第9惑星ビニル

見た映画の感想を書き綴ります。

映画感想『アリー/スター誕生』酒と女と男と泪とバラの日々

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原題:A Star Is Born
製作年:2018年
製作国:アメリ
監督:ブラッドリー・クーパー
出演:レディー・ガガブラッドリー・クーパーサム・エリオット、アンドリュー・ダイス・クレイ、デイヴ・シャペル

 

あらすじ:有名なカントリー歌手のジャックと歌手を目指すウェイトレスのアリーが出会いました。

試写にて鑑賞しました。1937年の映画『スタア誕生』の3度目のリメイク。映画初出演のレディー・ガガとこれまた監督初挑戦のブラッドリー・クーパーのタッグで公開前から話題となりました。僕は『スタア誕生』未見の前知識ゼロ状態でしたが、アメリカ本国で絶賛の嵐!ベネチア映画祭では上映後スタンディングオベーション!という評判だけは聞いていたので期待に胸膨らませて鑑賞したのですがこれは確かに立ち上がって大拍手したくなるぐらい素晴らしい映画でした。

音楽がテーマの映画で「素晴らしい曲」とされている曲が肌に合わないと全く楽しめなくなることがあるのですが、もう全ての歌が始まるたびに鳥肌が立つほどの素晴らしい曲ばかり。しかもカントリーからロック、ピアノバラードからダンスチューンまで様々なジャンルの歌が節目節目で歌われるのですがそれら全てがそのシーンを的確に物語っているというミュージカル形式になっているのも驚きました。

演技初挑戦とは思えないレディー・ガガの迫真の演技も印象に残りました。リップバームを塗っただけのほぼスッピン(すごくきれいでびっくりしますよ!)で演じた飾らない下町のウェイトレスからバッキバキのポップスターとして花開く(このあたりで我々のよく知ってるド派手でかっこいいガガ様風になるのが最高!)アリーは見事でした。そして環境や見た目が変わっても中身はタフで力強く愛嬌のある女性であると感じさせる演技には唸りました。その女性像も2018年現在という感じで好感が持てます。僕は「俳優を魅力的に映すことができればその人は名監督」という個人的な持論があるのですがそういう意味で言うと"新鋭"ブラッドリー・クーパー監督の手腕も100点満点だと思いました。名監督たちと何度もタッグを組んでいくうちに映画作りのノウハウを吸収していたのかもしれません。

ライヴシーンはどれも本物のスタジアムやフェス会場で収録したというだけあって迫力抜群なのですが個人的にはそのライヴを見ている登場人物の表情がとても印象に残りました。アリーの歌う「La Vie En Rose」を見るジャックの表情、ジャックの弾き語りを見るアリーの表情、ジャックとアリーの歌を見るジャックのマネージャーのボビー(サム・エリオット)の表情…そう、このボビーが本当に最高なんですよ。偏屈で頑固なマネージャーと思いきや…っていう。サム・エリオットの渋い演技にも泣かされてしまいました。
この映画の特筆すべき特徴として「とにかくカメラが近い」ということがあります。ちょっとどうかと思うくらい人物に寄りすぎているのです。そのおかげでスクリーンに映っている人物以外の人がどうなっているのか、ジャックとアリーの関係についてファンやメディアはどう思っているのか、といった描写がほとんどありません。でもそれでいいのです。これは彼と彼女と、その周りの何人かの人々の狭いけど限りなく深くて強い絆の物語なのです。

物語終盤で先述の通りカメラ寄りすぎのアップでジャックとアリーが話している時にアリーのまつげにかかった髪をジャックがそっと指でよける、というシーンがあるのですが、なぜか自分でもよく分からないぐらいこのシーンでぶわっと泣いてしまいました。ここまで二人が積み重ねてきた時間、関係性がこのさりげない動きに凝縮されているような気がして心のダムが決壊してしまいました。これが映画のマジックだ!と感じました。

この映画、あまり詳しくは書けないのですが、見事な円環構造というか、始めに起きたことと終わりに起きることが対になっているのがとても美しくて、そういう点でも深く深く感動しました。ぜひ劇場の大音量でライヴシーンを、劇場の大画面でどアップでとらえたガガ様の美しい肌と二人の絆を体験してほしいと思います。そしてブラッドリー・クーパー監督の次回作が楽しみで仕方がないです!

 

 

・『世界にひとつのプレイブック

自分をコントロールできないブラッドリー・クーパーと不幸な出来事で心が壊れてしまったジェニファー・ローレンスの二人が切なくもおかしい。僕はこの映画で二人のファンになりました。

 

・『アメリカン・スナイパー


監督クリント・イーストウッド、主演ブラッドリー・クーパーアカデミー賞6部門ノミネート作品。『アリー/スター誕生』は元々イーストウッド監督&ビヨンセ主演で企画されていたそうです。大げさかもしれませんがブラッドリー・クーパーイーストウッドを継承しちゃうんじゃないの?と思ってしまいます。

 

・『SING/シング』

歌にまつわる映画として大好きな一本。この映画も素晴らしい歌を見ている時の表情がとても印象的です。特にね…物語終盤にネズミのマイクが見せる表情が本当に最高なんですよ…

 

・『スタア誕生』(1954年)

1937年のオリジナル版をミュージカルとして再映画化したリメイク1作目。『アリー/スター誕生』の序盤でこの映画の主役女優ジュディ・ガーランドへのオマージュがあります。


・リアルストーリー

realsound.jp

この映画が2018年の今リメイクされることの意義、そしてレディー・ガガの実人生に重なる物語について解説した記事。とても読み応えのある素晴らしい記事なのですが、できれば鑑賞後に読むことをおすすめします。