原題:Venom
製作年:2018年
製作国:アメリカ
監督:ルーベン・フライシャー
出演:トム・ハーディ、ミシェル・ウィリアムズ、リズ・アーメット
監督は残酷コメディに定評があるという話と予告編からにじみ出る「寄生獣」…というより「ど根性ガエル」っぽさに惹かれて鑑賞しました。結果は…人が大量に死ぬ「ど根性ガエル」みたいな映画でした。どっこい生きてるエディの中。ただしR15映画のわりに直接的な残酷描写や性描写はほとんどありませんでした。そしてトム・ハーディ主演映画ということで何があっても犬がひどい目にあうことはありません。ご家族連れでも安心して見ることができると思います。
ドレイク(リズ・アーメッド)率いるライフ財団の不正を暴くため嗅ぎ回っていた報道記者エディ・ブロック(トム・ハーディ)はひょんなことから謎の宇宙生物シンビオートに寄生されてしまいました。最初はSFホラーっぽいトーンで進みますがヴェノムがエディに寄生して喋り始めたあたりからコメディ色が強くなるのが印象的でした。僕は鑑賞後「押しかけエイリアンもの」と表現しました。ダーリンに寄生するっちゃ。
『ヴェノム』見たよ…めっちゃ楽しかった…!残虐で凶悪なダークヒーローものだと思ってたら完全に押しかけエイリアンものだった。ヴェノム宇宙一かわいいよ!しかも負け犬たちがなけなしの正義感だけで戦うという俺の大好物な物語で本当に最高だった。俺も何か無性に食いたくなったぜ!! pic.twitter.com/iOgb0Irefv
— ビニールタッキー (@vinyl_tackey) 2018年11月2日
そんな感じでこの映画は「ヴェノムがかわいい」に尽きます。銃を向けられて手を上げるエディに「かっこ悪い」と言って手を無理矢理下げさせたり、ピンチを救ってもらったエディが感謝すると「どういたしまして」と答えたりするヴェノムちゃん。さらに恋愛指南してきたりして人間同士の恋愛にも強いという最強っぷり。しかし一方で「ポテトとチョコ!」「あやまれ!あやまれ!(Apologize! Apologize!)」といったもう本当にマスコットキャラか!としか言いようがない振る舞いも最高です。まあその一方で人間を棒切れのように振り回したり脳を食べたりするんですが。
アメリカ本国での公開当時「コメディが古い」という指摘がありましたが、確かに「高級レストランで料理をむさぼり食う主人公に辟易する金持ち客」や「いつも強気な騒がしい隣人を憑依状態で脅して黙らせる」といったシーンを見たときは「あーこういうの最近見なくなったなー」とノスタルジックな気持ちになりました。
その一方でアン(ミシェル・ウィリアムズ)の新恋人である医者のダン先生(リード・スコット)が実に優しくていい人でエディと敵対することなく友好な関係であるというところは今時の映画っぽいと感じました(『アントマン&ワスプ』もそんな感じでしたね)。実際に役者も含めた話し合いで「彼女をトロフィーのように扱って男たちが対決するパターンはやりたくないし面白くもない」という考えから今のような関係になったというのはとても健全なことだと思いました。
敵役のドレイクも『キングスマン』のヴァレンタインや『ウォッチメン』のオジマンディアスを髣髴とさせる「行き過ぎたエコロジスト」という感じで最高です。涼しい顔で人体実験を指示する一方で子どもたちには優しいのが(子どもと話すときに膝をついて目線を合わせるという紳士っぷり!)一筋縄では行かない手ごわい人っぽさに拍車をかけていました。あれはたぶん「環境破壊を繰り返す人類は腐っている。イノセントなのは子どもと宇宙生物だけ」ということなのかな、と思いました。
この映画について「ど根性ガエル」みたいだと述べましたが同時に「運命的な出会いをきっかけに変わっていく二人の映画」であるとも感じました。正直『ヴェノム』を見た後に「この広い地球でキミと出会えたキセキ」みたいな歌を聴くと「は?こっちは宇宙規模なんだが?」と無意味にイキってしまいます。
僕は出会いによっておかしくなってしまう人というのがたまらなく好きなので劇中のとあるセリフ「お前だ、お前のせいだ」で一発ノックアウトされてしまいました。確かに「悪人は食べてもいい」というエディの"ルール"は殺人の肯定であり、報道で憎い相手を倒したいという欲求がヴェノムの凶暴性に侵食されて歪められてしまったと考えると怖い話でもあります。しかし本来無差別に生き物を食うはずだったヴェノムが節度ある捕食をするようになったのもある意味「まとも」ではなくなったということになります。彼らは出会ったことによって明らかに「まとも」ではなくなってしまったし彼らのルールは倫理的には間違っていますが、その間違ったまま進み続けているところもこの二人だと愛おしく感じてしまいます。
僕はスピッツの「Holiday」という曲の「もしも君に会わなければ もう少しまともだったのに」「もしも好きにならなければ 幸せに過ごせたのに」という歌詞がたまらなく好きなんですが、まさにそんな感じの映画を見ました。『ヴェノム』っていうんですけど。
— ビニールタッキー (@vinyl_tackey) 2018年11月2日
登場人物の関係性のアンサンブルがとにかく素晴らしく、エディとヴェノム、そしてアンとダン先生まで巻き込んだドタバタラブコメがまた見たい!ぜひ続編も作ってほしい!と強く感じる映画でした。
・『スパイダーマン3』
実写版ヴェノムが初登場したサム・ライミ監督版スパイダーマンの3作目。評価が分かれている映画ですが僕は見所もあって好きです。シンビオートの影響で最高にイキってるピーター・パーカー(トビー・マグワイア)と記憶喪失で本来のナイスガイに戻ったハリー(ジェームズ・フランコ)が最高です。ハリーとMJが一緒にご飯を作るシーンがキラキラしてて本当に好きです。本作でヴェノムを演じたトファー・グレイスもトム・ハーディのヴェノムを評価しているそうです。
・『ゾンビランド』
ルーベン・フライシャー監督の2009年の映画。ウディ・ハレルソン、ジェシー・アイゼンバーグ、エマ・ストーンという異様に豪華な出演陣で評価も高い作品なので見ようと思います。
・『ウォーリアー』
個人的にトム・ハーディ主演作品で一番好きな映画です。手負いの獣のようなトムハとその兄(ジョエル・エジャートン)が総合格闘技で戦うことになるスポーツドラマ。胸が熱くなり魂は揺さぶられ最終的に優しい気持ちになる作品です。
・魅力的な英国俳優リズ・アーメッド
リズ・アーメッドについては『ローグ・ワン』で初めて見て後に「英国出身でオックスフォード大卒でラッパーでもある」と聞いたときはすごい人なんだな!?となりました。とても知的で政治的発言も積極的に行う方です。