じます。例えば『アナと雪の女王』は王子様のキスが問題の解決にはならず、『トイ・ストーリー4』は"みんな幸せに暮らしましたとさ"の向こう側を描き、『2分の1の魔法』は主人公の願いが全く予想だにしない形で叶うなど、大作映画だったら無難に選ぶであろう王道の展開をあえて避けてみることで新たな感動を湧き起こそうとする工夫を感じます。『ラーヤと龍の王国』もその工夫が最大限に活かされた映画でした。

太古の昔に五つに分断された国に恐るべき魔物が登場したので再び手を取り合って戦おう!という話なのですがそう簡単にはいきません。かつて魔物を封じ込めたという龍のシスーは実はほかの優秀な兄弟に比べて能力が弱く、あまり特殊能力もない龍であることがわかります。なぜそんなシスーが王国を救ったのか…。さらに主人公のラーヤの国とライバルであるナマーリの国の仲が相当悪く、物語の終盤近くまで二人は争うことになります。二人が本当に分かり合えるようになるのはラーヤがある危機的状況で選んだ意外な決断です。ここに「本当の信頼関係とはまず自分の中の疑心暗鬼を取り払うことから始まる」「異なる文化の相手を尊重する」「分断より融和」というテーマが強く込められていました。まさにコロナ禍で多くの国や人々が分断された世界に本当に必要なメッセージだと思いました。さらに言えばコロナ禍でアジア系がヘイトクライムの標的となってしまった世界で、アジアの文化を尊重し、アジア系の人々、特に子供たちを勇気づけた映画だと思っています。そういう意味で2021年に公開された映画の中でも特に重要な作品だと思います。

第1位 エターナルズ

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MCUの新作をまさか1位に上げることになるとは…と自分でもビックリなのですが『ザ・ライダー』で大ファンになったクロエ・ジャオ監督がMCUという大舞台で持ち味を最大限に発揮しつつヒーロー映画としても楽しい映画を作り上げたところに興奮しました。何よりもディズニー傘下のマーベルをはじめピクサースターウォーズなどが積極的に取り組んでいる多様性と包括性をここまで向上させたことに驚きました。主人公の配役が中国系イギリス人の女性(ジェンマ・チャン)であるということがそもそも画期的ですし、彼女を含むエターナルズもこれまでのMCUよりはるかに人種多様性に富んでいます。さらに手話で話すヒーロー役として実際に聴覚障害者の俳優(ローレン・リドロフ)を配役するなど包括性も取り入れています。日本人の観客としてはハリウッド映画で原爆投下を「恐ろしいこと」「悪事であること」とはっきり描いたのにも驚きました。(ただしこれがアメリカ人ではなく中国人監督によって実現したということは忘れずにいたいです)

原作コミックは「太古の昔に地球にやってきた宇宙人が人類に文明を与えた」という当時流行っていた古代宇宙人飛来説から影響を受けていますが、現在この説は「西欧文明以外に高度な文明が自然発生するわけがない」という差別的な思想だと批判されています。本作はこれを逆手にとって「宇宙人自体が多様だった」という風にアップデートしていることに驚きました。しかもこれらの先進的なアイディアがクロエ・ジャオによるものだったのです。『エターナルズ』とクロエ監督の過去作『ザ・ライダー』『ノマドランド』にも共通して「自分のアイデンティティだと思っていたものが失われた時にどうするか」というテーマがあります。しかしこれはMCUにおける『キャプテン・アメリカ』『アイアンマン』『マイティ・ソー』の各三部作、そしてMCU版『スパイダーマン』三部作においてもすべて共通するテーマなのです。つまりMCUが主要ヒーローで描いてきた喪失と成長の物語のエッセンスとクロエ・ジャオが毎回扱っているテーマはほぼ同じなのです。なのでアート映画的な印象のあるクロエ監督がヒーロー映画を撮れたのも資質があったからだと思えてならないのです。これは本当にすごい。そういうわけで『エターナルズ』は完璧な映画だと思います。思うんですが、いつかこの映画も古く感じるような世界になっていってほしいと思います。

 

以上、2021年映画ベストテン+αでした。本当はこの年劇場公開してくれた大作映画のワイスピとか007とかDUNEとかも入れてあげたかったな…とかいっぱい見てるつもりでも重要作をたくさん見逃してるな…とかこの年は邦画が良作揃いだったらしいけど全然見てないな…(『花束みたいな恋をした』は見てないのになぜか『CUBE 一度入ったら、最後』見てる)とか色々思うところはあるんですがどこに出しても恥ずかしくない僕のベストテンです!2022年も楽しい映画をいっぱい見ましょうね!